61話
足りねぇなぁ。
このままじゃ全然足りねぇ。
俺は足元に転がるキマイラの死体を見てため息をつく。
ランク5討伐対象指定にされているモンスター。
今回のキマイラはネームドとされる特殊個体であらゆる冒険者が挑み続けたヤツらしいが……
ちょっと前までだったら、こんなのを倒せるようになったとはしゃいでいただろう。
実際アレを見る前までは自分が強くなったと鼻をピンピンに伸ばして良い気分になっていただろう。
だが、あの馬鹿でかい魔導兵装をあっさりガラクタへと変えるシリウスを見ると、そんな気にはなれなかった。
共和国が帝国との戦争に勝つ為に何年も、いや何百年という歳月をかけて作り出したものだそうだ。
それを……
レティ曰く、全盛期の自分でも勝つことは出来んじゃろ――らしい。
この世界のトップ オブ トップ、いやアイツの目を見る限り底の底だ。
闘いに生き落ちて、潜って潜って……その深淵の底に自分以外いなかったんだろう。
その果てに羨ましそうに上を、オレたちを見上げるのだ。
若い頃の俺なら、それでもと強さに憧れ追い続けていたのかもしれない。
だが、今となっては自分の目指した先が、アレではいけないと感じるようになってしまった。
しかし、問題はそのアレに目をつけられてしまっているということだ。
シリウスの目には俺とレティが成長途中の豚に見えているんだろう。
早く肥えさせて美味しくならないかなと、どんどん依頼という名の餌を与えてくる。
そのおかげで俺たちは最早この国ではその名を知らない人がいないほどの有名人だ。
だが、その実、屠殺場への道へ一歩一歩進んでいる可哀想な豚さんだ。
「はぁ、困った……」
深い溜息をつく俺を見てレティが身体をどんとぶつけてくる。
よろめく俺に笑いながら
「気に病んでも仕方あるまいて。 何ならヌシと娘っ子だけでも元の世界へと飛ばしても良い。 今ならば十分可能じゃろて。」
そんなことを言うのだ。
酷い話だ。
「お前さ、わかって言ってるだろ。 今さらお前やローザ、ニナを置いてそんなこと出来るわけないだろが。」
「じゃろ? だから悩んでも仕方ないと言っとるんじゃ。 何も一人でアヤツに勝つ必要はないんじゃ。 ワシら全員で囲んでボコってやれば良い。」
「言い方よ。」
味の足りないツッコミにカカカと胸をそらし笑い飛ばすレティ。
「仮にも帝国の英雄とやらが……まぁ、けどそうだな。 やることは今までとなんら変わらないし、アイツを満足させられるようになるしかないか。」
「うむ、帰るぞい。 どうせ次の依頼がワシらを待っておる。」
「そうだな。 次は何がくるやら……」
そう言って俺は皆のもとに歩き出した。
皆が暖かく迎えてくれる。
そうだ、この居心地の良い場所は守るんだ。
今はそれだけ考えておこう。
あとは……負けた時に命乞いして助けてもらえる関係性を作ろう。
地面に穴を掘れるぐらいには額を擦り付けてやるぜ!
覚悟しておけよな!
翌日、帝都に戻った俺たちを迎えたのはやっぱり新しい依頼だった。
なんでも古龍復活の兆しが見えるだとかで調べてこいだってさ。
しかも場所はレティの古巣、北の雪と氷に閉ざされた大地。
寒いのは嫌だ。
出来ればお断りしたい。
だが、お断りするのをお断りされてしまった。
例により国からの指名依頼で拒否権はないらしい。
対応が冷たい。
冷たいのも嫌なんだけど。
シリウスさんからしたら俺たちは遊び道具なんだろうけど、もう少し暖かく大事に使ってほしいところだな。
さて、そんなこんなでギルドに集められた面々は、ランク4とランク5のパーティー。
ランク5のパーティーなんて国内にたった2組、ランク4だって3組しかいないのにそのうちの一組ずつ、俺たちを合わせて3パーティーが集められていた。
応接室では居心地の悪そうな雰囲気が醸し出されていた。
だってランク4のパーティー「ウルフズレイン」さんがすけぇ睨んでくるんだもの。
ギルドマスターから紹介された時から感じが悪かったからな。
ウルフズレインのリーダーのファングさんって人がイライラを隠すこともなくギルドマスターに食ってかかる。
「なんでこの場にランク3の奴らがいるんだ? 極秘かつ困難、命の保証は無しと聞いていたのによぅ。」
「彼らは国からの指名依頼でここに来ている。 実力の面でも問題ないと騎士団からのお墨付きだ。」
「こんな若造たちがか? 騎士団も落ちたもんだな。」
「まぁ、そう言いなさんな。 別に一緒に行動しろってわけじゃねぇんだろ、マスターよぉ?」
この中では比較的年のいった、言ってもせいぜい三十代半ばのおっさんがなだめるように間に入ってくる。
ランク5のパーティー「マスカレイドナイツ」の誰々らしい。
名前は……忘れちゃった。
ファングさんは覚えた。
だってファングですよ?
親につけてもらったのか、改名したのか、自称なのか非常に気になるところだ。
なのでファングさんに噛みつかれても痛くはないし、心の中ではファングサンマヂカッケーッスって賞賛している。
憧れちゃうなー。
とまぁ、そんなこんなで今度は北の大地へ。
レティの故郷への旅だ。
コイツラはおいていって、レティにしれっとテレポートしてもらおう。
俺はタイパを気にする現代っ子なのさ。




