63話
「真っ黒な塔に立派な城郭とはこれ如何に?」
話に聞いていたレティ城までたどり着いた。
城の中心部にあったという塔は存在せず、城郭は崩れ落ちている。
過去に巨大な建造物があったんだろうなぁという想像は出来るけど、そこにはかつてレティシアという神がおわす居城はなかった。
「ワシの城が、鳥の巣みたいになっとる……」
「確かに言われてみれば、城郭がそんな形に組み上がってますね」
「それにここだけ雪に覆われていないのも気になるね」
「真っ白の中に、真っ黒だから超目立つ!」
「なんなんだろうな、一体」
「ミルズ!この石、暖かい」
ニナがそのあたりの石を拾って俺に渡してくる。
手に取ってみると確かに暖かい。
「というか、このあたり、少し熱を帯びているな」
「確かに! これは……とんでもない巨大生物がここにいた形跡!」
メイが昔見たテレビ番組のノリで地面に触れる。
何かを探るようにあたりを見回して
「まだ遠くに行っていない、近くにいるようだ!」
なんて適当なことを言って遊んでいる。
「巨大生物ねぇ。 案外、件の龍がここを巣にしてんじゃねぇの?」
「良いフラグだね、父ちゃん! こういう時はもうすぐ龍が現れてイベント発生だよ!」
「それだと楽で良いんだがな。 スケート移動も最初は楽しかったけど、もう飽きたし」
「ですが、そう……みたいですよ?」
ローザが空を指し示す。
遠くに見える雪山と雪山の間、何かが空を飛んでこちらに向かっている姿が見える。
かなりの距離があるにもかかわらず、ちゃんと視認できることからそのサイズはかなりのものだ。
段々とその輪郭が定かになっていき、赤黒い巨大な龍がこちらに向かっている。
「でっか! やべぇ、本当に巣だとしたらここにくるぞ?」
「とりあえずこの場を離れませんか?」
「そうだね。レティ、いくよ?」
ペタンと地面に座り込んだままのレティの手を引くニナ。
「ワシの城が……」
「おい、行くぞ。 やべぇって!」
「巣……じゃと? ふざけおって!」
レティが立ち上がって魔力を巡らせる。
「この城は……ワシの大事な思い出の場所じゃ。 それをトカゲごときが……許せん!」
おー、ごっど。
思った以上にこの場所はレティにとって大事なところだったようで、割とちゃんとキレてやがる。
くそ、調査って話だったけど、これはやり合わんと駄目か!
「ローザ、ニナ、戦闘準備!」
「はい!」
「任せて!」
俺たちは急いで戦闘態勢を整える。
相手は伝説の古龍とやらだ。
どんなに強力な相手かすら想像出来ない。
闘うのであれば万全を期したいところだったが……
龍はもう眼の前だ!
俺たちの周囲を巨大な影が覆う。
その羽ばたきだけで吹き飛ばされそうな暴風が吹き抜ける。
赤黒い鱗が陽の光を反射して、その一枚一枚に炎を宿しているようだ。
デカい……
近くで見るとよりその大きさにビビる。
共和国の巨大魔導兵装が小さく見える……
アレを一呑みにしそうな大きくて愛らしいお口から息をするだけで炎が舞い散っている。
「人間どもがここで何をしている?」
はるか上空から見下ろす龍が、腹に響く轟音で問いかけてきた。
っていうか、人の言葉を話せるのね。
じゃあ、交渉とかも出来るのか?
安全にやり過ごせるならそれが一番なんだが。
「ここで何をしておるかじゃと! ワシの城をこんなにしよって! そこになおれ! お仕置きじゃ!」
あぁ、せっかく交渉をと思ったのに、いきなり喧嘩腰でふっかけやがった。
龍とかってプライド高そうだから、人間ごときがとか言って、すぐ怒りそう。
魔力を全身に巡らせ、構える。
いつもより強く握った剣と盾が、命の危機だと自分に伝えていた。
「ワシの城だと?」
「ワシのものをワシのものと言って何が悪いんじゃ! ここは神の居城、レティちゃん城じゃぞ!」
「その声、その顔……」
「ワシの美声と愛くるしい顔がなんじゃ!」
「まさか本当に、レティちゃん?」
「ふぁ?」
レティの杖に込められた魔力が霧散していく。
龍から発せられた思いもよらぬ言葉に俺たちはただ呆然と立ち尽くしのだった。




