88話
「そうらぁ!」
ミルズは横薙ぎに振るわれた棍を盾で受け止める。
猿帝が素早く切り返し、左右の連撃を放つがそれも防御しミルズは前に出る。
左からメイ、反対からレズンが挟撃する。
猿帝は上体を反らし、反転し、中へと逃げる。
それを見越したようにレティの氷魔法が猿帝を狙い撃つ。
襲いかかる白く輝く氷弾を棍を回し落としていく。
その着地の際をミルズ、メイ、レズンが同時に狙っている。
猿帝は棍を伸ばし、先に地へと突き立てた。
その反動を利用し、三人の包囲から身体を滑らせる。
さらに回転の勢いそのままに棍を振り抜き、蹴りを放つ。
メイとレズンは咄嗟にそれをガードした。
そしてその隙間、ミルズはがら空きになった喉元へ狙いを澄まし、剣を突き出す。
猿帝の首元へと刺さるはずだった一撃は、空を切る。
メイとレズンに仕掛けた攻撃を反動に、ミルズの一撃を回避したのだ。
「器用な真似を!」
突き出した剣の軌道を変え、横へ薙ぎ払う。
猿帝はその軌道に沿うように首を回す。
迫りくる刃を躱し、剣の腹を顔と接触させながら、剣を逸らすのだ。
思いもよらぬ回避にミルズの反応が遅れる。
いつの間にか大上段に構えられた棍に対してミルズは盾を構えた。
だが、ミルズが受けた衝撃は軽い。
「父ちゃん、乗られてる!」
猿帝は構えられた盾を足場にしていたのだ。
そして、ミルズが盾を振るう前に、その一撃は繰り出された。
棍の間合いの遥か先にいたローザが吹き飛ばされる。
「ローザ!」
常に位置と間合いを計り、後衛への攻撃を通さないように心がけていたミルズを抜けて、ローザへ猿帝の攻撃が直撃したのだ。
ローザは土埃を巻き上げながら吹き飛ばされる。
それでも空中でなんとか体勢を整え、戦線へと復帰した。
自身に回復魔法をかけながらミルズたちとの位置関係を素早く修正する。
その様子にミルズは安堵する。
「新装備でなければ、危なかったかもしれません……」
心配そうに視線を送るミルズへ、ローザは軽く手を上げて返した。
「ふふ、心配症ですね。私もあなたと共に成長しているのですよ」
そう言って微笑み、ローザは自身に強化魔法をかけ直した。
その間もメイたちの攻撃は止まることを知らない。
右にメイの拳が襲いかかれば、左にレズンの爪が迫る。
上に逃げればレティの魔法が降り注ぐ。
その攻防の最中、死角から飛んでくるニナの攻撃を的確に猿帝は躱す。
少々の被弾を受けてでも、ニナの攻撃だけは避けていた。
これまでもニナの能力で圧倒的な強者を弱体化させ、自分たちの戦いのフィールドへと持ち込んできた。
そのミルズたちの戦術の肝を猿帝はそのセンスだけで的確に嗅ぎ分けているのだ。
「まったく……感のいい猿だな、オイ!」
猿帝が棍を振るう。
ミルズはそれをあえて前進し、極力猿帝に近い位置で受け止める。
棍の軌道上にはレティがいる。
見た目ではまったく届かない攻撃だが、危険を察知しミルズは飛び込み、レティは退避する。
ミルズの盾に衝撃が走った時、レティの元いた場所が大きな炸裂音を立て、岩盤が砕け散った。
二人の動きに猿帝は苦みを帯びた笑みを浮かべる。
「感のいい人間だな」
「一度食らったら十分だからな! 二度目があったらローザに何言われるかわかんねぇよ」
「これは些か面倒なことになった……」
分が悪く感じたか、猿帝がミルズたちから距離をとった。
反り立つ岩場の上に着地し、猿帝は座り込む。
そして、またも煙管を取り出しぷかぷかと一服し始めた。
「おい、真面目にやれ!」
「本当に人間は戦いが好きだのう、もう少し余裕を持ったほうが良いぞ」
「そういうがヌシは戦いが嫌いなのかの?」
「儂は仲間と湯に浸かって、飯を食って、酒を飲めればそれで良い」
「その意見には賛成だ! だけど、真面目に戦うのも好きだ! そして、強くなることに今まで以上に意味があるんだわ」
「儂とそれだけ戦えて、それ以上を望むとはな。人の欲は尽きることを知らんな」
「こっちにも理由があるのでな」
「ふむ、理由か。まぁ、理由も無しに戦う奴はただの阿呆だな」
漂う煙を眺めて猿帝が言う。
その目に浮かぶのは悲しみか。
言葉では表しきれない感情が、煙に紛れて空に消えていく。
「準備体操は終わりだ、そろそろ本気でいかせてもらうぞ?」
「無理すんなよ、老体」
「抜かせ、若輩」
猿帝の咆哮が轟く。
毛が逆立ち、金色に輝き始めた。
筋肉がさらに膨張し、猿帝の巨躯が一回り大きく肥大する。
その目には理性が感じられず、瞳孔が開きっぱなしだ。
「猿とかゴリラによくあるパワーアップだな……ベタ過ぎる」
「スーパーなんちゃら!」
「ここからが本番じゃぞ!」
大地を蹴り、飛び込んでくる猿帝。
ミルズたちは迎撃すべく、それぞれの位置についた。




