第三十九話 再会
その日も、ロッキーは依頼の合間に近くの公園を歩いていた。
「グレイ、そっちは池だから落ちないでね」
「わふ」
「返事はいいんだけど信じてないよ。この間川に落ちたの忘れてないからね」
「くぅん」
「気をつけような」
そう言って笑った時だった。
「ロッキー?」
聞き覚えのある声に振り返る。
褐色の肌、茶色い髪、赤いバンダナ。
肩には相棒のオウム。
「あ、ダン!」
採取の協力依頼で会って以来だった。
ダンはグレイを見て、少し目を細めた。
「久しぶりだね」
「久しぶり」
「ロッキー!ヒサシブリ!」
「ソルも久しぶり」
「へぇ、こいつが噂のグレイか」
「そう!グレイ、ダンだよ」
「わふ」
「挨拶上手だな」
近くのベンチに並んで座る。
グレイはロッキーの足元で丸くなり、ソルはベンチに降りて羽繕いをはじめた。
「最近どう?」
「依頼受けたり、配信したり、グレイと散歩したり…」
「最後が一番真剣そうだな」
「大事だから」
ダンは笑った。
「メレー連覇したやつが、普段はウルフと散歩楽しんでるの面白いな」
「そんなすごいことじゃないよ。運もよかったし」
「運だけで2回は勝てないぜ」
ダンの声が、少しだけ変わった。
柔らかいまま、芯がある。
一呼吸おいてダンが続ける。
「ロッキー」
「うん?」
「1回、俺と戦ってみる?」
ロッキーは目を瞬かせた。
「ダンと?」
「そう」
「なんで?」
「興味あるから」
ダンはさらっと言った。
「メレーの映像見た。あれ普通の対人戦じゃない、魔獣相手に長年戦ってきた動きだろ」
ロッキーは少し驚いた。
「わかるんだ」
「わかるよ」
ダンはソルを撫でる。
「俺も、そういうの嫌いじゃない」
「…でもダン強いでしょ?Ophiuchusのメンバーだって聞いたよ。すごい人だって」
「まぁね」
「即答だ」
「嘘つく理由ないし」
ロッキーは困ったように笑った。
けれど、嫌ではなかった。
むしろ少し胸が高鳴っていた。
「…やってみたいかも」
「なら決まりな」
「今?」
「さすがに公園でやったら怒られる」
「それはそう」
ダンは端末を取り出す。
「試合場を押さえる。観客なしで記録も非公開、軽くでいい」
「軽くで済む?」
「たぶん」
「たぶん?」
ロッキーが不安そうにすると、ダンは笑った。
「大丈夫、大怪我させる気はない」
「させる前提みたいに聞こえる」
「気のせい」
足元のグレイが顔を上げた。
「わふ」
ロッキーはグレイの頭を撫でる。
「グレイも応援してくれる?」
「わふっ」
「じゃあ、頑張る」
ダンはその様子を見て楽しそうに目を細めた。
「じゃあ後日、場所と時間送る」
「うん」
「ロッキー」
「なに?」
「手加減はしなくていいよ」
ダンは笑っていた。
でもその目は狩りの獲物を見る目ではなかった。
強い相手を見つけた者の目だった。
「俺も、ちゃんとやるからさ」
ロッキーは少しだけ息を呑み、それから頷いた。
「…わかった」
足元でグレイが尻尾を振る。
穏やかな公園の昼下がり。
けれどその日、ロッキーの前にまたひとつ新しい道ができた。




