114話
「ふふ、楽しい……楽しいですね」
上気した顔で満足そうに微笑むシリウス。
戦況は互いに互角に見える。
だが、心理的に押されているのはミルズたちの方だった。
それでも自分たちの勝ちを信じ、最善を尽くす。
皆でアイコンタクトを取り、意志を共有する。
「このままいけばなんとか……」
ミルズは柄をぎゅっと掴んで戦意を高める。
「それでは、再開といきましょう!」
シリウスが地面を踏み込むだけで降り積もった雪が爆散する。
爆ぜるような音と共に今度はミルズの元へと真っ直ぐに近付いてきた。
先ほどと同じ形。
「自分で俺たちの望む形を作ってくれるんなら好都合。堂々と迎え撃ってやるから、かかってこいやぁ!」
ミルズたちはもう一度シリウスを取り囲んで攻撃し、シリウスの隙を伺っていた。
剣閃、爪斬、打撃、そして氷弾。
その全てがシリウスを標的に狙い放たれる。
だが、なおもその身体能力と技術でミルズたちと拮抗するシリウス。
「成長するのが自分たちだけだと……そう思い込んでいませんか?」
その一言にミルズの背筋が凍る。
何かヤバい。
だがミルズのその直感よりも、シリウスは速かった。
激しさを増す攻撃の中、シリウスの指先が眩しく光る。
一条の光が貫いたのはミルズたちの後方、ローザだった。
ローザが倒れる。
白い雪が鮮血に染まる。そして倒れたローザの身体を、降り積もる雪が静かに覆っていく。
「ロ、ローザ!」
ミルズが振り返った先はただ白い世界だけが広がり、ローザの姿はすでにその中に埋もれ見えなくなっていた。
そしてその隙を見逃すシリウスではない。
目の前のシリウスから視線を外したミルズの首元にはシリウスの白刃がその首を両断せんと襲いかかっていた。
「馬鹿者が!」
そこへレティの魔法が味方ごと巻き込んで打ち込まれた。
ローザの援護なしの状態でミルズたちに着弾した魔法は彼らの中で爆ぜる。
敵味方の区別なく爆発が全員を吹き飛ばした。
四方へと散り散りに吹き飛ばされるミルズたち。
それをレティは冷静に見ていた。
そして、シリウスの姿を確認したレティはすぐに魔法を氷弾へと切り替え、シリウスの前に弾幕を張り巡らせていくのだった。
流石のシリウスも爆発のダメージと襲い来る氷弾に一旦距離を取らざるを得ない。
その間にミルズたちは体勢を整える。
そして彼らには爆発魔法のダメージを回復する魔法がかけられるのだった。
それはローザの無事を意味していた。
「良かった……」
安堵するミルズ。
ローザが杖を振って問題ないことを伝えていた。
「良かったですね。彼女のほうが一枚上手でした。レティさんの魔法に合わせていたものを直前で自身の防御にまわすとは……」
シリウスは耐性魔法に集中しているローザを狙い撃つことで、厄介なレティの魔法を封じることに成功していた。
それはミルズたちの攻撃を掻い潜り、位置取りも把握し、ここしかないというタイミングで放たれた世界最速の魔法。
「オマエ、剣と同時に魔法も使えるのか……いや、それ自体は想定してた……」
だが、あの飽和攻撃の中であれ程素早く、かつ正確に光線魔法を放つとは想定していなかった。
「そしてレティさんの判断力、舌を巻きますね。あなたの防御が間に合わないと見るや否や味方ごと吹き飛ばすとは。まったく恐ろしい」
「ふん、ヌシもやるではないか。実のところ剣と魔法の両立、今まではできなかったのじゃろう?」
「ふふ、あなたには隠し事はできそうにありませんね。先ほども申し上げた通り、私も成長しているのですよ」
「喰えぬヤツじゃ」
そう会話を続けながら、レティは考えていた。
戦うこと数時間、ここまでは上出来だった。
想定を上回っていると言っていい。
だが、シリウスが今の戦術を破った以上、続けるのはこちらが不利だ。
ならば……
「ヌシよ。予定より少し早いが……ここからはガチンコじゃ」
「了解。まったく……あっさり人が一生懸命考えた戦術を破りやがって、この化物が!」
それぞれ距離を取っていた位置取りをやめ、シリウスに近い位置へと動きだした。
「やっと僕も動けるよ。レティ専用のアイドルには飽きたところだったんだ」
ひたすらレティの魔力の回復に動いていたニナが前線へ入る。
そしてレティとローザもこれまでより前衛に一歩近い位置で陣取る。
「おや、これは皆さんお揃いで。良いのですか? 一歩踏み込めば私の剣が全員に届きますよ?」
「オマエの魔法は距離を潰すからな。俺たちの作戦が通じないなら、皆を守れる距離で戦うほうが良い」
「ふふ、良い顔です。皆さん、覚悟はよろしいようで。それでは死合うとしましょうか!」
シリウスが剣を構える。
白銀の世界には音はなく、ただ勝者を待ち望んでいるように思えるのだった。




