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女神と転生〜ポンコツ女神と父娘が最強へと至る道〜  作者: 荒頭丸


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36話

夕暮れ前の町外れ。

クレセントムーン――すなわち、私メイのもうひとつの顔は、今日もひっそりと人助け活動中である。

……といっても、今日は魔物退治でも盗賊退治でもない。

森の中で泣きそうになっていた小さな女の子を家まで送っていくという、クレセントムーンとして大事なお仕事の最中なのだ。

「ありがとう、お姉ちゃん!」

「うん! だけど1人で森になんて行っちゃ駄目!」

「お兄ちゃんの咳がひどくなってきたから、薬草が必要で……」

「火中の栗げっちゅーだよ! 君が危ない目に合うのはお兄ちゃんも喜ばないんじゃないかな!」

「でも……」

そう言って、妹ちゃんは胸の前でぎゅっと籠を抱きしめた。

中には青白い葉っぱがこんもり。

薬草の名前は私も知っている――肺に効く、ちょっと珍しいやつらしい。

でも、採れるのは森の奥、獣の縄張りに近い場所。

「それでも危ないよ。次は誰かと一緒に行くんだよ?」

「……うん」

頷いたけど、絶対また一人で行く顔してる!

大好きなお兄ちゃんを助けてあげたいんだろうな。

妹ちゃんの家の前に着いたその時、勢いよく戸が開いて、中から長身の青年が飛び出してきた。

顔色が悪いけど、それは身体の不調が原因じゃなさそう。

よっぽど妹ちゃんが心配だったんだね。

「チェルシー! また一人で森に行ったのか!」

「だって! お兄ちゃんの咳が!」

「危ないって何度も言っただろ! 俺のことはいいから!」

「よくないよ! お兄ちゃんが倒れたら、わたしもっと嫌だもん!」

お互いの言葉がぶつかるたび、声が少しずつ大きくなる。

兄の手が薬草の籠を掴みかけ、妹が必死で引き寄せる。

「ストップ、お兄ちゃん! 一度落ち着こう」

「あんた誰だ?……って、太陽の下のクレセントムーン!」

「太陽の下は余計! 夜は眠くなるから昼間に活動しているだけ!」

ふふふ、だんだんと名前が広まってきた!

困るな! ウチはただただ町の平和を守り続けているだけなのに!

「妹を助けてくれたのか……ありがとうございます」

「妹ちゃんを許してあげて。お兄ちゃんの身体が良くなって欲しいって気持ちが強すぎたんだ」

「それは……もちろんわかってます。けど、それでチェルシーに何かあったら僕は……」

自分の病気のことよりも、妹ちゃんに危険が及ぶことに苦悩している優しいお兄ちゃんだ。

「ね、チェルシー。君がお兄ちゃんを自分より大切に思うのと同じように、お兄ちゃんも君のことをそう思ってるんだよ」

「お兄ちゃん……」

「だから危ないことしちゃ駄目。わかった?」

「……うん」

やっぱり納得なんてできないよね。

妹ちゃんはそれでも無理をするって顔に書いてある。

どうしようかな。

「今日はもう遅いからゆっくりおやすみ。明日、お兄ちゃんとよく話し合ってほしいな!」

そう言って兄妹と別れる。

お互いを思い合ってるのに二人とも辛そう。

なんとかしてあげたい、そう思ったら居ても立っても居られなくなっちゃった。

次の日の朝、ウチはダッシュで森へ向かいあの兄妹が必要としている薬草を取ってきた。


それから……

「レティえも〜ん!!」

「なんじゃ、朝っぱらから?!」

寝相の悪さでパンツがズレて半ケツになっているレティを叩き起こして事情を話した。

レティは寝ぼけ眼でパンツの位置を修正している。

「むぅ、ワシ、あんまりそういうのん得意じゃないんじゃよな。それじゃったらローザの方がえぇんでない……」

確かにそうかも!

ウチはレティのパンツをズラし、半ケツに戻してから布団をかける。

「ゆっくりおやすみ……」

「なんじゃよ……まったく……むにゃむにゃ……」

すご! むにゃむにゃって言った!

寝ぼけている時に言いたいセリフ第一位じゃんかさ!

やっぱりレティはスゴいな!

けど、それは今は置いておこう!

「ロザえも〜ん!!」

眠りにつくレティの横で胸の前で手を組んで寝ているローザに声をかける。

そうだ、声をかけても駄目なんだった!


しかし……なんだこの無駄に大きい脂肪の塊は!

ローザの先祖はラクダで、水をここに蓄えているとかじゃないのかな!

自分の胸に手を当てて考えてみる。

なんだか無性に腹が立ってきたのでローザの組まれている手をほどき、人差し指を鼻の穴に突っ込む。

「何してるんだい?」

その時、ニナが目を覚ました。

目を擦りながらローザに視線をあわせると、ニナはぶふっと吹き出した。

「朝一からこれは駄目だよ、メイ」

起き抜けの突然のローザの一発に笑いをこらえるニナ。

怒りからこんな行動を起こしてしまったけど……

口で息をせざるを得なくなったローザの唇が、吐き出された空気によってぷるるっと少し揺れる。

ぶふっ!

自分も吹き出してしまった。

こういうのって他人が笑いはじめると自分も伝染しちゃうよね!

寝姿すら美しいローザの鼻に指が突っ込まれているのはだいぶ面白い。

写真があったら絶対撮っておくのに、惜しいなぁ!

「で、何をしているんだい?」

「そうだ、こんなことをしている場合じゃなかった!」

本来の目的に戻らなければ!

「ロザえも〜ん!!」

バレないように指を抜き、ローザを起こす。

「事情は分かりました。この薬草があれば魔法薬を作り出すことは可能です」

「ほんとに! お願い、ローザ! あの兄妹を助けてあげて!」

「はい……ただ……一度このことをミルズに話しておいた方が良いと思います」

「そうだね、僕もそうした方が良いと思う」

ローザとニナに促されて渋々父ちゃんに事情を話にいくことになった。

ローザはその間に薬を作っておくって言ってくれているからいいけど、なんでだろ。

父ちゃんに事情を話すと難しい顔を浮かべる。

良いことをしているはずなのに……

父ちゃんだって同じことをするはず!

「メイちゃんや、確かにやってることはとても良いことだと父ちゃんも思うよ」

「でしょ!」

「ただね……いや、とりあえず一緒にいこうか、その兄妹のところに」

「えっ?! 父ちゃんも来るの?」

「うん。 何か問題があるのかい?」

「いや……その……あの……」

ウチは意を決してその場でくるりと回転する。

いつものように赤いマントと半月マスクをまといクレセントムーンスタイルにモードチェンジする。

「この姿でも良い?」

ちょっと恥ずかしい。

いや、とても恥ずかしい!

父ちゃんは魅惑の変身を遂げたウチを見て呆けている。


16歳。

高校生。

正義のヒーローになる。


これはなかなかのダメージを与えるに違いない……

父ちゃんはわなわなと震えながら……

「街で噂のクレセントムーン……その正体がメイだったなんて……」


そこなの?

そこで驚くの!

ウチの感性ってまだ無事なの?

クレセントムーンは問題じゃないの!

いや、そうじゃない気しかしない!


この父にしてウチ有り……そういうことだね!

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