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消えた女子生徒

 では消えた女子生徒は何だったのか?本当にみんなの前で忽然と消えたのか?それとも本当の幽霊だったのか?監視カメラには写ってなかったのか?それがこの事件の核心だろう。だがそんなものは勝手に人間がこさえた『謎』なのだ。客観的視野があればそんなもの、謎でも何でもないのだ。


「北門って開けられないんじゃないんだね」


 真琴が自分の髪をなでながらそうつぶやいた。髪を結んである派手な色のリボンが鬱陶しい。校則違反じゃないのか、それ。


「錆びてないし、開けてもギーギーいわないわね。使ってるって感じね」

「じゃあいったい何のために使うのよ」


 千佳の感想に妃乃が食って掛かった。おまえも少しは頭を使え、と俺は心の中で思った。いや思っただけだからな。


「タケノコとか採りに先生が門からコッソリ出るとか」

「イヤミ、ふざけんな!なわけねーだろ!」


 三人の女子から怒られてる。だがまあ譲二の考えもアリと言えばアリだ。この時季、雑木林のなかにある竹林には、タケノコが山ほど生えまくっているだろう。アツアツのご飯に採れたてのタケノコの煮つけやタケノコご飯。想像するなあ。ああ腹減ってきちゃった。いやそうじゃないぞ、達樹。なに考えてんだ。


「さて、この門は誰が、なんのため使うか。それも頻繁にじゃなく、ごくたまに、だ」

「わけわかんないよ!ちゃんと説明しなさいよ!」

「ああわかったわかった。いいか、ちゃんと説明するからな。運動部員が見たのは確かに女子生徒だ。そしてこの門を開け、この門から出て行った。すぐそこからすごい藪だから、急に姿が消えたように見えたんだ」

「ちょっと待ってよ!この外って雑木林でしょ!道なんてないのよ?」


 みんなイライラしているようだった。たしかに理解できないってのはイライラするものだ。まあ俺がちゃんと説明しないからだけどな。


「道はないけど、この薮のむこうには墓があるんだ」

「げっ」


 みなホラー小説を読んだような顔になった。まあ学校の近くに墓があるのは定番だからな。


「驚くことはないだろ。そういうのはどこにでもあるし。だけどあるのは墓だけじゃない」

「まだ何かあるの?」

「あるさ。お寺だ」

「ああ、そうね…」


 そりゃ墓があるなら寺もある。まあないところもあるけど、墓はお寺の付属物だ。ふつうそういうもんだ。


「つまり達樹は、そのお墓に出る幽霊少女が…」

「アホか!そうじゃないよ。タネ明かししてやるからよく聞いてくれ。この北門の雑木林をすぐ抜けたところに『円修寺』という浄土真宗の寺がある。墓はその寺の墓所だ。防火用水のため池もその円修寺の地所なんだぜ。まあそれは置いといて、その円修寺の住職の娘が宮地香苗といってうちの学校の二年生の生徒だ」

「それがどうしたっていうのよ!まさか幽霊がその子ってわけじゃないでしょ?」

「幽霊なんかじゃないの!いいから聞け、会長。円修寺ではたまに法事とか葬式とかある。そのときは宮地香苗は遠慮して裏から自宅に戻るんだ。この門から出てね。門から出たらすぐに薮の中だ。消えたと思われても仕方ないけどな」

「なんですって!それって…」


 俺は驚いた顔をするみんなを見つめた。きっとおかしくてたまらないって顔をしたに違いない。みんなムッとしてる。


「宮地はちゃんと鍵を持ってる。学校にあるやつと別にね。それは円修寺が保管してるやつで、宮地が家に帰るためのものだ。学校はちゃんと許可してる」

「なんでそんなことわかんのよ!」

「だってさっき職員室で聞いたもん」

「はあ?」


 俺は千佳や譲二を呼びに行ったとき、ついでに職員室に寄って聞いたのだ。もちろん監視カメラのことも聞いた。記録にはちゃんと映っているだろうけど、別に見る必要がないと言われた。まあどこにもおかしなことがないのだからね。だから先生たちも、生徒たちが騒いでいてもとくに気にしなかったんだろう。それに北門が解放されでもしたら、先生たちも余計な心配しなくちゃならんしな。そういう理由でほっとかれたんだ。


「つまりみんなの勘違いと…」

「思い込みだ。開かないはずの開かずの門。消えてない消えた女子生徒。みんな勘違いと思い込みの副産物さ」

「ああ、なーんだ、って話だったわね。なんか損した気分よ」


 勝手に思い込んで大騒ぎしたんだ。損したはないだろうにな。こっちこそいい迷惑だ。


「それにしても達樹、あんた凄いわ。まるで探偵だよ」

「ただ俺は事実確認をちゃんとやっただけだ。おまえらみたいに闇雲に行動しなかっただけ」

「だけど、ちょっとは面白かったじゃない。ミステリーは学園にある、なんつって」


 こんなのミステリーでも何でもない。ちょっと考えれば済むことだったはずだ。おまえらがどうにか面白くしようとした魂胆は見えている。まったく、それに付き合わされる俺って、なんか情けない…。


「まあそうそうおかしなことは起きないからな。現実はシビアで極めて普通なのだ」

「はいはい。達樹さまの言う通りよ。じゃ、これからみんなで帰りにお祝いがてらファミレス寄って乾杯しない?」

「お祝いだと?何でお祝いだ!めんどくさい。断じてお断りだ!俺はそんなに暇じゃねえ!」

「えー、なんでよ。いっつも誘っても来ないし」


 生徒会長が何かウルってるが、そんなのは関係ない。俺は酒屋のせがれだ。父ちゃんが配達行って、母ちゃんが飯作るんだ。そのあいだ店番があるんだよ!あーあ、俺の青春、ミステリーのミの字もないぜ!こんちくしょうめ。


「そういやさ、さっき北門閉めるとき、藪の中に白い足見えたけど、あれって宮地さんかな?」


 そう千佳が言った。俺は背中に冷たい汗が一筋流れるのを感じた。宮地は職員室で見かけた。東門から帰るところも俺は見た。家に帰ってわざわざまた北門に戻ってきた?いやそんなはずは…じゃあそれは誰だ?いや考えるのはなし!もう終了!ごきげんようさようなら!


 西の空に真っ赤な夕日が見えた。俺はその美しさと、ちょっとした恐怖で、しばらく何も言葉が出なかった。

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