55話
レティのテレポート魔法で軍事演習が行われていた現地へと飛ぶ。
事前にゲートクリスタルを設置しておいたのだ。
ジルベロも小レティなんていうフザケた裏技は思いもつかなかっただろう。
なんというかご愁傷さまってやつだ。
ただ現状はまだまだのっぴきならない。
ティアーゴたちのいる場所にはここからはまだ距離がある。
その上、魔導兵装に周囲を囲まれているからな。
まだ何が起こっているのかわかっていない兵士たちが俺たちへの対処に戸惑っている間に出来るだけ距離を稼がなければならない。
「あそこだ! 皆走れ!」
ティアーゴたちがいる場所を指さし、全力で駆ける。
彼らはティアーゴを中心に防御陣形を敷いているが、戦況はよろしくなさそう。
急がなければ……
事態を把握し始めた兵士たちが俺たちの行く手を阻む。
「ニナはフィジカルをあげるバフを! ローザやヘルクスハイン兄妹を中心で俺やアクセル君は漏れてもいい!」
「任せて!」
「メイ! 戦闘で暴れて前を切り崩していけ! レティは出来るだけ敵機を近付けさせない魔法を展開!」
「オーキードーキー!」
「任せるがよい!」
「アクセル君は俺と一緒に左右の壁役だ! 踏ん張れよ!」
「はい!」
レティの風魔法が道を開ける。
その中をメイが突っ込み開けた道を確保していく。
遅れがちなヘルクスハイン兄妹をニナがフォローして俺たちは前進を続ける。
命を貫く火線が舞い、熱波が身体を伝う。
それでもなんとか剣林弾雨を掻い潜り、襲い来る敵機を薙ぎ払う。
レティは煙幕や幻影によるデコイで同士討ちや敵機の混乱を誘い、こちらの人数が少数である利点を上手く利用する。
恐ろしいやつだ。
冷静かつ的確。
こと戦いにおいて、コイツほど頼りになるやつはいない。
約分は出来なくても頭は回る。
これならば間に合う。
問題はその後だ……
「ローザ、兄貴は助ける。」
さっきまで泣き腫らした顔はすでに覚悟を決めている。
「だけど、それだけじゃない。 それじゃ足りない。 彼が率いた部隊、全員を救う。 それには君の力が必要だ。」
ティアーゴの部隊は少数といえ20人そこらはいる。
全員を連れて動けば、数で潰される。
それだけは明白だ……
全員の奮闘が実を結び、ティアーゴの部隊との合流を果たす。
思いがけない援軍に死に体の彼らに士気が戻る。
絶望の最中であってもティアーゴを信じ、戦い続ける彼らを俺は見捨てることはしない。
ローザが部隊の中央へと駆け出す。
「兄さま!」
土手っ腹を撃ち抜かれ息も絶え絶えのティアーゴは、その虚ろな瞳をローザに向ける。
「あぁ、ディアナ。 君の姿が見えるよ…… 最期に会いに来てくれたんだね。 ありがとう……」
ローザはティアーゴを抱きかかえ、全力で回復魔法をかけた。
「みんな……すまない。 僕はここまでのようだ。 なんとか生き延びてくれ…… あぁ、身体が軽い……」
ローザの魔法はまたたく間にティアーゴの腹の風穴を塞ぎ、全身の傷を癒していく。
「兄さま、もう大丈夫です。 傷は治りました。 出血が酷かったので無理は禁物ですが。」
「あぁ、ありがとうディアナ……ディアナ?!」
「はい、ディアナです、兄さま!」
ローザはティアーゴを強く抱きしめ感情を爆発させる。
少し子供っぽい、今までに見たことのないローザの一面が垣間見れた。
ほっこり。
だが今はそれどころではない。
「二人とも感動の再会のところ悪いんだが、それはあとでやってくれ。 ローザ、エルフリーデ、部隊に回復魔法をかけ続けてくれ。 ティアーゴ、部隊に密集隊形を取らせてくれ。 手がある。」
ティアーゴは今や脱出口すらもないこの戦場で助かる道があると信じている俺を見て、力強く頷く。
フラつきながらも良く通る声で部隊へ指示を出し、彼らはそれを疑うことなく即座に従う。
良い部隊なんだな。
指揮官との信頼関係がよくわかる。
レティがその陣形の中央で巨大な魔法陣を描き、魔力を込めはじめる。
レティの魔力が魔法陣に注ぎ込むうちに少しずつ光を放ち、部隊を覆っていく。
「5分じゃな。 それまで持たせるがよい。 ヌシよ、あとは任せる。」
レティは一切の感覚を閉じるようにひたすら神経を研ぎ澄ませる。
杖を掲げ、歌うように詠唱を紡ぐ。
あのレティが魔法の構築に全力を捧げ、完全に無防備だ。
それは十全なる信頼を俺に寄せているということ。
ここで気張らないヤツはヒーローじゃない。
「任せろ。」
迫りくる魔導兵装。
多勢に無勢。
迫りくる砲撃が敵機の接近を伝えていた。
絶体絶命のピンチに気持ちを奮い立たせる。
各個に全力で身を守る指示のあと、俺は身体へ全ての魔力を張り巡らせる。
破裂しそうなほどに内包した力を俺は爆発させ、敵部隊へと飛び込んだ。




