第二十八話 ダン②
ギルドハウスに戻ると、ロッキーはラウンジの大きな机に採集品を広げた。
「これは売る分で…これは薬草納品、これはJr.に聞いて…こっちはビアンカかな」
ひとりでせっせと分けていると、玄関の方から声がした。
「ただいま」
「ただいま〜、あらロッキー帰ってたのね」
ビアンカとターニャだった。
「おかえりなさい」
「採集、どうだった?」
「たくさん採れました!」
「これ1人でとったの?すごい量ね」
ターニャが興味深そうに近づく。
「初めて協力依頼出したんですけど、来てくれた人がとてもいい人でした」
「誰が来たの?」
「ダンって人です、同い年で赤いバンダナ巻いたかっこいい人でした」
ロッキーの採取品をみていたビアンカの手が止まった。
「…もしかして、Ophiuchusってギルドのダン?」
「はい、褐色の肌で赤いバンダナしてて、肩に青と緑のオウムがいて、コンニチハ!とか喋るんですよ」
ターニャも目を丸くした。
「それ、間違いなくダンね」
「…有名な人なんですか?」
ビアンカは少し呆れたように笑った。
「有名どころじゃないわよ、Ophiuchusは強豪ギルドよ」
「強豪…」
「その中でもダンは、半年前に加入してかなり話題になったの」
ターニャが説明を引き継ぐ。
「Ophiuchusの加入条件、知ってる?」
「いえ」
「既存メンバーの1人を指名して、1対1で勝つこと」
「えっ」
ロッキーの手から鉱石がころんと転がった。
「入るだけで?」
「そう」
ビアンカが頷く。
「しかもダンが選んだ相手はOphiuchusのエース、無所属のランカーなんて普通は勝てないわ」
「…ダンさん、勝ったんですか?」
「もちろん勝ったのよ、それで加入したの」
ターニャが端末を操作して、当時の記事を見せる。
《新鋭ダン、Ophiuchus加入試験突破》
《対戦相手はOphiuchusのエース》
《赤いバンダナの実力者、ダイヤモンドランカーへ》
《探索系ランカーダン、強豪ギルド入り》
「ダイヤモンド…」
ロッキーは少し固まった。
ブロンズの自分から見れば、ずっとずっと上のランク。
「俺…そんなすごい人に協力してもらったの」
ビアンカは笑う。
「いくらで?」
「4時間4,000xです」
「安すぎるわね」
ターニャが苦笑する。
「ダイヤモンドランカーを4時間拘束して4,000xはかなりお得よ」
「でもダンも何も言わなかったし…」
「でしょうね」
ターニャはにこにこする。
「彼、面白い子好きそうだもの」
ロッキーは採集品の隣に置いたダークウルフの毛皮のことを思い出した。
「…あ、ただダークウルフが出て助けてもらって…毛皮を欲しがってたので渡しました。でも報酬はちゃんと払いました」
その言葉にビアンカが感心したように目を細める。
「ちゃんとしてるじゃない」
「Jr.に、そういうのはきちんとしろって言われたので」
「言うわね」
「言うわ」
ターニャとビアンカが同時に言った。
その時、奥からJr.がガレージから顔を出す。
「呼んだか?」
「ちょうどよかった」
ビアンカが言う。
「ロッキーってば今日ダンと採集してきたんですって」
「ダン?」
「Ophiuchusの」
Jr.の表情が変わる。
「…は?」
ロッキーは不安そうに見る。
「何かまずかったですか?」
「まずくはねぇけど」
Jr.は額を押さえた。
「お前、なんでそうさらっと大物引っかけてくんだよ」
「引っかけたわけじゃ…」
「ブロンズの協力依頼でダイヤモンドランカーが来るとか普通ねぇんだよ、同じギルドならともかく」
ターニャが笑う。
「ロッキーは何か持ってるわね」
ロッキーはますます困った顔になった。
「でもいいじゃない。Ophiuchusとの繋がりができたかもしれないわ」
「また誘っていいって言ってくれました」
3人が同時にロッキーを見る。
「…本当に?」
「はい、面白いからって」
Jr.はしばらく黙ったあと、ぼそっと言った。
「人たらし」
「え?」
「何でもねぇ」
ターニャは嬉しそうに端末を構えた。
「これは投稿していい?」
「えっ、何を?」
「#本日のロッキー 協力依頼でOphiuchusのダンを引き当てる、って」
「大ごとになりませんか?」
「なるわね」
「やめましょう」
ビアンカが笑い、Jr.が呆れ、ターニャが惜しそうに端末を下ろす。
ロッキーはよく分からないまま採集品を分け直した。
ただ、今日できた新しい繋がりが思ったより大きなものだったらしいことだけはなんとなく分かった。




