集まった愚者たち
思えばなんでこんなことになった?妃乃の暴走?いや風紀委員長、田口の勘違い?グランドに出てた運動部員の集団ヒステリー?まあどれもが当てはまる総合的事件…いやこれは事件でさえない大いなる勘違いだろう。そこに持ってきて、ああこんどはこいつらか。なんだか事件じゃないのに大事件に発展してしまう気がする…。
「で?幽霊が出たって?」
と、話を聞く前に生徒会広報の山内譲二が書記の小曾見千佳を見ながらそう言った。よせ。
「はあああ?なんであたし見てそんなこと言ってんのよ!こーろーすー!」
「べつにお前が幽霊だって言ってねえじゃねえか。かぎりなく似てっけどよ」
「祟られろ!いやいっそ呪われてしまえ!このイヤミ王子!」
「いややめろよ。おまえのそれ、なんか不可思議な力働いてるってみんな言ってるぞ!」
そう言ってるそばからイヤミ王子、譲二の靴ひもがプツンと切れた。
「い、いやあああああっっ!」
「落ちつけ譲二、偶然だ」
「し、しかし達樹、この靴新品だぞ!偶然なんてあり得ない…いやああああっやめてくれえええっ!」
「落ち着けというのに!偶然じゃなかったら・・・ああ、そういやさっき千佳が昇降口で何かしてたぞ。きっとお前の靴ひもにカッターかなんかで切れ目を入れていたんだ」
「な、なんでそんなこと…」
そりゃあお前の常日ごろの言動が原因に決まってるだろ。お前らは仲が悪い。それだけで状況証拠バッチリだ。
「ちっ」
千佳が舌打ちした。どうやら正解らしい。
「ねえ、あんたたちすごくうるさいのよ。ぎゃあぎゃあ騒ぐおバカさんたちと、このかわいいマコちゃんがいっしょだなんてみんなに見られたら、もう恥ずかしいのよね。それでなくてもみんなから変に見られてる生徒会でしょ?それにあんまりオシャレじゃないし」
大場真琴が、なんか迷惑そうにそう言っている。悪事をバラされた千佳が矛先を真琴に変えたように、すぐ反応した。
「誰が騒いでるですって?そんな貧弱な耳でよく聞こえるわね。それに、生徒会をファンシーショップといっしょにしないでね、おつむの程度が知れるわよ?この腹黒クソ天使ちゃん」
「はあ?てめえこそ死霊ちゃんの分際で何偉そうに言ってんだよ!死霊ならおとなしく墓場でフラダンスでも踊ってやがれ!」
「てめえ腹黒!何わけわかんないこと言ってんだよ!祟るぞ!」
「やってみろよ!ほら来いよ!くやしかったらテレビとか井戸から這い出して来いよ」
「あんたたち、やめなさい!」
とうとう女帝、楢崎妃乃がお怒りのご様子だ。なんと手に殺虫剤のスプレー缶を持っている。妃乃はとにかく虫が嫌いだ。もし妃乃が本当に女帝になったら、きっと世界中の虫はいいのも悪いのもすべて抹殺されるだろう。ああ恐ろしい。てか人間にそんなもん使う気か?いやこいつなら使うだろうな…。
「生徒会長、やめろ。それこそ事件になるぞ」
「でも達樹、こいつらが悪いのよ」
「悪いからってそれはやめろ。それから俺の名を呼び捨てにするな」
「まーた達樹ったら照れちゃって」
ああ、もういいよ。それより北門だろ。はやく調べて終わらせようぜ、と俺は心の中で必死に祈った。まったくなんで俺がこんな愚者どもといっしょになにかしなきゃならんのだ。だが俺の祈りが届いたのか、邪魔されることもなく校舎からグランドを横切るまで何事もなく通れた。北門はグランドからよく見えた。側には体育倉庫があり、数本の樹が生えている。ふだん使わないところだから、そんな景色が不思議に見えた。
「ここで女子生徒が消えたのね」
生徒会長が腕組みしながら辺りを見回している。体育道具をしまっておく倉庫のところに監視カメラがついている。北門と体育倉庫の入り口をそれぞれ二台のカメラでカバーしている。
「なんだ、監視カメラがあるじゃないの。じゃあきっと記録が録画されてるわね」
もう解決したって顔で楢崎妃乃は俺たちに向かってそう言った。
「教員は知ってるんだろう?みんな騒いでるんだから」
俺がそう言うと、妃乃はちょっと嫌な顔をした。
「だから?」
「じゃあとっくに記録は確認してるだろうな。そのうえで静観してんだろ。だいたい生徒が消えてもいないのに、騒ぐ方がどうかしてるんじゃないか?」
「でも田口君も見たって言ってるのよ?生徒が消えるところを」
「あー、めんどくせえなあ」
「なによそれ。だいたいあんたが何にも考えないからこんなふうになっちゃったんじゃない。それでも生徒会役員なの!?」
完全にとばっちりだと思った。まるですべて俺の責任みたいに言いやがって。
「まったくもう…」
俺はゆっくりと北門に歩いて行った。北門の外はうっそうとした茂みになっていて、手入れもされていないそこは草が伸び放題だ。なるほどこれじゃ仕方ないな、と思った。
「なによ」
「これ見ろよ。この門、どう思う?」
俺がそう言うと、みんな集まってそれぞれ門を観察した。何の変哲もないただの門だ。どこもおかしなところもないその門だが、それだからおかしいところがあるのだ。
「変わったとこないじゃん」
「ああ、そうだな。よく手入れされてるとは言えないけど、ボロっていうほどじゃないな」
真琴と譲二がそれぞれありきたりな感想を口にした。まあその程度だろうな。
「変ね。これ開かずの門っていうわりには錆もなくちゃんとしてるわね。まるでときどき使ってるみたいな…」
へえ、さすが幽霊だ。よく気がついたな。
「どういうこと?ときどき使ってるなんて…」
「なあ会長、なんでこの門が開かずの門って言われてんだ?」
「はあ?なに言ってんの達樹。開けたらだめだから開かずの門なんじゃない」
「開けたらだめ?どうして。誰が決めた」
「そりゃ学校が…」
俺はわざとらしく大きなため息をついてやった。
「それは想像だろ?開かずの門ってのも生徒が勝手に言い出したことだ。こいつは災害時の非常口なんだぜ。もちろん普段は、危険な防火用水のための沼があるから立ち入ることはできず、常にカギがかけられてる。だがちゃんと理由があれば出入りはできるんだ。学校も門を完全に封鎖してないんだ」
「どういうことよ。それと消えた女子生徒と何の関係があるのよ」
「関係は大ありだ」
俺はポケットからちょっと大き目な、真鍮でできた鍵を取り出し、みなに見せた。
「なにそれ」
「これはこの門の鍵だよ。さっき職員室で借りてきた」
「はあ?」
みんなが驚くのも無理はない。なんせここは開かずの門と呼ばれてたところだ。だがなんで俺がその鍵を持っているか?それは生徒会役員の特権だからだ。妃乃は生徒会を権力の象徴、みたいに言ってるし、そう考えてもいるが、生徒会ってのはじつは信用の根拠なのだ。普通の生徒がなし得ないことも生徒会役員ならできる。教員の信用が普通の生徒より格段にあるからだ。たとえば、なにか理由をつければ、女子更衣室の鍵だってホイホイ貸してくれる。いや貸してもらわんけど。つまり特権とはそういうものだ。
「じゃあ開けるぜ」
「いや、開けちゃダメなんじゃないの?」
ビビったように譲二が言った。どうもまだわかってないようだ。
「おまえ、何しに来たんだ?」
俺はそう言いながらかまわず鍵で門を開けた。それは割合スムースに、開いた。




