60話
共和国での戦いから2か月ぐらいたったかな。
いつも通り俺たちは依頼をこなしていた。
ランク3のモンスター討伐系などの戦闘が主なものをピックしていたが、このあたりのレベルではもはやレベリングや訓練なんていう感覚は無い。
敵が弱すぎるんだよな。
たまにランク4のも混ぜてくれるんだけど、それでも釣り合わなくて、シリウスから詰められてる身としてはもう少し何とかならないかと思っていた。
そんなある日、依頼から帝国に戻ってきたら家の玄関に胡座をかき欠伸をしているフェイリスがいた。
何処かで見たことのある顔だけど……
そのフェイリスは俺たちの顔を見るなり立ち上がり詰め寄ってきた。
「何処に行ってたんにゃ! お前をずっと待ってたんだかんにゃ!」
「いや、待ってたって言われても……何処の誰だっけ?」
「ウチ、見たことある気がするけど。 視界に入れるとそこはかとなくムカつくし!」
「また何処かで女を引っ掛けてきよったのか、ワシというものがありながら!」
「いや、ずっとお前らといただろ! 何処にそんな時間があったんだよ、脳みそを使え! ローザさん? なんで杖から鈍器に武器を持ち替えてるのかな?」
ニッコリと微笑むローザ。
悪魔のような天使の笑顔ってやつだ。
恐ろしい。
「ほら、紫炎の誓いにいたフェイリスだよ、ジョウジョカっていう名前の。 ミルズが酷い目に合わせたじゃないか。」
「あぁ! あの……」
ゴルドバのレティが作った城で戦ったフェイリスか!
めっちゃ強かったけど、ニナのデバフを無視し続けた結果、俺にありとあらゆる関節を折られた挙句、絞め落としたんだっけか。
「覚えてにゃかったにゃんて…… ゆるせんにゃ!」
「まぁ、落ち着けって。 だいたいこんなとこまで何の用だ? 一人でリベンジか?」
「そうにゃ! あれからお前をボコす為に修行を積んだのにゃ! もう一度寝技で勝負にゃ!」
「お、いいね! やられたところで勝負とかその意気や良し!」
「あ、それならウチもやりたい! グラップリングオンリーなんて久しぶり!」
「まぁ、好きにするとえぇんじゃが明日にせん? もう夕方じゃし、飯が食いたいのぅ。」
「そうですね、お風呂にも入りたいですし。」
「食事当番は僕だね。 何を作ろうかな。」
「魚料理がいいにゃ! ウチもお腹と背中が危うくくっつくとこだったんにゃ。」
「お前、ナチュラルにタダメシ食おうとしてんじゃねぇよ! まぁいいけどさ。」
他人の家に招かれもしていないのにもかかわらず、最初に家に入った挙句、リビングのソファーにどかっと腰掛けるジョウジョカ。
皆はお風呂の準備したり、片付けをしたり、ご飯の準備を始めたりといつも通り。
命のやり取りをした相手だっていうのに皆、懐が深いなぁ。
「おい、メシはまだかにゃ!」
借りてきた猫っていうシステムはコイツには働かないらしい。
おい、机の上のコップを淵ギリギリの移動させるな。
あ、コップが……
そっちのシステムは働くのかよ!
「じっと座ってろ!」
何故かその日、ジョウジョカは当然のように風呂まで入って泊まっていった。
厚かましいが過ぎる!
次の日、約束通りジョウジョカとグラップリング勝負をすることになった。
あ、俺たち結構な高給取りになって、しかもあんまり金使わなかったから家を購入したんだわ。
安宿でずっと済ませてて別に皆不満そうでもなかったんだけど、ギルドを通して国から指導が入った。
国を代表するような冒険者は他の冒険者に夢を与えろっだってさ。
まぁ、言ってる事はわかるので素直に従った。
結果、美女を侍らせるハーレムの主として俺は男性冒険者に夢を与える存在になったわけだが、憧れの眼差しとともに、別の視線も頂けることになった。
「嫉妬で人が殺せたら……」
「月の出ない夜に気をつけろ」
だとか、なんとか……
まぁ、それは置くとしよう。
そこはジムも併設していて、そこでやることになった。
「覚悟するにゃらぁあああ!」
開始の合図とともに真っ直ぐぶつかるようなタックル、まさに力任せだ。
スピードは極上だが……ガブッたあとにがら空きの首にフロントチョークで一本。
組んでも寝てもフィジカル頼みのジョウジョカをいなしてボコボコにする。
「なんでにゃ! あの時よりも速く、強くなったはずにゃ!」
「速く強くは俺たちもなってるし……お前そこしか磨かなかっただろ。」
「次はウチと!」
案の定、メイにも極められまくるジョウジョカ。
忖度がない分、俺よりもガッツリやられている。
メイは良い練習台が出来て物凄く楽しそうだ。
そのうちジョウジョカがわんわん泣き出した。
猫なのに……なんて気温が下がりそうな感想は置くとして。
「なんでにゃ! 全く納得がいかないにゃ!」
「逆になんで打撃は理に適った洗練されたものが打てるのに他は適当なんだよ。 例えば……メイ、受けて」
シングルタックルの基本を説明しながら実演する。
手の位置、首で圧をかける、足運び、どっちに倒すのか、そういうまさに基本中の基本を。
「なるほど、なるほどにゃ……」
涙を拭き、そう頷きながら練習していく。
やっぱり身体の使い方自体は理解しているみたいで、するすると教えたことを理解していく。
流石だなぁと感心しながら、こうやって人に教えて育てるのも面白いな、なんて思ってみた。
そうこうしている間に日も暮れ、今日はお開きとなった。
「ありがとうにゃ、師匠!」
「誰が師匠だ。 まぁ、俺も楽しかったよ。」
「ウチも! 昔の自分を見ているみたいでちょっと面白かった!」
「さぁ、戻ってメシにしようぜ。」
「うん!」
「にゃ!」
さも当然のようにまたも家に入ってくるジョウジョカ。
まぁ、いいか、なんていう考えが危険だった。
それから一ヶ月、コイツはふらっといなくなるまで俺たちの家に住み続けるのだった。
以後、気が向くままに俺たちの家を勝手に使用する同居人が追加された。
ハーレムに新人がまた一人追加されたという噂が冒険者の間に広がるのに、そう時間はかからなかったのだった。
そんな折、帝国からランクアップの報せが届く。
より難しい依頼、もっと厳しい戦いが待つ世界へ誘われる。
それが誰の意思によるものかは明白だった……




