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女神と転生〜ポンコツ女神と父娘が最強へと至る道〜  作者: 荒頭丸


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83/105

83話

町中を一望できる露天風呂。

ゆらゆらと揺れる水面に映し出された丸いお月さまを見ながら、ゆっくりと手足を伸ばして身体を休める。

「はぁ、極楽よ」

周りには誰もいない。

岩壁から流れる湯が立てる音が響いているだけ。

思えば遠くへ来たもんだ。

異世界ってだけでも遠い世界なのに、そこから色んな土地を旅してきた。

でっかいたんぽぽのわた毛が宙を舞う高原だったり、砂塵で前が見えなくなるような大地。

かと思えば、辺り一面、雪しかないような極寒、白銀の世界。

いずれも、あのまま日本で過ごしていれば経験することはなかったものだ。

そういう点では娘と一緒にこっちに来て良かったなと思う。

ラスボスにさえ目をつけられなければなぁ。

当初は最強ってやつを目指していたけど、人間、年を取ると丸くなるものらしい。

ここに来た時には燃え上がっていたあの気持ちは今や静かに燻るのみで、身を焦がすような思いではなくなってしまった。

シリウスの姿を見たせいでもある。

アイツは時間というどうしようもないものに抗えず枯れていってて、唯一残った「闘い」だけに拘って見えた。

しかも、もはやその拘りすら摩耗していて目的を果たす為だけの存在に成り果てた、そんなイメージだ。

普通の人間は、千年という長い時間を生きられないんだろう。

生きてはいけないのだろう。

それこそ、別の生き物、レティやレズンのような存在でなければ精神が持たないんじゃないかな。

正直、命のやり取りさえなければアイツと戦ってもいいとは思っている。

確かにMMAファイターとして現役の頃は、命を賭けて戦っていた。頂点に立てるならそれこそ死んでもいいとすら思っていた。

だけど、挫折して腐って、歳を重ねて生きてみれば、あのアツかった気持すら薄れていくのだ。

シリウスのヤツはそれでも他のことには目もくれず、世界に自分と匹敵できる相手を生み出せるように動いていた。

そこんとこは純粋に凄いと思う。

そんなに長く自分の思いを曲げることなく貫く姿に感心を覚える。

だけど俺一人ならばいざ知らず、レティやローザ、ニナまで巻き込むのであれば話は変わる。

まして実の娘がそこに加わるのなら尚更だ。

「だけど、見逃してはくれないんだろうなぁ」

夜空に浮かぶ月相手にぼやきながら、湯船に顔を浸す。

死を偽装しているけど、そんなに甘くないだろうし、レズンだけ狙われるのも可哀想だしなぁ。

「やるしかねぇか……」

「安心せい、ワシがおる」

湯気で見えなくなったその先から声が聞こえる。

その声とピタピタと歩く足音が、男子浴場への侵入者が誰であるか伝えてくる。

ソイツは浴槽の淵に立つ。

手を腰に添え、胸を反らし、湯船に浸かる俺を見下ろしながら、堂々とそう言うのだ。

「乳を隠せ」

カカカと笑い、胸の前で腕を組み、さらに背を反らせるレティ。

「ケツも隠せ、乙女」

「今更不安になったのかのぅ、情けない面をしておるぞ?」

「言ってろ」

強がってそう言ったものの、うまく自分を騙せそうになかった。

今夜の俺はしんみりモードなのさ……

「とぅっ!」

レティがボディプレスをするように湯船に飛び込んできた。

なんとか受け止めたものの、足を滑らせ二人、派手に音を立てながら湯の中に沈んだ。

「何しやがる!」

「最後はワシがなんとかしてやるから、安心せい」

堂々と、なんの根拠もなく言い放つレティ。

だが、いつもと同じように、最終的には信じてしまう、そんな相棒の姿がそこにあった。

「まぁ、お前がそう言うなら、そうなるんだろうよ。だがな、今回はそれでは駄目だ」

「何故じゃ、ワシが信用ならんかの?」

「いや、信用してる。けど、最後ってのはお前の犠牲前提に話してるだろ」

「うむ、それがどうかしたか?」

「どうかしたかじゃねぇよ、バカ」

立ち上がって、レティの顔を掴み、その瞳を見つめる。

「お前は俺の嫁なんだろ? 夫婦ってのは寄り添い生きていくもんなんだよ。片方が欠けちゃ駄目なんだよ」

顔が熱くなるのを感じる。

この年で真っ直ぐに自分の気持ちを伝えるのは……中々恥ずかしいな!

目の前の赤い瞳はより一層目を開いたあと、ふと視線を反らし顔を赤らめている。

「な、なんじゃ、一度失敗しとるくせに」

「人間、初めてのことで失敗しないことのほうが珍しいんだよ」

「大した言い訳じゃのぅ」

頬を赤く染めたまま、力なく憎まれ口を叩くレティ。

「挑戦は何度やったっていいんだよ! 失敗しても見守ってくれよ」

「なんちゅうカッコの悪い愛の告白じゃ!」

「だが……」

「じゃが……」

「それがいい……だろ」

「うむ」

「あと、第二、第三婦人ぐらいまで許してくれ!」

「台無しが過ぎるじゃろ! このトキメいた心を返さんか!」

「だってそうじゃないと丸く収まりそうになくね?」

「コヤツ、終わっとる! まさかのハーレム宣言とはそんなプロポーズは聞いたことがないぞ!」

「何事もはじまりはある!」

力強く拳を握って夜空を見上げる俺をカカカと笑うレティ。

「第一婦人は譲れんからの!」

「その辺は追々話し合いで!」

「最低が過ぎる!」

こうして、俺の人生二度目のプロポーズが終わった。

何事も勢いは大事だ。

「全員生きて帰る!」

そう胸に決めて、夜空に輝く月に宣言するのだった。


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