開かずの門
新学期、生徒会活動をはじめてはや一カ月、ようやくその職務にも慣れたある日、事件は起きた。
「幽霊?マジで?」
その日の放課後、生徒会室に風紀委員長の田口が顔色を変えやって来て、昨日から起きた事件のあらましを語った。
「ああ、課外活動中の野球部員とサッカー部員の数人が見たらしい」
「北門から女子生徒が消えたって?あの、『開かずの門』から?まさか」
生徒会長の楢崎妃乃が、頭からバカにしたようにそう言った。
「いやほんとうらしい。何人も目撃したそうだ。そのうちのひとりは岡田と言って俺のクラスのやつで、野球部で投手だ。嘘はつかない」
「野球部の投手だからって嘘はつかないなんて、どういう基準よ」
「いやツッコむのはそこじゃないだろ。そうじゃなくて、ずっと同じクラスで見知ってんだ。あいつは真面目なやつなんだよ」
じゃあ消えた女子生徒は誰だ?そうならもっと大ごとになるだろう。当然それを会長は聞いた。
「で、誰がいなくなったのよ?」
「それが…生徒でいなくなった者はいない。先生も確認した。今日は全員出席してるんだ」
「なんだ、ただの見間違いか」
アホらしい、と会長はそう決めつけた。だが田口が大きく首を振った。
「そうじゃないんだ。俺も見た」
「はあ?いつ」
「ついさっきだ。じつは俺も半信半疑だった。だが岡田があまりにも真剣に言うもんだから、俺も気になっていて…それで放課後、ずっと北門を見張っていたんだ。そしたら…」
「女子生徒が来て…消えた?」
「そうなんだ!この目でしっかり見たんだ!」
まったくあり得ない話だった。北門はこの学校の開校以来一度も開けられていないといわれる。おまけに北門の外は、左に雑木林が生い茂る山の斜面で道はない。反対側の、やはり雑木林の先に墓場と小さな池があり、それは開校のとき防火用水としての役割があった。だがいまは消防設備が整い、その役目はもうない。つまり危険だというので門はずっと施錠されたままのはずだ。
「ふうん…開かずの門のひみつ、かあ…」
「なに考えてんだ、生徒会長」
俺はなにか嫌な予感がして、どうやってもこの事件とも言えない事件に関し、ぜったい生徒会を関わらせないようにしないと、と思った。それは絶対めんどくさいことになると考えたからだ。
「あのね達樹、この学校に関わることはつまりこの生徒会に関わることなのよ?」
「そんな定義はない。生徒会は生徒の学校生活のためにある。そういうのは先生の仕事だ」
「だけど生徒がひとり消えてんのよ?その子にとっていわば学校生活の危機よ。見過ごせないわ」
「いやその生徒って誰だよ。いもしない生徒の幽霊話じゃないかそれ。そんなのに関わってないで、もっと生徒会の仕事をするべきだ」
ああもうそう言っても無駄なことはよくわかってる。楢崎妃乃という女子は、とことんそういう謎めいた話が好きなのだった。
「じゃあみんなを集めてね、達樹。急いでちょうだい」
「嫌だと言ったら?こんなこと、生徒会の仕事じゃない。当然の主張だぞ」
「じゃあほかの三人だけでいいわ。あんたは生徒会室の掃除でもやってれば?それこそ生徒会役員の仕事だってね」
いやあの三人とおまえだと?いったいどうなるかわからないぞ。下手したら出なくてもいい被害者が出てしまう恐れがある。ああもうこんちくしょう!
俺は仕方なく生徒会長について行くことにした。もちろんこれは監視のためだ。こいつらが何かしでかす前に、ぜったいに止めないと、なのだ。




