第十七話 1ヶ月
購入したギルドハウスは、管理こそされていたものの長く使われていなかったらしい。
部屋の壁紙、古くなった水回り、ガレージの床、壊れた庭の柵、訓練場の除草にetc.
ターニャさんいわく、
「住めなくはないけど、長く使うならちゃんと直した方がいいわね」
とのことだった。
業者にリフォームを頼み、入居は1ヶ月後。
その間にギルド設立の申請も済ませ、あとはランカー協会評議会の認可を待つだけになった。
そして俺は、その1ヶ月の間にみんなに付いて色々学ぶことになった。
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ポポは主に護衛任務をやっている。
鍛えられた肉体で前線に立ち商隊や要人を守るのが得意らしい。
「守るのは得意ネ」
ポポは笑ってそう言った。
実際、一緒に荷馬車の護衛へ行った時魔物が飛び出してきても、ポポはまるで壁みたいに前に立って攻撃を受けても動かなかった。
「ロッキー、後ろ見るネ」
「はい!」
俺が荷台側を確認している間に、ポポは正面の魔物を1体、拳で弾き飛ばしていた。
すごかった。
そんなポポには大好きなものが1つある。
ギャンブルだ。
「人生には勝負が必要ネ」
そう言って、護衛任務が終わった夜カジノに連れて行ってくれた。
俺は初めて見る煌びやかな場所にびっくりした。
回る黒と赤のルーレット
カードを配るディーラー
山みたいに積まれたチップ
「すごい…」
「楽しいヨ」
ポポはそう言って笑った。
俺も少しだけ遊ばせてもらった。
勝ったり負けたりしたけど、楽しかった。
だからその夜、xNestに投稿した。
《ポポにカジノに連れて行ってもらいました!キラキラしてて楽しかったです!》
翌朝、ポポはターニャさんに怒られていた。
「ロッキーをカジノに連れて行かない!」
「少しだけネ」
「少しでも!」
「楽しんでたヨ?」
「そういう問題じゃない!」
俺も横で正座した。
「ごめんなさい…」
「ロッキーは悪くないわ、ポポが悪い」
「ひどいネ」
ポポは笑っていた。
怒られてもなんだか楽しそうだった。
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ビアンカは近接戦闘が得意だ。
小柄なのに動きが速くて、踏み込みが鋭い。
最初に訓練を見た時俺は思わず声を出した。
「すご…」
槍だけで、相手の体勢を崩していく。
それだけじゃなく、ビアンカは服や装備にも詳しかった。
「ロッキー、その服山歩きにはいいけど街の任務には少し目立つわね」
「そうですか?」
「あと、素材が弱い。防刃性も魔力耐性も低いわ」
「防刃性…」
「今度、一緒に見に行きましょう」
そう言ってビアンカは俺のマントの裾をつまんだ。
「メレーの記念マントはいいけど、普段使いにはもったいないわね」
「ですよね、でも嬉しくて」
「ふふ、そういうところ可愛いわ」
ビアンカは優しい。
でも服選びの時はかなり厳しかった。
「これはだめ、高いだけ」
「これは?」
「悪くないけど、ロッキーには重すぎる」
「これは?」
「色が似合わない」
「色も大事なんですか?」
「大事よ」
そうして俺は初めてちゃんとした服を買った。
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ソロは討伐任務が多い。
静かで、あまり喋らない。
でも戦い方を見ているととても綺麗だった。
無駄がなくて速い。
「ロッキー」
「はい」
「足音が大きい」
「え」
「森では気配を消せている、でも街道や石畳では癖が出る」
「そうなんですね…」
「直せる」
ソロはそう言って俺に歩き方を教えてくれた。
厳しいけど、言葉は短く怒鳴らない。
できた時はほんの少しだけ頷く。
「悪くない」
その一言がなんだか嬉しかった。
あと、ソロは東方の剣術や忍びと呼ばれる存在の技に詳しいらしい。
たまに変な道具を作ったり、買ったものを見せてくれる。
「これは煙玉だ」
「へぇ」
「かっこいいだろう」
「はい、かっこいいです」
そう答えるとソロは満足そうだった。
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Jr.はマシン関係の依頼と整備の仕事が多い。
ギルドの仕事とは別にwildfoxの仕事もあるからいつも忙しそうだ。
それに、11歳なのに俺よりずっと大人みたいだった。
「そこ違う、工具は使ったら戻せ」
「はい」
「そのネジは規格が違う」
「はい」
「依頼書は最後まで読め」
「はい…」
Jr.は口が悪い。
でもかなり面倒見がいい。
俺が変な依頼を受けそうになるといつの間にか横から見ている。
「これ受ける気か?」
「はい、報酬よさそうで」
「…よく見ろ、移動費自腹って書いてあんだろ」
「あ」
「あと納品期限が短すぎる、新人狙いの地雷だ」
「地雷…」
「覚えろ」
そう言いながら、Jr.は依頼書の見方を教えてくれた。
厳しいけど、ありがたい。
たまに俺がすごいと言うと、少しだけ照れる。
「Jr.さん、ほんとに何でも知ってますね」
「まあな」
「すごいです」
「…るせぇ」
怒っているように見えたけど、ポポが言うには照れているらしい。
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ターニャさんはヒーラーでありxTuberだ。
絶景を巡って動画や写真を撮る自然系の配信者で、ファンも多くxNestでもかなり有名らしい。
「ロッキー、今度の休み朝焼けの丘に行かない?」
「朝焼けの丘?」
「日の出が綺麗なの、あなた絶対好きよ」
「行きたいです!」
ターニャさんは嬉しそうに笑った。
そして本当に連れて行ってくれた。
夜明け前の丘で、冷たい空気の中空が少しずつ明るくなる。
その景色を見て俺はしばらく何も言えなかった。
「綺麗…」
「でしょう?」
ターニャさんはカメラを構えながら言う。
「こういう景色をみんなに見せたいの」
その気持ちが少しわかる気がした。
ターニャさんは人を癒すのも、景色を届けるのも上手だった。
ただし、俺の投稿は全部見ている。
「ロッキー、昨日の写真少し暗かったわ」
「えっ」
「でも構図は良かった」
「ありがとうございます?」
「次は光の向きを意識しましょう」
なぜか投稿指導も始まった。
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バイオレット…ヴィオは速い。
とにかく速い。
討伐任務で一緒になった時、俺はヴィオを見失った。
「え、どこ」
次の瞬間には魔物が倒れていた。
紫の髪が少し遅れて揺れる。
紫電、その呼び名の意味がようやくわかった。
「ロッキー」
「はい」
「目で追おうとしすぎ」
「え?」
「空気の流れを見るの」
ヴィオはあまり多くを言わない。
でも、一言一言が鋭い。
訓練では何度も転がされた。
「もう一回」
「はい!」
「遅い」
「はい!」
「でも、悪くない」
その一言で俺はまた立てた。
ヴィオは怖い時もある。
でも、不思議と嫌ではなかった。
ちゃんと俺を見てくれている気がしたから。
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1ヶ月、俺は色んな依頼について行った。
護衛、採集、討伐、整備、撮影、調査。
知らないことばかりだった。
でも、知らないことを教えてくれる人たちがいた。
俺は少しずつランカーとしての歩き方を覚えていった。
そしてその間にギルドハウスのリフォームは着々と進み、ギルド設立申請の承認を待つ日々が続いていた。




