表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Aster Crown 〜100勝するのが面倒で100人乱戦に出たら優勝して、最強の仲間ができました〜  作者: 辛子高菜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/113

第百七話 星の環




その日の依頼は思ったより長引いた。

街道沿いに出る小型魔獣の追い払い。

数は少ないと聞いていたのに、奥に巣があって結局かなり広い範囲を歩き回ることになった。

それでも、依頼そのものは無事に終わった。

夕方の街道をロッキーとバイオレット、それからグレイが並んで歩いている。

日が傾いて、道の端の草まで金色に見えた。


「今日の依頼も大変だったねぇ」


ロッキーが腕を上げて伸びをする。


「でも、グレイも活躍したね。えらいね」


「わふっ」


グレイは誇らしげに尻尾を振った。

今日のグレイは、森の奥へ逃げようとした魔獣をうまく回り込んで追い払っていた。

ロッキーの「待て」も「追え」もちゃんと聞いたし、最後には依頼主から報酬とは別に干し肉まで貰っている。

グレイにとってはかなりいい日だった。

ロッキーはその頭を撫でる。


「よかったねぇ、あとでちゃんと食べようね」


「わふ」


隣を歩くバイオレットはいつもの無表情で報酬袋を指先で弄んでいた。


「…悪くなかったわ」


「ヴィオもかっこよかった」


バイオレットは答えない。

代わりに、ロッキーの方を見もせずに言った。


「…あなたは喋りすぎ」


「えー」


「疲れない?」


「楽しいから平気」


その返事にバイオレットはほんの少しだけ呆れたように息を吐いた。


「変なの」


「ヴィオに言われたくないなぁ」


ロッキーが笑う。

グレイは2人の間を機嫌よく歩いていた。

そうして街へ入る頃には、空は夕焼けで柔らかく染まっていた。


買い物帰りの人。

屋台の匂い。

仕事終わりの人々のざわめき。

いつもの時間、いつもの街。


その中で、ひとつだけ不自然に白い場所があった。

街角に人だかり、白い服を着た男女が通行人にチラシを配っている。

胸元には金の輪の中に星が浮かぶような意匠のネックレス。


ロッキーは足を止めた。


「なんだろ」


バイオレットは一瞥しただけだった。


「勧誘」


「へぇ」


「行くよ」


「ちょっと見るだけ」


「面倒」


そう言いながらも、ロッキーが立ち止まったのでバイオレットも仕方なく足を止める。

明らかに面倒くさそうだった。

白い服の女がにこやかに近づいてきた。


「祝福を」


柔らかな声だった。

両手でチラシを差し出してくる。


「星の環です。よろしければ、お読みください」


「星の環…?」


ロッキーは不思議そうにそれを受け取った。

女は変わらず穏やかに微笑んでいる。


「誰もが手を取り合え生きていける世界を目指しています。強い人も、弱い人も、同じ星の下にある家族ですから」


「へぇ…」


ロッキーは素直にチラシを見る。


白い紙に金の輪と星。

大きな文字でやさしそうな言葉が並んでいた。


みんな笑顔に。

手を取り合って。

平等な世界へ。


その下には集会、食事配布、相談会の予定が並んでいる。


「なんかいいな」


ロッキーがぽつりと言った。


「宗教とかあんまり知らないけど、笑顔とか平等とか、優しくて平和だ」


その時だった。

別の男が人だかりの向こうから静かに歩いてきた。


白い服に短く切り揃えた黒髪、眼鏡、整った笑顔。

やわらかそうに見えるのにどこか張りつけたような印象だけが残る顔。

男はロッキーの前で立ち止まり、丁寧に一礼した。


「ご興味を持っていただけたようで嬉しいです」


ロッキーは少し慌てて顔を上げる。


「あ、はい…なんか、いいなって思って」


「ありがとうございます」


男の笑顔は崩れない。


「私はノア・シュタインと申します」


「俺は…」


「ロック様ですね」


「え、知ってるんですか」


「もちろんですとも、先日のギルドバトルお見事でした」


「いやぁ…負けちゃったし」


「そちらはバイオレット様」


「……」


「でも、知ってもらえてるなんて嬉しいかも」


ロッキーが照れると、ノアは微笑んだ。


「あなたのように弱くても諦めずに立ち上がる方は素晴らしい。世の中は強いものが弱いものを搾取しています。私たちは弱いもの同士手を取り合って生きて行くことを信条としておりますゆえ、あなたはきっと相性が良い」


その言い方が妙に自然で、ロッキーは少し照れくさくなる。


「そういうものなんですか?」


「えぇ」


ノアは静かな声で言う。


「それに、苦しみを知っている人ほどやさしさに気づけるものですから」


ロッキーは一瞬だけチラシを握る手に力を入れた。

バイオレットは横であからさまに面倒そうな顔をしている。

ノアはそんな2人を見て、少しだけ笑みを深くした。


「もしご興味があるようでしたら、いつでもご連絡くださいね」


そう言って小さな白いカードを差し出す。


「伺います」


ロッキーはそれを受け取った。


カードには金の輪と星の印、ノアの名前、そして連絡先が簡潔に書かれている。


「…わざわざ来てくれるんですか?」


「えぇ、迷いの中にいる方のもとへ手を差し伸べるのが私たちの役目ですから」


ロッキーは少しだけ目を丸くした。


「親切なんですね」


「常にそうありたいと思っています」


ノアの笑顔はやっぱり綺麗だった。

綺麗すぎて少しだけ作り物っぽい気もしたけれど、その時のロッキーはそこまで言葉にできなかった。

バイオレットが短く言う。


「もういい?」


ロッキーは慌てて頷く。


「あ、ごめん」


ノアは最後にもう一度だけ一礼した。


「祝福を、ロック様」


「…あ、はい」


ロッキーが曖昧に返すと、ノアは何事もなかったように次の通行人の方へ向かった。

白い服の人々は変わらず笑顔でチラシを配っている。

夕方の街角でその光景だけが妙に浮いて見えた。

ロッキーは歩き出してからもう一度カードを見た。


「なんか不思議な人だったね」


「そう」


「…ヴィオはああいうの嫌い?」


「好き嫌いの話じゃない」


「じゃあ何」


「近づきたくない」


ロッキーは少し笑った。


「直感?」


「うん」


「でも、食事配ったり相談会したり、いいことしてるみたいだよ」


ロッキーはそれ以上は言わず、手の中のカードを何となくポケットへしまう。

グレイがその横で軽く鼻を鳴らした。


「わふ」


「グレイもそう思う?」


「わふ」


「どっちなんだろうねぇ」


ロッキーは笑う。

バイオレットは答えない。


夕方の街角ではまだあの白い人たちが笑っていた。


「祝福を」


その声だけが妙にきれいに耳に残った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ