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女神と転生〜ポンコツ女神と父娘が最強へと至る道〜  作者: 荒頭丸


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85/109

85話

地面を滑るように這い、俺の膝をめがけて高速でタックルを仕掛けてくる。膝関節へのプレッシャーを足の向きを外側に変え対応する。

そのまま上から潰すように体重をかけ、手を腰にかけてそのまま後を取る。

チョークを嫌った手をコントロールし、隙をついて首元へ手をかける。

そこで、タップ。

「流石にそのタックルは甘いわ」

「むぅ、いけると思ったのに!」

汗だくで道場に寝転ぶメイ。

肺いっぱいに空気を吸い込み、大の字になって空を見上げている。

「どうするよ、もう一本いくか?」

「ん、もういいかな」

メイの横に水筒を置いて、側に腰掛ける。

「まぁ、なかなかのもんだと思うぞ、実際。あっちに帰ったら大会で無双だな」

「……」

こっちに来てからもグラップリングの練習は続けていた。

といっても、俺とメイだけ。いや、途中からジョウジョカも参加するようになったけど……

別に格闘技で食っていけとは言わない。むしろ、できれば他の普通の道を選んでほしいとすら思ってる。

そう思ってはいても結局選ぶのは本人だ。

問いかけるような視線を向けても、メイの視線は空に固定されたままだ。

「父ちゃんは……」

「ん?」

「父ちゃんはこっちにずっといるの?」

「多分なぁ」

「ふふ、ついに年貢の納め時ってやつ?」

「二回目だけどな! お前は……いいのか?」

「むしろ良かったと思うよ。こっちにきて、父ちゃん、生き生きとしてるからね!」

「そうかなぁ」

「うん、昔は魚が死んで腐り果てて、そこに湧いた蛆虫みたいな目をしてたよ」

「言い過ぎで笑う。普通に死んだ魚の目でいいだろ……蛆虫って目があるのか?」

「知らない。終わってる雰囲気が伝わればオケ!」

「適当が過ぎる!」

「ねえ……ウチも残るっていったら怒る?」

「えぇ? いや、怒りはしないけど……残るの?」

「どうしよっかなぁ。こっちはこっちで楽しいんだよね。見たことのない景色、色んな国、アツい闘いとかさ」

「正直、普通の人生を送ってもらいたいもんだけど、言ってきくような人間じゃないしなぁ」

「別に向こうの暮らしも悪くないと思ってるよ、お母さんもいるし、友達だってたくさんいる。けど、こっちにだってレティとかローザ、ニナもいるし」

立ち上がってメイは背伸びする。

その背中にはいつものような快活さはなく、少し丸みを帯びて娘の迷いを表しているようだった。

「俺の場合は、もうお前以外には向こうの世界に拘りはないからなぁ」

「父ちゃんは軽いよね! 今生の別れになるかもしれないのに!」

「その辺はレティにお願いしたら、なんとかしてくれるんじゃね?」

「他力本願が過ぎる! まぁ、なんとかしそうだけどさ」

「俺、親とそんなに関わりなかったんよ。親は普通の人生を望んでたけど、俺は格闘技に夢中だったしな」

「すぐに家を出たっていってたね」

「そんな両親は俺に興味を抱かなかったし、お互い様で俺もそうだった。お前に対して、もちろん興味がないなんてことはないんだけとさ、自由に生きろとも思ってるんだわ」

「自由かぁ〜それこそ自由なんて想像つかないね。 別に向こうでやりたいこともないし……それはこっちでもそうだし」

「まぁ、言えることは選択肢を増やせるようにしとけってぐらいだ。向こうに帰るなら、しっかり勉強したり、将来なりたいものに対して自分のリソースを割かんといかんと思う」

「こっちだとそのへん曖昧だねぇ」

「未来が想像できんからな。お互い、異世界初心者だし」

「そだねぇ」

「まぁ、なんにせよ応援はするよ、どんな道を選ぼうとも。人の道に外れること以外な!」

「そか」

道場の中に涼やかな風が吹き込んでくる。肩口でそろえられたメイの髪が揺れている。

背筋を伸ばしながら歩き始めるメイ。

「まぁ、まだ先の話ってことにしとくよ。こっちにいる限り、時間はまだまだあるからね」

「おぅ。その前に生き残らんと駄目だがな」

「まごうことなく世界最強らしいからね! これで勝ったらウチが最強! 道場でも開こうかな!」

「俺に勝ってから言うんだな!」

「いずれ父を超えるのが子供よ!」

「ぬかせ」

そう言って笑うメイの目は、さっきより幾分かスッキリとしている気がする。

メイの足音が遠ざかり、道場に静けさが戻る。

瞳に焼き付いたその姿は俺の覚えている少女とは少しだけ……違っていた。

大人とはいえないけど、もう子供じゃないんだろうな。

自分はどうだっただろうか……

俺が娘の選ぶ選択肢の指針になるのなら、より良い人間になっておきたいところだな。

今更遅いかもしれんけど、遅くたってそういう人間になろうという姿は見せておこう。

迷えるおっさんは一人、道場で呟くのであった。


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