96話
「帝国軍が攻めてきおったじゃと?」
あの後、すぐに洞窟を抜けて俺とレティ、そしてジルベロは日巫女様に会いに来た。
残りの皆は洞窟に一番近い里でオロチの治療を行っている。
地面に伏していた4頭は酷い傷ではあったがなんとか一命を取り留めていた。
レズンが自分の腕を切り裂き、オロチにかけたのだ。
なんでも龍の血には色々な効力があるらしく、回復にも効果がある。
その最上位であるレズンの血は瀕死のオロチたちを救った。
都に入る時に俺とレティがいたことで一悶着あったけど、それどころではないと押し通った。
実際そうだったし。
「とりあえず洞窟を崩して時間は稼いでおる。他にこの国へ来る方法はあるのか?」
「航路もある……が一部のものにしか知られておらんし、他にも険しい山々を超えねばならんかったりと軍隊を差し向けるには向かんな」
「というか、なんでわざわざ日出国に攻めてくんだよ。帝国軍にとってそんなに利益のあることのようには思えんのだけど」
「それがここにはあるんや、兄さん」
「ジルベロ!」
日巫女様がジルベロを咎めるように睨みつける。
その視線を受けてもなおジルベロは続ける。
「ワイらの魔導兵器の出来は知っとるやろ。共和国の魔導兵器はワイらヒュランの歴史や」
今や帝国、連邦と並ぶ、いや経済的には抜きん出ているとまで言われる共和国の歴史は明るいものではなかったらしい。
肉体的にはエルフィニアやフェイリスに劣り、魔法技術でネイフェルに圧倒される。
あらゆる種族の劣化版だと評されるヒュランはあらゆる努力によって現在の地位を築き上げてきた。
武器を見直し、外交で立ち回り、産業を見つめ、劣っている自分たちに足りないものを、その努力によってカバーしてきたのだと。
「その集大成が魔導兵器や。その核となる魔導制御盤を作っとるのがここや」
「ふむ、なるほどの。そこまで話すということは、ヌシも共和国が落ちとると考えとるんじゃな」
「せやな。言うてもクーデターの後はすでに帝国の属国みたいにはなっとった。それが、何かしら変わってしまった……そういうことなんやろな」
「となると一度戻って情報を集めないと駄目だな。さて、どうするか……」
話し合いの結果、俺たちはゴルドバのレティが作った城に飛ぶことにした。
ゴルドバなら帝国、共和国、連邦の情報が一挙に集められそうだし、あそこなら人もいないだろう。
またあのゴージャスな便器を見ることになるとは思わなかった。
ジルベロも連れて行く。
あいつはもともと諜報に長けているらしいので、そっち方面で存分に力を発揮してもらおう。
そして猿帝には、もしもの時の護衛を頼んでおく。
日巫女様にとっても安心だろうし、何より関係の改善にもなるだろう。一挙両得だ。
というわけで、ゴージャス便器前に到着。
一路、ゴルドバへ。
しかし、あの色々な物や人が入り混じる雑多な街は、すでに帝国色へと塗り替えられていた。
街の入口には騎士が立ち、出入りを厳しくチェックしているようだった。
「ゴルドバも帝国が抑えてんのか。共和国はともかくとして連邦は何してんだろうか」
「帝国としては共和国の次は……ということかのぅ」
「今までは三国、バランスよく勢力を保ってきてたんやが、クーデターの後、共和国が崩れてもうたからな。帝国がその余勢で連邦もっちゅうのはあり得る話やな」
「まぁ、とりあえず中に入って住民の話でも聞こうぜ」
「どうやって中にはいるつもりや? なんでも武力で解決できる思うなや?」
「お前、俺たちをそんな風に見てんのかよ。俺たち、とっても道徳的な集団だぜ?」
「ワイは先日、一つの国を武力で黙らせたんを見てきたから言うとんねん」
「悪人! ウチがとっちめてあげる!」
「……せやな」
「おい、いくぞ?」
「ちょっ、行くぞて……」
俺たちはそのまま検問の騎士たちの前を素通りする。
メイが騎士に手を振る。
ローザとニナは会釈しながら進む。
騎士たちは何事もなかったかのように直立不動のまま。
レティの認識阻害魔法は万能だ。
そこらにいる騎士に見破れるはずもない。
「早く来いよ」
ジルベロにそう伝えると、ジルベロは驚くように、呆れるように街の中に進んでいった。
「兄さんら、ほんま、なんでも有りやな。こんな存在、人の世に許したらあかんで……」
「んじゃ、封印するか? 頑張ったらできるかもしれんぞ?」
「言ったそばから暴力をチラつかせんな! この人でなし軍団め!」
「確かに人じゃないのも混じってるけどな!」
「兄さんも十分人間やめとるわ……」
やれやれといった表情を浮かべるジルベロに満足した俺は、そのまま町中の酒場へ向かう。
情報収集と言えば酒場だ。
あそこは英雄が集う場所だからな。
一杯奢れば気を良くした英雄がポロポロと知ってることを話してくれる。
不満を溜め込んでいるであろう彼らの口が滑らかになるように、お酒で満たしてあげよう。




