第二十七話 ダン
その日ロッキーは1人で採集に行く予定だった。
目的は森に生える薬草や花、川辺で採れる鉱石たち。
綺麗なものは売りに出せるし薬草は協会に納品できる。
鉱石の中にはビアンカやJr.が使えそうなものもあるから、そういうものは持ち帰ってそのまま譲るつもりだった。
「1人でも行けるけど…」
ロッキーは少し考えた。
「効率は悪そうだなぁ」
Aster Crownの皆は忙しい。
ポポは護衛任務。
ターニャさんは撮影。
ビアンカは納品用の装備制作。
Jr.はwildfoxの仕事。
ソロとヴィオは討伐依頼。
「協力依頼出してみようかな」
そう呟くとロッキーはxEdenを開いた。
xEdenには協力依頼ができるシステムがある。
人数制限がある依頼、どうしてもこなしたいけれど難易度が高い任務、あるいは依頼とは直接関係ないけれど人手が欲しい時。
ランカー同士が一時的に協力者を募集できる場所だった。
「えっと…採集を手伝ってくれませんか…っと」
端末を両手で持ち、ポチポチと入力していく。
「今日の9時から10時ごろ開始で、3〜4時間…募集は1人、報酬は…4,000x」
見直して、間違いがないことを確認して投稿する。
装備を整えていると、通知が鳴った。
《Dan(Ophiuchus)application》
「やった」
ロッキーはぱっと顔を明るくする。
「協力してくれる人いた」
ーーーーーーーーーー
指定した森の入口。
ロッキーが待っていると、1人の青年が歩いてきた。
褐色の肌。
灰色の目。
茶色の髪に、赤いバンダナ。
肩には青と緑の羽を持つオウムが止まっている。
「ロッキーだよな」
青年は軽く手を上げた。
「ダンだ、今日はよろしく」
「よろしくお願いします!」
ロッキーはぺこっと頭を下げた。
青年ーーダンは、気さくそうに笑う。
「そんなかしこまらなくていいぜ、19歳だろ?俺も19歳なんだ」
「…じゃあ…よろしく、ダンさん」
「ダンでいーよ」
「よろしく、ダン」
「おぅ、よろしくロッキー」
ロッキーの視線は、肩の鳥に向かう。
「あの、その鳥はダンの?」
「こいつはソル、探索の相棒だよ」
するとオウムが胸を張るように羽を揺らした。
「ソル!ダンノアイボウ!」
ロッキーの目が輝いた。
「え、可愛い、真似してる」
「オウムだからな、でも真似じゃねぇって本人は言い張ってる」
「ソル!マネッコシナイ!」
「ほらな」
ロッキーは嬉しそうに笑った。
「すごいなぁ、探索ってことは探し物が得意なの?」
「ああ、上から見てくれるし、匂いや魔力にも敏感だ、薬草探しにも役立つぜ」
「頼もしいね」
「だろ」
ダンは森の奥を見た。
「で、今日の目的ってなんなの?採集って言ってたけど」
「薬草と花と鉱石を集めたくて、綺麗なものは売りに出して、素材として使えそうなものは仲間に譲ろうかなって」
「Aster Crown用?」
「はい、ビアンカとかJr.が使えそうなら渡したくて」
ダンは少し目を細める。
「噂通りだな」
「噂?」
「お人好しって」
「えっ」
「褒めてる」
「ほんと?」
「半分は」
「半分…」
ロッキーは困ったように笑った。
ーーーーーーーーーー
森の中はまだ朝露が残っていた。
ソルが先に飛び枝から枝へ移る。
「ヒダリ!」
「左?」
ロッキーが見ると、苔むした岩の近くに白い花が咲いていた。
「あ、月白花だ」
「よく知ってるな」
「祖父に教わったんだ。乾燥させて粉末にすると鎮静剤に使えるよ」
「へぇ」
ダンはロッキーの手つきを見る。
根を傷つけず必要な分だけ採る。
ずいぶんと慣れている。体に染み込んでいる動きだ。
「森は慣れてるのか?」
「うん、小さい頃から森にはよく入ってた」
「だからメレーであんな動きできたのか」
「見てたの?」
「見てたぜ、面白かったよ」
ロッキーは少し照れた。
「ありがとうございます」
採集は順調だった。
薬草、花、鉱石。
ダンとソルが見つけ、ロッキーが分類する。
ロッキーが採り、ダンが周囲を警戒する。
相性は悪くなかった。
けれど、森の奥へと少し進んだ時だった。
ソルが急に鳴いた。
「ダン!クロイ!」
「下がれ」
ダンの声が変わった。
次の瞬間、茂みから黒い影が飛び出す。
ダークウルフだ。
ロッキーもすぐに反応した。
けれど、採集袋を持っていた分、一瞬だけ遅れた。
「っ」
牙が迫る。
その前に、ダンが動いた。
赤いバンダナが翻る。
短い踏み込みに重い一撃。
ダークウルフの体が横へ吹き飛び、地面に転がった。
「大丈夫か?」
「はい…ありがとうございます」
ロッキーは息を整える。
「不意を突かれた」
「いやいや、なかなかの身のこなしだったぜ、あの距離で避けに入れてた」
「でも間に合わなかった」
「そういう時は仲間がいればいいんだよ」
ダンは笑った。
「協力依頼、出して正解だったな」
「はい」
ダークウルフを確認していたダンが、ふと思い出したように言った。
「これ、貰ってもいいか?」
「え?」
「ダークウルフの毛皮ちょうど探してたんだよ」
「いい…けど」
「代わりに、今回の依頼料は無しでいい」
「え、払うよ」
「いや、素材貰うし」
「でも、依頼料は払います、これは別なので」
ダンが一瞬黙る。
そして、ふっと笑った。
「…変わったやつ」
「そう?」
「そうだよ」
「素材が必要なら持っていってください。でも今日は来てもらって助かったので、依頼料は別できちんと払いたい」
ロッキーは真面目にそう言った。
ダンはしばらくロッキーを見て、それから頷いた。
「じゃあ、ありがたく両方もらう」
「はい」
「本当に変わってる」
ダンは楽しそうに笑った。
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4時間が経つ頃には、袋はだいぶ重くなっていた。
森の入口へ戻ると、昼の光が少し傾き始めている。
「今日はありがとうございました、助かりました」
ロッキーが頭を下げる。
ダンはダークウルフの毛皮を肩に担ぎながら笑った。
「いや、こっちも楽しかったよ、ソルもな」
「タノシカッタ!」
ソルが羽をばたつかせる。
「ソルもありがとう」
「アリガト!」
ロッキーは少し迷ってから、端末を取り出した。
「…あの、xNestフォローしてもいい?」
「いいよ、俺もフォローしとくわ」
「ありがとうございます」
互いにフォローを済ませる。
ロッキーは嬉しそうに画面を見た。
そして、もう一度顔を上げる。
「また何かあった時に誘ってもいい?」
ダンは少しだけ驚いた顔をしたあと、にっと笑った。
「いいぜ」
「ほんと?」
「あぁ、お前面白いからな」
「面白い…」
「褒めてる」
「半分?」
「全部」
ロッキーは笑った。
「じゃあ、またお願いします」
ダンは軽く手を振る。
「またな、ロッキー」
肩のソルも真似をする。
「マタナ!ロッキー!」
ロッキーは採集袋を背負い直し、ギルドハウスへ向かって歩き出した。




