94話
94
「あぁ! 父ちゃんがジョージを泣かせた! 最低!」
「キーキー! キキーキー!」
メイとまわりの猿たちが俺を指さして非難する。
え? これ、俺のせいなの?
「どないしたんや? 話聞こか?」
あくまで優しく肩を抱き、慰めるように言う。
するとジョージがペシッと俺の手を払い除けた。
「わかった。わかったから! 今度べっぴんさんの猿を紹介してやるから!」
「ヌシ、まさか女神や人間種だけでは飽き足らず、猿にまでその手を広げておるのか?!」
「さすがにちょっと……それは引くんですが……」
レティが怒り、ローザが後ずさる。
「僕たちでは満足できないのかい?」
ニナの芝居がかった台詞がちょーウザい。
「んなわけねぇだろ……猿の美醜なんてわかるヤツがいたらビビるわ」
「というか、誰がジョージじゃ!」
少し元気を取り戻したのか、猿帝が泣き止んで突っ込んできた。
「だって、お前の名前なんて知らないんだもの。なんて呼べばいいんだよ?」
「はて、そう言えば、儂の名前はなんじゃったか……」
「加齢による痴呆症が見られる!」
「断じて違う! 長いこと閉じ込められておったし……一人なのに自分の名前なぞ呼ばんじゃろ?」
「確かに。それでも自分の名前忘れるかなぁ。まぁ、名前ジョージにしとけよ。俺の世界では最もメジャーな猿の名前だぜ?」
「好きに呼ぶとよかろう。好きにするんじゃろ?」
「そだな!」
バンバンと背中を叩く。
面倒臭そうに俺を見て苦笑するジョージ。
良い顔してんぜ!
「コイツは今日からジョージだ!」
「おぬしら、ふざけるでない!」
闘いの後のノーサイド。
和気あいあいとした雰囲気を切り裂くように高い声が響く。
日巫女様がお怒りのようだ。
「そやつは過去の日出国を混乱に陥れた大罪の徒じゃぞ!」
「つっても、それは残された資料だけで、コイツが本当にそうかなんてわからんだろ? 実際コイツがそんなヤツだとは俺には到底思えねぇよ」
「なんじゃと! 我が祖先が嘘偽りを申しておるとでも言うのか!」
「勝者が自由に話を変えるなど、どこにでもある話じゃろ。 ワシなんて久しぶりにこっちに戻ってきたら世界の馬鹿代表なんて呼ばれとったんじゃから」
「それについては、なんの変化もしてないし、ここまで正しく情報が伝えられていたことに驚くけどな」
「……」
レティが俺を見る。
譲れない。お前は間違いなく馬鹿代表だ。
俺もレティを見る。
「じゃからな、自分たちの目で見たことを信じるのが一番じゃ。ワシの目から見てもコヤツはそんなヤツではなかろうよ」
あ、コイツ、分が悪いと思って流しやがった。
適当に綺麗な言葉を並べやがって。
「それでもコヤツがヌシらの言う邪悪な存在で、この国で暴れるというのなら、ワシらがなんとかしてやろう」
「うむ。我らなら百回やれば八〇回は勝てると思うぞ?」
馬鹿代表と失恋でギャン泣きしてた龍が偉そうに言ってる。
俺から言わせれば神も龍も猿も変わらないんだがな。
「それでもと言うのなら、今ここでワシらとやり合うか? それでもえぇんじゃぞ?」
レティが日巫女様に杖を向ける。
バチバチに魔力を圧縮しながら。
異常なほどの圧力に杖の先端が歪んで見える。
おい、ちゃんと威嚇なんだろうな?
俺にだって耐えられるかわからんレベルのもんを人に向けるなよ。
「くっ! なんたる恩知らず! なんたる厚顔! 今貴様が持っておる杖は誰のおかげで手に入ったとおもっとるんじゃ!」
「ウチら、今、オニカナよ?」
メイが拳を手のひらにパンパンと叩きつける。
何だ?オニカナって……あ、鬼に金棒か。
本当に適当に言葉を作るな、コイツ。
「感謝しております」
「うん。ありがとう!」
「もう知らん! 勝手にせい!」
そう言うと日巫女様はプリプリ怒りながら軍勢を率いて帰っていった。
ごめんちゃい! けど、本当にジョージが暴れるようだったら、ちゃんと来るからさ、勘弁な!
「おぬしら、それでえぇのかよ?」
「えぇんでない?」
「えぇならそれでえぇんだが……まぁ、礼は言っておく」
「おう。だけど、礼を言うのは少しはやいんだな」
口角を上げてニヤリと笑いながらジョージの肩を抱く。
「俺たちさぁ、とんでもなく強いヤツに狙われてるんよな。でさぁ、こう練習相手というか、適度に戦えるやつっていうか、そういうヤツを求めてんだわ」
黙って腕を肩から外し、たくさんの猿たちと帰ろうとするジョージ。
「体力が回復したら呼びにいくわ! よろしく!」
「嫌じゃ! 儂は風呂に入って酒を呑んでコイツらとゆっくり過ごすんじゃ!」
「残念ながら、それはもうしばらくあとになるな!」
ニコリと笑う俺たちに猿たちは怯えている。
「おぬしらの方がよほど邪悪な存在だろうて!」
ジョージが空に向かって叫ぶ。
地獄のような特訓でジョージもまた、さらに強くなるのだった。




