33話
ウィンダミア連邦国。
ネイフェルの民が築いたこの国は、長きに渡り「星詠の塔」に住まう神子の託宣に従い、諸部族の知を継ぐ博士たちによる合議で統治されてきた。
それは国家というよりも、一つの巨大な学会にも似ている。
政治の舵は、各専門分野の院を束ねる院長たちの会議によって切られ、最終的な判断は、星を詠む神子が告げる天の意志に委ねられるのだ。
この地の首都たるセフィラは、街全体が魔法研究機関として機能する稀有な学術都市であり、その中央には星詠の塔と呼ばれる神殿がそびえ立つ。
塔の周囲には、鏡のように夜空を映す聖なる泉――**星鏡**が設けられている。
神子は毎夜、星鏡に映る天の兆しを読み取り、未来の流れを言祝ぐ。
この占いは「星写し(ほしうつし)」と呼ばれ、千年近くにわたってウィンダミアの政治指針となってきた。
星詠の神子は、血筋によってではなく、塔に選ばれし存在が任じられる。
代替わりの時期は定められておらず、「星の間」に現れる幻視によってのみ判明するという。
政治とは理であり、理は星に宿る。――それが、ネイフェルの民の信じる道だった。
そして今――
全ての判断が下される元老院の中心、「天照の間」にて、ウィンダミア元老院の首席を務めるロザリカ・ナザリカの前に、三人の影が膝をついていた。
ラセルナ・リセリア。
セリアス・アルセリアス。
ジョウジョカ・ナヴィーラ。
いずれも各院が誇る精鋭であり、対外任務を一手に担う“特別行動隊”の中核を成す者たちである。
彼らは、先日のゴルドバにて発生した事態と未知なる勢力との交戦結果を報告するためにここへ招集されていた。
「それで、あなた達はおめおめと負けて帰ってきたのでして?」
「……申し訳ございません」
ラセルナとセリアスは深く頭を下げる。
一方でジョウジョカはふてぶてしく拗ねた態度で下を向いていた。
「別に負けてなんかないにゃ。 あのよくわからない針さえなけりゃあんにゃやつら……」
「あらあら、あなたは本当に仕方のない人ですわね。 その様な態度だから慢心し、自身の成長を止めてしまうのですよ。あなたの師が今のあなたを見たらなんというのでしょうかしら」
ロザリカはやれやれといった様子でジョウジョカの態度を嗜める。
ロザリカは炎魔法に長じた、ウィンダミア屈指の強大な魔道士である。
彼女が放つ紫炎は、戦場で華のように咲き乱れ、見たものを死へと誘う"葬送華"と恐れられている。
「師匠はもう関係ないにゃ。第一なんでウチがオマエに偉そうに説教されなくちゃならないんにゃ!」
「にゃーにゃーと負け猫がうるさいことですこと。 これは少々躾けが必要かしらね」
「躾け? オマエにウチが抑えられると思ってんのかにゃ!」
尻尾を逆立ててロザリカを睨みつけるジョウジョカ。
「よろしくてよ! さぁ、いらっしゃいな。あなたのご自慢の力がどれほどのものか、己の身を持って証明してみなさいな」
さも退屈そうにロザリカは彼女を見下ろし、あくびを浮かべる。
「吐いた唾は飲むにゃよ!」
そう言うが早いか、ジョウジョカは一瞬でロザリカとの距離を詰め、その爪をロザリカの胸へと突き立てようとした。
その一歩手前、ジョウジョカの右脚は紅い閃光に撃ち抜かれる。
ついで左脚、両手と貫かれた彼女は刹那のうちにその戦闘力を失った。
ジョウジョカは驚愕と屈辱の表情を浮かべ、苦痛とともに床を舐める。
「日頃の研鑽を怠り、師の教えを忘れ、頭に血が上って特攻する……それではウィンダミア屈指と言われたその"武の才"も何の意味も持ちませんことよ」
這いつくばり、四肢に力を失いながらもいまだ前進を続けるジョウジョカを一瞥し、彼女は指を鳴らす。
ジョウジョカの眼前で魔力爆発が起き、彼女は吹き飛ばされる。
「クソ……覚えていろにゃ……」
「えぇ、もちろん覚えておきますわ。腐らずに何度でもいらっしゃいな。 さて……あなた達……」
ロザリカはラセルナとセリアスへと向き合う。
「ワタクシの弟子が負けて帰るなど我慢できませんの。お分かりになるかしら?」
満面の笑みを浮かべながらロザリカは2人に歩み寄る。
セリアスの頬に優しく触れ、ラセルナの頭を撫でる。
戦慄の表情を浮かべる2人を見て、ロザリカは高く笑う。
「よろしくてよ! 私の不肖の弟子は理解力だけはあるようで安心しましたわ!」
これからの日々を思い、青ざめた表情で天照の間を後にするラセルナとセリアス。
ジョウジョカはいつの間にかいなくなっていた。
あの負傷でも動けるとは……負けん気だけは一流だとロザリカは笑みを浮かべる。
「ジョウジョカにはあんなところで足踏みしてもらっていては困りましてよ。それにしても……」
2人から報告のあった冒険者達。
種族はバラバラ、所属も不明。
少々ゴルドバのギルドを強めに強請ってみようかしら……
あの3人、そしてアイアンジャック二体を相手取って勝ちうる冒険者などそうはいませんものね。
案外すぐ見つかるかも知れませんわ。
それに……
「蒙昧の魔女レティシアの復活ですか……はたしてそんなことが起きうるのでしょうか……」
そんなことになれば、レティシアはまた戦争をはじめるのかしら。
そうであれば……是非とも戦ってみたくありますわ。
帝国の神速、魔女レティシア、それらを屠るのは私をおいて他におりませんもの……
「ふふ、これは楽しくなりそうですわ!」
滑らかな金髪が左右に分けられ細いリボンで愛らしく結ばれている。
裏腹に鋭い眼光で好戦的な笑みを浮かべるロザリカの高笑いが誰もいない天照の間に響きわたるのだった。
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