76話
共和国から飛空艇を利用して目的の洞窟までひとっ飛び。
そのまま飛んで「日出る国」まで行けばいいのにと思ったが、巫女に対して不敬である、とのことで空路は利用してはいけないらしい。
というわけで飛空艇をかっ飛ばすこと丸一日、思えば遠くへきたもんだっと。
景色もがらりと変わり、植物などの見た目が日本的な慣れ親しんだものになっている。
このあたりはゲーム的な設定を引き継いでいるのか、それともこの異世界がもともとそうなのか、レティすらもわからない。
まぁ、別にどうでもいいけど。
ナイアガラのような大きさはないけど、山水画に描かれそうな侘び寂びの効いた滝の裏に洞窟の入口はあった。
苔むした岩に小さな沢蟹がカタカタとハサミを揺らしながら歩いている。
澄んだ川には伸び伸びと魚が泳いでいるのが見えて、紅葉が山々を彩っている。
秋の散策のようで、なんだか心休まるなぁ。
「自分ら、わざわざ一点物の武器防具を作りに行くとか時代遅れもえぇとこやな」
任務とはいえ、こんなとこまで連れ出されたのが不満なのかジルベロは相変わらず刺々しい。
イライラすんなよ、鼻にどんぐりを詰めるぞ?
「まぁな。数打ちのものだと俺たちについてこれるようなもんがねぇんだよ」
「はん、よう言うわ。聞いたこともあらへん有象無象の冒険者が少しは己を見たらどうや?」
「聞いたこともないからと言って、侮るあたりヌシの実力も知れとるのぅ」
「ベティちゃん、僕もこの人の名前を聞いたことがないんだけど、有象無象の一員なのかな?」
「あんま舐めた口ききなや。気分次第でここのモンスターにやられたことにしたってもえぇんやで」
レティとレズンの煽りに顔面ピッキピキのジルベロ君。
煽り耐性低いな!
「まぁまぁ、何をそんなにイライラしてんだよ。ラブ&ピースでいこうぜ?」
「ちっ」
あら、舌打ち。
前は飄々とした態度だったのに、どうしたんだか。
メイが高速でジルベロの周りをまわり、ダブルピースのポーズで残像を作る。
ウザっ!
不快そうに無視を決め込むジルベロに、微妙にポーズを変えて反応を引き出そうとするメイ。
そうだな、こちらの態度にも問題があるな。
仕方ない!
光魔法の光源がぬらぬらとした地面を照らし、小さな虫がそこら中を這い回っている。
入口こそ狭かったけど、中は案外広く、天井は結構デカい俺やローザの二倍ほどの高さがある。
圧迫感はあまり感じないけど、不気味な雰囲気だ。
「何かおるの」
「っぽいな」
鍾乳石に隠れるような人影が見える。
手には槍のような武器を持っている。
視界の隅に映る川からも気配を感じる。
「囲まれてはいませんが、それなりに数はいるようですね」
「サハギンや。ここいらにようけおるやつらでな、好戦的な魚人や。それなりに強いし、群れで襲ってくるのが特徴や」
「確かにやる気を感じるな」
既にこちらも戦闘態勢を整えている。
ジルベロの言う、それなりの強さを確かめてみるか。
人間では発音できなさそうな奇声を上げながら、サハギンが襲いかかってくる。
水の中から飛び出し遠距離から水魔法を放つもの、短槍を振り回し接近戦を仕掛けてくるやつ、長槍で牽制してくるなど何を考えているか分からない顔に反して戦い方は組織的だ。
だが、これでは流石に……
「そう言えば勿体ぶってるけど、問題のモンスターっていうのはなんなんだ?」
汚れた武器を洗いながら、なんだか真剣な目をしているジルベロに問いかける。
細い糸目がより細くなってんぞ? ちゃんと見えてるか?
「お前ら、何者や?」
サハギンに向けていた剣を鞘に収めることもせずに、ジルベロは俺たちを睨めつけている。
周囲には動くサハギンはいない。
少し前までサハギンだったものはたくさんいるけど。
「何者かって……お前の言う有象無象だろ?」
「父ちゃん、有象無象ってなんで象なの?」
「……」
なんで?
そう言われたら、なんで象なんだ?
「ぱおーん?」
「ぱおーんではないだろ、知らんけど……多分」
「ちっ!」
まぁ、この子! また舌打ちしてる!
いつの間にかグレちゃって。
納刀しながら先へと進むジルベロ。
「龍や。八つの頭を持つヒュドラや」
「おぉ、ヤマタノオロチ!」
「日本チック!」
「なんじゃ、そのナントカオロシは?」
「ダイコンみたいに言うな、オロチだ」
「ウチらの世界では有名なボスキャラ!」
「ほぅ、まだ力のある龍が他におるとはな」
「流行りだな、龍!」
レズンに続いて、またも龍か!
強そうだ! コレは期待大!
強敵と闘えることも少なくなってきた。
シリウスと闘う前にできる限り強くなっておきたいからな、こういう相手は願ったり叶ったりだ。
「余裕こいて死なんようにな」
「えっ、手伝わねぇの? まぁ、あの機械もないし、仕方ないか」
「……」
俺たちを一瞥して返事をすることもなく先へ進むジルベロ。
話しかけても無視。
コイツと軽口を叩きあうの好きだったんだがなぁ。
ちょっぴり寂しいミルズくんであった。




