113話
「そうだよなぁ! そうなるよなぁ!」
喧嘩四つの形でミルズとシリウスは相対する。
シリウスとしては展開を作り出し、望む形に持っていったところだ。
至近での剣技に絶対の自信を持つシリウスにはミルズという防御の要を落とす絶好のチャンスとなったはずだ。
「この形も、あなた方の予定通りだとでも? 良いでしょう。その自信ごと斬り裂いてみせます!」
「かかってこいやぁ!」
吠えるように気合を高めミルズはシリウスの神速の攻撃を迎え撃つ。
自在に剣を操り、一縷の隙も見逃さないシリウスはミルズの剣と盾、身体の重心の位置すらも正確に見抜き剣戟を浴びせかける。
「うぉらぁあああ!」
しかしミルズも粘りを見せる。魔力による身体強化を限界まで高め、シリウスの攻撃になんとか対応しようとしていた。
だが……
「それでは私には勝ち得ません!」
シリウスの切っ先がミルズの盾の端を舐めるように動く。
その動作に重心を崩されたミルズは刹那の隙を見せてしまうのだった。
「そこです!」
ミルズの首元を目掛け、シリウスは剣を真っ直ぐ突き出そうとしていた。
「アィイイイイ!」
そこへメイの飛び蹴りが間に入る。
だが、シリウスはそれも冷静に切り返す。
ミルズへ突き出していた刃を反転させる。背を向けるようにしてメイの足先を剣に沿わせ、その勢いを受け流した。そしてその防御の動きの中で剣を跳ね上げ、メイごと持ち上げる。
今度は空中で体勢を上手く整えられないメイに大きな隙が生まれる。
「それほど甘い相手だとお思いですか?」
冷たく言い放つシリウス。
その切っ先はメイの身体へと吸い込まれようとしていた。
鮮血が宙に舞う。
「っつ!」
シリウスの剣がメイへと到達する直前、レティの氷弾がシリウスの腕を貫いたのだ。
「ワシらがそんなに甘い相手じゃと思うたか!」
この超高速の動きの中でレティはシリウスに魔法を当ててみせたのだ。
シリウスは信じられないものを見たといった様子で一旦ミルズたちから距離を取るのだった。
「……」
自分の腕を回復しながらシリウスは冷静に先ほどの一連の流れを考えていた。
その間もレティの魔法は止まることを知らない。
普通の魔術師ならば既に魔力切れを起こしているであろう。
だが、レティご自慢の魔力変換の効率とニナの歌声による魔力回復のバフの相乗効果は、彼女の魔力が尽きることのない無限を思わせた。
とめどなく続く攻撃の中、シリウスはどう戦うべきかを考えていた。
先ほどレティに狙い撃たれたのは偶然か?
あのようなことが何度もできるとは到底思えない。
数ある選択肢の中でシリウスが選んだのは、もう一度前衛陣を切り崩すというものだった。
幾度目かのチャレンジでシリウスはミルズへの接近を果たした。
だが今度はミルズ、メイ、レズンに囲まれている形だ。
「舐めるなよ!」
「鎧袖一触!」
「3人同時の攻撃がかわせるかよ!」
一度目の攻撃よりも明らかに状況は悪い。
だが、それこそがシリウスの狙いであった。
三人の混戦はより密度の高い攻防を生み、魔導師がその中に入っていく隙間を失くしていた。
そして完全に三人に囲まれた上で、シリウスはさらにその上をいく自信が彼にはあったのだ。
襲い来る爪を躱し、打撃を受け流し、剣戟を掻い潜る。
三人の連携に生じた一瞬の隙。
それを見逃さずシリウスは立ち回った末に、逆にミルズの足へと当身を行い隙を作り出したのだ。
吸い込まれるようにミルズの首元へと刃が迫る。
だが、またしてもその直前に今度は風の刃がシリウスの剣を弾き返したのだった。
「……なるほど」
シリウスは止められた自分の剣を見つめ、納得するように頷いた。
そしてレティの魔法射程外まで距離を取り、ローザを見つめるのだった。
「離れ業ではありますが……それはレティさんだけではなかったのですね」
シリウスは剣を地面に突き刺し、ローザに拍手を送った。
「本当に……あなたたちは素晴らしい。その発想力、私にはありませんでした。敵の魔法に対する耐性魔法……それを味方の魔法に利用するなんて」
実のところ、レティの魔法はシリウスだけを撃ち抜いているわけではなかった。
ローザの防御魔法をミルズたちにかけ、同士討ち上等でレティは味方丸ごとシリウスへと魔法を撃ち込んでいたのだった。
味方への被害を最小限に抑えるレティの腕があってのことだが、それは十分に機能していたのだった。
「お前もすげぇよ……マヂでバケモンだわ」
ミルズは内心震えていた。
自分たちも強くなった。
自信もあった。
練りに練った作戦が上手くハマり戦いは優勢に進んでいるように見えた。
だが本当はここで……三人で囲んで戦う状況である程度のダメージが見込める予定だったのだ。
それをシリウスはあっさりと突破した上で、逆にこちらの戦術を看破してみせた。
自分たちの最善を尽くした上で余裕を見せるシリウスにミルズは震えながら……笑っていた。




