75話
「頭をお上げください」
効率を追い求める産業、工業の国において無駄とされるような時間と手間暇をこれでもかと費やし、色鮮やかな模様と独特の光沢を持つ最高級カーペットに額を擦り付ける俺にティアーゴは言った。
ギルドに所属していないような冒険者に来る依頼は、あまりまともなものがなかった。
ギルドを通さない=違法なものなので高難度モンスターやレアモンスターの密猟やアレな人の護衛など、娘にやらせるのは如何なものかというお仕事満載だった。
ちなみにティアーゴのトコにくるのは既に二回目だ。
一回目は武器防具の件で良い職人を紹介してもらうために大統領府に忍び込んだ。
優秀な警備員が周囲を警戒していて、あわや大事件となるところだったのは秘密だ。
迫りくる警備員をちぎっては投げ(優しく眠らせる)ちぎっては投げ、ティアーゴの前に辿り着く頃には屍山血河の有様(メイが眠らせた警備員を整えて並べて遊んだ)
クーデターからの紆余曲折ありで政権奪取ということもあって警備は厳重、対峙したティアーゴも覚悟を決めて抜刀して斬りかかってきたのだから流石に焦った。
あわやというところで認識阻害魔法を解き、感動の兄妹再会ですよ。
俺がティアーゴの剣を受け止めている間にローザがティアーゴの横腹を杖の石突で突き刺したのだ。
「えいっ!」なんて可愛らしく言っていたけど、ティアーゴは悶絶して床に転がっていた。
回復魔法があるからっつって遠慮と配慮が足りねぇんだよな、ローザ。
エグい。
んで、今回が二回目。
共和国のギルドへの違法登録と便宜を図ってもらうためだ。
ジョウジョカから巻き上げたお金は数日の宿代で溶けた。
生活に困った俺は、ティアーゴに華麗なジャンピング土下座を決め込むのだった。
「わかりましたから、顔を上げてください! 石畳が砕けていますし、カーペットが破れていますから!」
「はわわ、弁償だけはご勘弁を!」
生活に困窮した俺のプライドの無さにティアーゴは手を差し伸べる。
「妹とこの国を救ってくれたあなたの頼みです、私としては断ることはできません。特例を認めますし、衣食住は保証いたしましょう」
「えっへっへ、すまないねぇ。あっしら、なんでもしますから御用の際はお声掛けください」
「はぁ、仕方のない方ですね……そうそう、職人の件ですが、ある人を紹介します。一癖も二癖もありますが、この国で最も情報の扱いに長けた人物です」
「おぉ、それは助かる!」
「ミルズさんも知っている人ですよ。あなたなら彼を扱えると思います」
知ってるヤツねぇ。
クセが強くて俺が知ってる共和国の人間となると、そんなに限られてくるもんだ。
あの糸目、ジルベロの野郎はちゃっかり生きてたんだな。
――
共和国の首都トルベリア、そこの繁華街のとあるお店、アイアンベリーでの待ち合わせ。
政治体制が変わろうが、ここはあの頃と同じように雑多に溢れた活気を保っていた。
その中に一人、つまらなそうに机に座ってフォークで豆をつついている人物がいた。
オレたちはその前に座る。
「自分らか、職人を探しとるゆう奴らは」
「あぁ、よろしく」
認識阻害魔法でジルベロは俺たちのことをわかっていない。
あくまで「はじめまして」の体だ。
「なんじゃ、覇気のないヤツじゃのぅ」
「魚の死んだ目というやつだね、ベティちゃん」
「なんや、このちびっ子二人は。あんたらこんな幼子引き連れて変態の類か?」
「ヤサグレて軽口に毒味が含まれてますね」
話し方と微妙な偽名でバレるかも知れないスリルを楽しみつつ、ジルベロの反応を見る。
「あぁん? まぁ、えぇわ。職人とこに案内すんのはえぇねん。ただ問題があってな、それは自分らで解決してもらうで」
「問題?」
「行く先は日出る国や」
「遠いな」
「それはそない問題やない。共和国の飛空艇の使用許可が降りとる。しかし、あんたら何者や?ワイが知らんヤツで飛空艇の使用許可が認められる冒険者なんて、どう考えてもおかしいやろ」
「まぁ、色々な方法があるってことで」
ククク、その方法が土下座だとはジルベロも思うまい。
「……問題は、その先や。最近になって日出る国へと続く洞窟の中で強大な力を持つモンスターが目を覚ましたんや」
「おぉ、モンスター!」
新たなマップに入る時のボスキャラだな!
RPGっぽくてえぇな!
ちょっとテンション上げてたらジルベロに睨みつけられる。
そんな怒らんでもえぇやん?
「自分ら、アイツらに似ててムカつくな」
そう呟くジルベロ。
ひょっとしてそれは俺たちのことか?
本人を前にしてムカつくとか言われてもなぁ。
敵味方ではあったけど、そんな悪い別れ方でもなかったし、そんな風に思われてたと思うとちょっとショック。
「勝手に死にやがって……」
ふぃっと目線を反らし、席を立つジルベロ。
あれれ〜実は悲しんでたりする?
ツンデレ兄さんか、コイツ。
「明後日出発や。早朝、ここで待ち合わせ、遅れんなや」
不機嫌そうに店を出るジルベロを見送る。
「予想はしとったが、本当にアヤツが出てくるとはのぅ」
「敵対勢力であったのに……兄様も大胆な人です」
「なんだ?知り合いか?」
「あぁ。前にこの国で色々あったんだよ」
「なんだ、本当のことを教えてやらんのか?」
「仲良しこよしだったってわけじゃねぇんだ。どっちかっつぅと敵側だ」
「よくわからん関係だのう」
「まぁな」
とりあえず行き先も決まった。
新たな強敵もいるらしい。
そして、日出る国。
リファインファンタジーでは詳細が明かされなかった謎の国だ。
さらに広がりを見せる舞台に心躍らせる俺たちだった。




