98話
結論から言おう。
楽しかった。
造りが無駄に凝っていて、途中風魔法で加速させたり、クルクルと回転させたり、穴から飛び出たと思ったら、山々の間を空飛んで絶景を味わえたり。
時に炎が襲いかかり、時に噴水の中を滑り落ちる。
レティが匠の技と豪語したのも理解できる。
やはり馬鹿で天才は強い。
最終的には山の麓の湖へと到達し、水面をドリフトするように滑っていき、湖岸に着地した。
最初に俺への怨嗟の声を響かせながら滑り落ちていったレズンも、このアトラクションには満足したのだろう、ニコニコして湖面に浮かんでいた。
「さて、走るか」
「うむ」
するとレティが俺の首に手を回してぶら下がり始めた。
「なんのマネだ?」
「走るんじゃろ?」
「走るんだろ?」
「うむ、走れ」
はたき落とそうとするとレティはカサカサと身体の側面を伝って背後まで回った。
「お前の前世は黒いテカテカとした世界の人々から嫌われる虫か?」
「ワシが走るより、ヌシが走ったほうが速い」
「確かにそうですね」
今度はローザが俺の首に腕を回す。
「お前らな……一人はレズンのとこにいけよ」
「他の男にワシらを抱かせるとは……」
「カスですね」
「ハイハイ、わかったわかった。ただお姫様抱っこに拘るだろ? 特にローザが!」
「強意されたところで私は意に介しません。当然お姫様抱っこを希望しますし、それ以外は認めません」
「レティ、わかるか? お姫様抱っこは定員一名なんだ。お前の席はない!」
「安心せい! ワシには妙案がある!」
ほらまた変なこと言い出した!
妙案っていう言葉の意味知ってんのか?
「ローザがこう、お姫様抱っこされるじゃろ? ワシがその上に乗る。ちょっとやってみるぞ?」
言われたままローザを抱っこする。
その上にレティが乗った。
瞬間、俺に電撃走る!
ローザのたわわなヤツがレティの顔を包みこんでいる。いや、顔どころか全身を柔らかな肌がレティを包んでいるのだ。
お姫様抱っこをすることにより、ローザに微妙なカーブが生まれ、そこにジャストフィットする形でレティがパイルダーオンするのだ!
「な、なんて……」
羨ましい! だが、これは眼福だとも言える。
包まれるのか、目に焼き付けるのか、その差は非常に僅差!
だが……俺はどちらかというと包まれたい!
「ほわぁ〜ふわふわじゃ……最高級のソファーよりも遥かに癒されるわ」
「人をソファー呼ばわりするのは頂けませんが、お姫様抱っこポジを譲ってもらえるのであれば致し方ありませんね」
「拘るな……何がそうまでさせてるんだ……そこ、羨ましそうに見てるんじゃない」
「べ、別に僕は……いや、して欲しいかな……」
ローザを見つめるニナ。
モジモジしてる。
「では、順番です。交代の時はミルズに速度を少し落としてもらいましょう」
パァッと表情を明るくさせるニナ。
嬉しいらしい……
だが、お前らがやってることは日曜日の公園で遊具を取り合う幼児そのものだ。
「もうそれでいいから行くぞ……」
ローザお姫様抱っこオン・レティスタイルでトロイ平原を目指して出発した。
途中、ニナに交代したり、レティがローザの上に飽きたのか自分もお姫様抱っこがいいと言い出したり、色々あったのは言うまでもない。
あれ、結局、皆で走るのと時間的に変わらなくない?
連邦方面に来るのは初めてだったけど、あの山脈地帯を抜けると広大な平原が広がっていた。
穏やかな気候、清らかに静かに流れる川、ゲームのイメージ通りの牧歌的なイメージ。
ただ地平の先、うっすらと見える大軍の影が見える。
気配を殺しつつ、近付く。
両陣営がなだらかな丘の上に向かい合う形で布陣し、その中央に戦うにはお誂向きの平地がある。
良かった。まだ始まってなかった。
認識阻害の魔法をかけつつ、帝国軍の中へと潜り込む。
木を隠すには森っていうからな、不審な動きさえしなければ大丈夫だろう……っと思ったら、なんかすげぇ視線を感じる。
まさか認識阻害を見破られた?
さり気なくそちらに視線を向けると目についたのは知っている顔。
鋭く射抜くような銀の瞳、カインがじっとこちらを見ているのだ。
その時、連邦の方からざわめきが走った。
軍勢が中央から割れていく。
その間を馬に乗った一人のネイフェルが静かに進んでいく。
紫がかった黒にファイアパターンの赤い刺繍のローブ。派手な装飾の白磁の杖を抱えている。
あれが……ロザリカ・ナザリカか。
ネイフェルという小柄な種族なのに、その威圧感は離れたここ帝国軍陣地にも感じられる。
連邦軍の先頭に立ち、馬を降りる。
そのまま中央の平地へとゆっくりと歩みを進めていく。
強い……
正確なことなんてわからねぇが、アレは強い。直感でわかる。
俺はいつの間にか手に浮かんだ汗を握りしめていた。
そして、帝国軍にも動きが。
馬から降りる動作一つにキラキラと輝く星でも舞っていそうな美丈夫が歩みを進める。
この世の頂点。
力のみを追い続け、武を極めた男。
シリウス・フォン・ヴァイゼンリート。
互いが歩みを進め、戦場の中央で相対する。
霊長類最強の闘いが今、始まろうとしていた。




