第二話 ランカー協会
「うわ、すごい…」
パパウェルに着いたのは、夕方だった。
駅を出た瞬間、ロックは思わず足を止めた。
ベリスも人の多い町だと思っていたけれど、パパウェルはその比ではなかった。
石造りの大通り
空を走る小型輸送機
行き交うたくさんの人々
荷を運ぶ魔導車
巨大なモニターに映し出されるランカーたちの名前と動画
どこを見ても、山にはないものばかりだった。
「…緊張してきちゃったな」
ロックがぽつりと呟いた、その時だった。
「どけ!!」
怒鳴り声がした。
人混みが割れる。
男が1人、こちらへ向かって走ってくる。片手には皮袋を抱えていた。
その後ろから、誰かが叫ぶ。
「泥棒!誰か捕まえて!」
「え」
ロックが瞬きをする。
男はもう目の前だった。
避ければ、後ろの誰かにぶつかる。
そう思った瞬間、体が先に動いていた。
ロックは腰を落とす。
そして、ぶつかる直前男の腕を取った。
「なっ」
そのまま相手の勢いを殺さず、背中に乗せる。
山道で突っ込んでくる獣を避ける時と同じ、止めようとすれば潰される。だから、流す。
男の体がふわりと浮き、次の瞬間石畳に叩きつけられる。
「ぐっ…!」
皮袋が転がった。
ロックは慌てて男の腕を押さえる。
「…大丈夫ですか?」
「んなわけあるか!」
「兄ちゃんよくやった、そのまま警備隊が来るまで頼むぞ」
周りの誰かに言われ、ロックは男の腕を押さえ直した。
すぐに警備隊が駆け寄ってくる。
「君が取り押さえたのか?」
「は、はい」
「助かった。怪我は?」
「俺は大丈夫です」
ひったくりにあったらしい高齢の女性が、皮袋を抱えてお礼を言ってくる。
「ありがとうございます…!」
「いえ、気にしないでください」
女性に何度も頭を下げられて、ロックは照れたように笑う。
そして、改めて辺りを見回した。
「都会って、いきなりすごいこと起きるんだな…」
協会に行くのは明日にして、今日は近くの宿に泊まることにした。
何も知らないので宿屋という看板を手がかりに探す。
やっと見つけた部屋は少し狭かったが、ロックにとっては十分すぎるほどだった。
荷を下ろし、ベッドに転がると体がふわりと沈む。
「やわらかい…」
慣れない感触に、ロックは何度か手のひらで敷布団を押した。
山の小屋では、木製の寝台に藁や毛皮を敷いて眠るのが当たり前だった。
だからこの柔らかさは少し落ち着かなかった。
けれど、長い移動で疲れは溜まっていたらしい。
気づけばロックは、そのまま眠っていた。
起きた時には日は高く登っていた。
身支度と朝ごはんを済ませ、ロックは宿屋の店主に貰った地図を片手にランカー協会本部へ向かった。
珍しい街並みや魔導車に気を取られつつ、たどり着いたのは白い大きな建物だった。
自動開閉式の扉に驚きながらも中に入ると、
高い柱。
磨かれた床。
大きな受付。
広い階段
壁一面の掲示板には、依頼やランク表がびっしりと並んでいる。
建物の中には武器を持った者、派手な衣装の者、鎧を着込んだ者がいて、荷物を抱えた職員たちが忙しなく行き交っていた。
「ここが…」
ロックは小さく息を呑む。
それから受付へ向かった。
「あの、ランカーの登録をしたいんですけど」
受付の女性は慣れた様子で微笑んだ。
「新規登録ですね。身分証はお持ちですか?」
「あ、はい」
簡易身分証を差し出す。
いくつかの書類に名前を書き、顔写真を撮られ、魔力反応の確認を受ける。
しばらくして、薄い黒色の端末が渡された。
「こちらが協会端末です。xEdenというシステムが入っており、依頼の確認、バトル申請、報酬受け取り、ランク証明に使います。また、素材の採集に役立つ薬草図鑑や魔物図鑑など便利な機能も収録されています。魔導石が入ってるので充電は不要ですが、起動しなくなったらこちらにお持ち込みください。ランカーの証明書にもなりますので紛失しないようにしてください」
「はい!」
元気よく返事をして、端末を両手で受け取った。
画面には自分の名前が表示されている。
ロック・レオンハート 18
ランク:ルーキー
それだけで、少し胸が高鳴った。
初めて手に入れた機械に興奮して帰りそうになったが、目的を思い出して慌てて質問する。
「あの、依頼を受けるにはどうしたらいいですか?」
「協会経由の依頼のことでしたら、受注はブロンズランクからになります」
「…え」
ロックは固まった。
「…ルーキーでは…俺は受けられないんですか?」
「そうなります。個人依頼の受注は可能ですが、ルーキーランクの場合ほとんど依頼はありません」
「ブロンズになるには?」
「1vs1で行うランキングバトルで100勝する必要があります。レオンハート様はルーキーランクですので、同じルーキーランクの方と最低100試合していただくことになります」
「100…勝……」
ロックの肩がガクリと落ちた。
「バトルの受付は端末から可能です。サポート機能がついているので初めてでも理解しやすいとは思いますが、分からないことがありましたらお気軽に受付までお願いします。」
「…ありがとうございました。」
受付のお姉さんにお辞儀をしてトボトボと歩く。
「登録したらすぐに依頼が受けられると思ってたのに…100勝とか、時間かかっちゃうよ…」
思わずぼやいた、その時だった。
「なら、メレーに出たらいいじゃないか」
近くの壁にもたれていた男が、笑いながら声をかけてきた。
浅黒い肌のガタイのいい男で、腰には短剣が2本下がっている。
「めれー?」
「知らないのか?」
「うん」
「ここで毎月1回開催される乱戦イベントだ。参加資格はルーキーとブロンズのみ。参加者が100人以上集まれば開催される」
「乱戦…」
「そうだ。通常なら100勝しなきゃブロンズに上がれないが、ルーキーがメレーで優勝すれば一発でブロンズ昇格できる。」
ロックの目が輝いた。
「1回で!?」
「あぁ、今月の開催は決定済み。しかも明日だ」
「明日!?」
「賞金も出る。優勝賞金、10万x」
「10万…」
ロックは端末を握りしめた。
ブロンズになれる
依頼を受けられる
しかも賞金も出る
「参加したらどうだ?」
男はにやりと笑う。
「ちまちま100勝するより、よっぽど早いだろ?」
「うん!」
ロックはぱっと顔を上げた。
「参加する!」
男は少し驚いたように眉を上げ、それから笑った。
「そうこなくちゃ、受付は3階だ」
「ありがとう!行ってくるよ!」
ロックは勢いよく駆け出した。
その背中が階段の向こうに消えると、男の隣にいた別のランカーが呆れた顔をして笑った。
「お前も悪いやつだな」
「俺は本当のことしか言ってないぜ」
「ルーキーでメレーに出る奴なんて、ほとんどいねぇだろ。出てもブロンズの餌食になるだけだ」
「だからいいんだよ」
男は肩をすくめた。
「俺も明日出る。あぁいう何も知らない田舎者が混ざってくれた方が俺の勝つ確率が上がるだろ」
「ったく」
「明日勝てば10勝分だ。これでシルバーが近づく」
男はニヤリと笑った。
「ま、せいぜい派手に逃げ回ってもらうさ」
ランカー協会のランク分けはルーキーからレジェンドまで
ルーキー
ブロンズへの昇格条件、バトルで100勝
ブロンズ
シルバーへの昇格条件、バトルで100勝
シルバー
ゴールドへの昇格条件、バトルで100勝
ゴールド
プラチナへの昇格条件、バトルで100勝
プラチナ
ダイヤモンドへの昇格条件、バトルで100勝+2連勝
ダイヤモンド
マスターへの昇格条件、バトルで100勝+3連勝
マスター
レジェンドへの昇格条件、バトルで100勝+5連勝
レジェンド
これ以上のランクはない、最高地位




