第二十六話 お気に入りの場所
ある日の夕方。
バイオレットがふいに言った。
「ロッキー、明日予定はある?」
ロッキーは食後のお茶を飲みながら顔を上げる。
「ないけど」
バイオレットはさらっと言った。
「明日、私のお気に入りの場所に連れてってあげる」
一拍。
「…いいの?」
声が裏返る。
ターニャが向こうで吹きそうになってる。
「ええ」
「行く!」
即答。
Jr.がぼそっと呟く。
「おもしろそうだな」
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ーー翌朝
ガレージに行くと、バイオレットはすでに準備していた。
真っ黒な反重力式の浮遊バイク。
滑らかな機体に紫のライン。
やたらかっこいい。
「うわ…ヴィオこれ乗ってるの?」
「ええ」
ヘルメットを渡される。
「はい」
「ありがとうございます」
その横で、Jr.が機体を軽く叩いた。
「整備しといたからな」
「ありがとう」
バイオレットが短く返す。
Jr.は口角を上げた。
「いや、ごゆっくり〜、けけ」
バイオレットがじろり。
「?」
ロッキーだけ意味が分かっていない。
「あの、バイク乗るの初めてで…どう乗ったらいいのか」
「後ろ」
「落ちないかな」
「落とさない」
さらっと言われて、ロッキーちょっと赤くなる。
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エンジン始動、バイクが浮かび上がる。
「わ、わぁぁぁ!!」
びっくりしてバイオレットの背中につかまるロッキー。
「そんなに掴まなくても落ちないわ」
「いや落ちる!」
「…好きにしなさい」
ほんの少し、ヴィオが口元ゆるむ。
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1時間後、辿り着いたのは、写真で見たあの湖。
実物はもっと綺麗だった。
「…すごい」
ロッキー、しばらく立ち尽くす。
「写真よりすごい」
「でしょ」
2人で写真を撮る。
ターニャに教わった通り、光を見て、構図を考えて。
そのあと岩場に座って簡単な昼食を食べる。
パンと燻製肉と果物。
いつもと同じものだったが、自然の中で食べる食事はちょっと特別な感じがする。
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その時、バイオレットの耳がぴくっと動いた。
極小の機械音。
(…Jr.ね)
(やけに整備したがったと思ったら、小型ドローンでも忍び込ませたのかしら)
しかし表情は変えない。
「ねぇ」
ロッキーが景色を見ながら言う。
「ほんと綺麗だね」
「えぇ、そうね」
珍しく、バイオレットが柔らかく笑う。
ロッキーがその顔にちょっと見惚れる。
「この写真、部屋に飾るよ」
「本当?」
「うん、今日の記念にさ」
バイオレットがほんの一瞬黙る、それから小さく。
「…嬉しい」
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ーー夕方
ギルドハウスに戻ると、ラウンジにターニャ、ポポ、Jr.、ビアンカがいた。
「楽しかったかしら?」
ターニャが聞く。
「はい!すごく!」
ロッキーは大興奮だった。
「ヴィオもバイクの運転うまくて、景色もすごくて…」
撮った写真を見せ始める。
「この写真見てくださいターニャさん、ほら!」
その間、バイオレットは周囲を見渡す。
ポポとJr.とビアンカ。
やけにニヤニヤしている。
確信。
バイオレットが静かに言う。
「ポポ、Jr.、ビアンカ、ちょっとこっち来て」
3人が固まる。
「え、どうして」
「いいから」
ビシッと言い放つ。
3人は会議室へ連行された。
その様子にロッキーはきょとんとした。
「どうしたんだろう急に」
ターニャは涼しい顔をしていった。
「…自業自得よ」
「?」
「それよりもっと見せてくれる?」
「もちろん!」
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ーー会議室
扉がばたんと音を立てて閉まる。
Jr.は冷や汗をたらしている。
「いや、ちょっと待て、盗撮じゃねぇ、記録で…」
「俺は反対したネ」
「嘘つきなさい」
ビアンカは右手を上げる。
「私は可愛いと思っただけ!」
バイオレットはにっこりとして言う。
「全員、座って」
ポポ&ビアンカ&Jr.(終わった)
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ーーその頃、ラウンジでは
「この写真、ヴィオが撮ってくれたんですよ」
「まあ素敵」
「部屋に飾るんです」
「そう、今日の記念に?」
「はい!」
ターニャは優雅にお茶を飲みながら思う。
(青春っていいわねぇ)




