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Aster Crown 〜100勝するのが面倒で100人乱戦に出たら優勝して、最強の仲間ができました〜  作者: 辛子高菜


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第百二話 角ウサギ



グレイの訓練は何日か続いた。

最初は戸惑っていたグレイも、少しずつ覚えていった。


「待て」


ロッキーが手を出すと、グレイはその場でぴたりと止まる。

尻尾は振っている。

今すぐ飛びつきたいのは分かる。

でも、動かない。


「…よし」


「わふっ!」


グレイは嬉しそうにロッキーの胸へ飛び込んだ。


「よしって言った瞬間の勢いがすげぇな」


Jr.が腕を組んで言う。


「ちゃんと待てたよ」


「そこはえらい」


次は伏せ。


「伏せ」


ロッキーが言うとグレイは前足を伸ばしてすぐに地面へ伏せた。

耳だけがぴくぴく動いている。


「完璧じゃん」


「元々頭いいからな」


Jr.は淡々と言う。


「ちゃんと教えればこいつは覚える」


ロッキーは少しだけ照れたように笑った。


「グレイすごいね」


「お前もちゃんとしてる」


「え、俺も?」


「主がちゃんとしなきゃ、従魔は覚えねぇよ。少なくとも自分より上だと思ってなきゃ動物はいうことを聞かねぇ」


「…グレイ、俺のことちゃんと上と思ってるんだ」


「わふ」


噛んでいいもの、ダメなものも、少しずつ覚えた。

革布や訓練用のロープには思い切り噛みついていい。

でも、人の手、服、荷物には噛まない。

遊びたくなった時は袖や裾を引っ張るのではなく、訓練用の革布をくわえて持ってくる。


「わふ」


そうやって足元に置くグレイを見て、ロッキーは毎回少し感動した。


「持ってきたの?遊んでほしいの?」


「わふっ」


「えらい…」


「泣きそうになるな」


「だって…」


「まだ基礎だぞ」


「でも偉いじゃん」


「偉いけどな」


Jr.がそう言うと、グレイは嬉しそうに尻尾をふった。




ーーーーーーーーーー




訓練の成果を試す機会は思ったより早く来た。

近郊の農村から、害獣退治の依頼が出たのだ。

畑を荒らす小型の魔獣が数匹。

人を襲うほど凶暴ではないが、素早く、夜のうちに畑を食い荒らして逃げる。

依頼自体は難しくない。

ただ、ロッキーは内容を見た時ふとグレイを見た。


「…これ、グレイも一緒に行けないかな」


グレイは足元で尻尾を振っている。

Jr.が横から依頼書を覗き込む。


「いいんじゃねぇの」


「ほんと?」


「追い込みの練習にはちょうどいい。相手も小型だし、命令を聞けるか試せる」


「危なくない?」


「危なくならねぇように、お前が止めるんだろ」


ロッキーは少し黙った。

それから、頷く。


「…うん。やってみる」


Jr.はグレイを見る。


「グレイ」


「わふ」


「これは遊びじゃねぇぞ」


グレイはよく分かっていない顔をしつつ、なぜか真剣そうに座った。


ロッキーがその頭を撫でる。


「一緒に頑張ろうね」


「わふっ」




ーーーーーーーーーー




依頼先の畑は村の外れにあった。

夕方近く、風は穏やかで土の匂いがする。

畑の端には、食い荒らされた葉と掘り返された跡がいくつも残っていた。


「角ウサギだな」


Jr.が足跡を見る。


「つのうさぎ?」


ロッキーが聞く。


「ウサギっぽい魔獣、足が速くて角で畑掘る。放っておくと増える」


「かわいい?」


「畑荒らす側からしたら可愛くねぇよ」


「そっか」


グレイは地面の匂いを嗅いでいた。

鼻先がぴくぴく動く。

いつもの甘えた顔とは違う。

獣の顔だった。

ロッキーは少しだけ息を呑む。

グレイはやっぱりシルバーウルフなのだ。


「グレイ」


ロッキーが呼ぶ。


グレイはすぐに顔を上げた。


「待て」


グレイはその場に座った。

畑の奥で、がさりと音がする。

ロッキーの肩が少し揺れた。

でも、グレイは動かなかった。

Jr.が低く言う。


「いい、ちゃんと聞いてる」


もう一度、草が揺れる。

茶色い影が飛び出した。

角ウサギが1匹、続けて2匹。

グレイの耳が立つ。

体が前に出かける。


「待て」


ロッキーがはっきり言った。

グレイは止まった。

前足に力が入っている。

追いたい、飛び出したい。

それでも、ロッキーの声で止まっている。

ロッキーは喉の奥が熱くなるのを感じた。


「…えらい」


「まだだ」


Jr.が言う。


「逃げ道を見ろ」


畑の向こうには村人たちが張った簡易ネットがある。

角ウサギをそちらへ追い込めばいい。

ロッキーは息を吸った。


「グレイ」


グレイがロッキーを見る。


「追え!」


その瞬間、グレイが地面を蹴った。

銀色の体が低く走る。

速い、前よりずっと速い。

ただ突っ込むのではなく角ウサギの横へ回り込む。

正面から襲うのではなく逃げ道を狭める。


「うまい」


Jr.が呟いた。

グレイは吠えた。


「わふっ!」


角ウサギたちが驚いて方向を変える。

その先にはネット。

1匹、2匹と追い込まれていく。

だが、最後の1匹だけが横へ抜けた。

畑の外へ逃げる。

その先には様子を見に来ていた村の子どもがいた。


「グレイ、止まれ!」


ロッキーの声が飛ぶ。

グレイはぴたりと止まった。

ほんの少し前まで走っていた体が、土を削りながら止まる。

角ウサギだけが横を抜けようとする。


「威嚇!」


グレイは低く唸る。


角ウサギはその声に一瞬ひるみ、進路を変えた。

その先でJr.が網を投げる。


「よし」


捕獲。

ロッキーは大きく息を吐いた。

自分でも気づかないうちに手が震えていた。


「グレイ…」


グレイは伏せたまま、ロッキーを見ている。

次の命令を待っている。

ロッキーは胸がいっぱいになった。


「よし!」


その言葉を聞いた瞬間、グレイは弾かれたようにロッキーへ駆け戻った。


「わふっ!」


ロッキーはしゃがみ込み、グレイを抱きしめる。


「すごい!すごいよグレイ!」


「わふ、わふっ」


「ちゃんと待てたし、止まれたし、威嚇もできた!」


グレイは嬉しそうに尻尾を振る。

Jr.が網を片づけながら近づいてきた。


「初めてにしちゃ上出来だな」


ロッキーが顔を上げる。


「ほんと?」


「あぁ」


Jr.はグレイを見る。


「追い込みも悪くなかった。最後、子どもの方に突っ込まなかったのもいい。命令を聞けた」


グレイがJr.を見る。


「わふ」


「褒めてる」


「わふっ」


「調子には乗るな」


ロッキーは笑った。


村人たちも畑の様子を見て、ほっとした顔をしている。


「助かりました」


「その子、賢いですねぇ」


そう言われて、ロッキーは少し誇らしげにグレイの背を撫でた。


「はい、すごく賢いんです」


Jr.が横でぼそっと言う。


「親バカ」


「いいじゃん」


「まぁ、今日くらいはいいけどな」


ロッキーはグレイを見た。

少し逞しくなった体。

伸びた鼻先。

鋭くなった牙。

それでも、ロッキーの声を聞いてくれる目。

怖がる必要なんてなかった。

ちゃんと教えればグレイは応えてくれる。

ロッキーもちゃんと主になれる。


「グレイ、これからも一緒に頑張ろうね」


グレイは元気よく鳴いた。


「わふっ!」


その声は、前より少しだけ頼もしく聞こえた。




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