第十一話 ギルド③
みんなに続いて酒場に入った瞬間、ロックは少しだけ足を止めた。
木のテーブル
賑やかな話し声
壁に並ぶ古いランカーたちの写真
その奥の席で、銀髪の女性が片手を大きく振っていた。
「ヴィオ!こっちこっち!」
銀色の髪と青い瞳がきらきらとしている。
「ターニャ」
ターニャは立ち上がると、ほとんど駆け寄るようにこちらへ来た。
そして、ロックの前でぴたりと止まる。
「…本物だわ」
「え?」
「ロック・レオンハートくん」
「は、はい」
ターニャは両手を胸の前で合わせた。
「会いたかったの!」
距離が近い。かなり近い。
ロックは思わず半歩下がった。
「あの…初めまして」
「初めましてじゃないわ。私はもうあなたの黒金草投稿にも、お団子投稿にも、メレー優勝肉投稿にもコメントしてるもの」
「えっ」
Jr.が呆れた顔をする。
「ガチじゃねぇか」
「言った通りネ」
ターニャはにこにこしたまま自己紹介する。
「ターニャよ、ヒーラーで、xTuberもやってるの。xTubeって知ってるかしら?動画投稿サイトでね、私は絶景巡りとか、自然の中を歩く動画が多いかしら」
ロックの目が少し輝く。
「自然の動画?」
「そう!崖の上から朝日を撮ったり、森の奥の湖に行ったり、滝の裏側まで歩いたり」
「すごい…見たいです」
ターニャの顔がぱっと明るくなる。
「見る?今見る?人気動画再生リスト送るわ!」
ビアンカが笑う。
「ターニャ、落ち着いて」
「落ち着いてるわよ」
「落ち着いてる人は初対面で再生リストを送らないわ」
「とりあえず、席に座ろうぜ」
ターニャのはしゃぎようをみて呆れたJr.が言う。
ターニャは少しも悪びれず、ロックに自分の隣に座るよう手招きした。
「座って座って、聞いたわよギルドのこと」
ロックはおずおずと座り、反対側に座ったJr.に耳打ちする。
「危険な人…ですか」
「ある意味そうかもな」
「えっ」
「…お前のマニアだよ」
「マニア…」
ターニャを見るとニコニコしてこちらをみている
「えっと…ターニャさんは、反対じゃないですか?」
「反対?」
ターニャは目を丸くしたあと、笑った。
「するわけないじゃない」
「ほんとですか?」
「むしろ大歓迎よ」
ターニャはぐっと身を乗り出す。
「だってあなた強いでしょ?山育ちでしょ?採集上手でしょ?森の歩き方も知ってるでしょ?それに投稿の写真、構図が素朴なのにすごく良いの、自然を見る目があるわ」
「写真…?」
「お団子の写真は普通だったけど、薬草の写真はよかった」
「お団子は普通…」
ターニャはさらに続ける。
「それにメレーの動きも見たわ、地形の使い方が上手いのよね、ステージの端を怖がらないし、相手の死角に入るのが自然!山の子って感じ」
ロックは驚いたように瞬きする。
「そんなところまで見てたんですか?」
「もちろん、通しで5回見たわ」
「5回」
「切り抜きも見た」
「切り抜き?」
ターニャは楽しそうに言った。
「本物のルーキーがメレー制覇、しかも本人は賞金で肉食べてる、そりゃ話題になるわ〜」
ロックは少し照れながら頭をかく。
「…なんか、すみません」
「そこがいいの」
ターニャは満足そうに頷く。
「守りたい素朴さ」
Jr.がぼそっと言う。
「やっぱ怖ぇな」
「聞こえてるわよ、Jr.」
「聞こえるように言った」
ターニャは気にせず、ロックに笑いかけた。
「ギルドに入ってほしいわ、私は賛成」
ロックは少しだけ背筋を伸ばした。
「ありがとうございます」
「ただし」
そう言ってターニャは指を1本立てる。
「騙されやすそうだから、変な依頼は一人で受けないこと」
「…はい」
「怪我したらすぐ言うこと」
「はい」
バイオレットが静かに口を挟んだ。
「ターニャ」
「なに?」
「近い」
ターニャはロックとの距離を見て、少しだけ下がった。
「ごめんなさい、つい」
ロックは困ったように笑う。
「大丈夫です、びっくりしただけなので」
「ほら、いい子」
Jr.が頭を抱える。
「だから近ぇんだよ」
ポポが愉快そうに笑う。
「これで全員賛成ネ」
ソロも頷く。
「異論はない」
ビアンカがグラスを掲げた。
「じゃあ、まだ名前のないギルドの新入りに乾杯?」
Jr.が言う。
「まだ登録もしてねぇけどな」
ターニャはにこっと笑った。
「いいじゃない、始まりなんていつもそんなものよ」
ロックは目の前に集まった人たちを見る。
昨日まで知らなかった人たち
今日、助けてくれた人たち
ご飯を食べて、話して、笑ってくれる人たち
そして、自分を仲間にしようとしてくれている人たち
「…よろしくお願いします」
ロックは少し緊張しながら、でも嬉しそうに言った。
ターニャがすぐに笑う。
「こちらこそ、ロッキー」
「ロッキー?」
「ロックだから、ロッキー、だめ?」
ロックは少し考えて、ふにゃっと笑った。
「いえ、なんかいいですね」
その瞬間、ターニャは胸を押さえた。
「かわいい…」
バイオレットが無言でターニャの肩を掴む。
「落ち着いて」
「無理」
Jr.が小さく笑った。
「こりゃ大変なの拾ったな」
「楽しくなるネ」




