112話
その日は吉事なり凶事なり、起きそうな日だった。
……なんて言いたくなるような天気だった。
悪天候だらけのあの土地で、その日だけは雲一つない快晴。陽の光を雪が反射して一面が真っ白に輝いている。
超眩しい。
その白銀の世界に黒く鈍い光を放つ石畳が広がっていた。
レティ城——
地面から隆起して勝手に城が建ったということだけど全く意味がわからんな。
まぁ、レティのことを気にしても時間の無駄だ。
これまでの経験が間違いないと伝えてくる。
アイツの存在を何かで測ろうとする行為のほうが馬鹿らしい。
「ここは?」
「あれ、来たことないんだっけか」
「はい」
「レティの城だよ。正確に言うと跡地だけど。ここで生えてきたんだって」
「人を豆の木みたいに言うでない。ワシの城って言っても建てた覚えも、どうやってここにきたのかもわからんがの」
「お互い昔のことすぎて、当時のことはあまり正確に覚えていないですしね」
「ワシは死にかけたことだけはしっかり覚えとるぞ」
「私は……あまり記憶にないんですよね。嫌なことでもあったのか、記憶からすっぽりと抜けているというか……」
「無礼なヤツじゃわ」
「オマエもシリウスの顔、覚えてなかっただろ。どっちもどっちだ。」
「まぁ、昔話をしに来たわけでもあるまい」
「そだな、準備しよう。そっちはいけんのか?」
「はい、私は何時でも」
「余裕じゃな。いつまでその余裕が持つかワシが見ててやろう」
ラスボス戦だってのに、随分と雑な始まり方だ。
こんなんでいいのかって思うけど、こんなんが俺たちらしいよなとも思う。
「じゃあ、やるか!」
そんな一言で戦いが始まった。
「あぃぃぃいいい!」
いつものようにメイの特攻だ。だが、今回は今までとは違う。
なんだかんだ突発的な戦闘が多かった俺たちだが、今回は違う。
シリウスの戦闘スタイルを想定して、どういう戦いをするか、作戦を練りに練ってきた。
なのでメイやレズンには深追いはするな、だがダメージが与えられそうなチャンスは確実にいけと伝えてある。
メイはフェイント多めでシリウスも簡単に釣られるようなことはしない。
お互い必殺の間合いには入らず、当てる気のない牽制を繰り返す。
その中でもレズンとメイが、本気の攻撃を織り交ぜようとすると、シリウスは上手く距離を取って、こちらの攻め気を受け流してくる。
メイの裂帛の咆哮で幕を開けた戦いだったが、その後は互いに牽制を繰り返す静かな立ち上がりとなった。
必然、戦いは遠距離戦へと移行することになる。
であるならばと、ミルズたちはニナの歌声で魔力の回復を図りながらの戦法を選んだ。
レティの氷魔法がシリウスをめがけて飛んでいく。
一発でもヒットすれば大きなダメージになる氷弾を冷静に剣で叩き落とすシリウス。
それでも物量で押し切りを図るレティは弾数を増やしていく。
「ほれほれ、逃げてばかりだとどうにもならんぞ?」
レティの魔法で次第に追い詰められていくシリウスは、ついに閃光魔法で反撃に出始めた。
「まさに想定通り! ローザ!」
「問題ありません」
シリウスの魔法の出どころをローザが正確に把握し、反射魔法をシリウスの狙う先に設置する。
神速と恐れられたシリウスよりも速く、ローザは反射魔法をかけていく。
「?!」
先日、ロザリカに採られた戦法がミルズたちに再現されたことにシリウスは驚きを隠せなかった。
しかも反射魔法を展開する速度もロザリカと互角以上、さらに魔法をかける相手も選ぶことができるという柔軟さまで兼ね備えている。
「この短時間で、これほどの精度……私の知らぬ才能がこんなにも……」
シリウスの顔には確かに驚きが浮かんでいた。
だが、その顔の口角は上がっていて間違いなく、この戦いを楽しんでいるようだった。
反射魔法による攻撃とレティの氷弾の攻めは、シリウスに接近という選択を取らせた。
被弾のダメージを最小限に抑えながら、レティとローザに圧力をかけにいく。
「お主ならばそう動くだろうな」
だが、それもミルズたちの手のひらの上。レズンが広範囲のブレスを吐き、シリウスの接近を拒む。
「くっ」
シリウスが回避のためにさがった一瞬を見逃すレティではない。
即座に魔法による弾幕を張り直しシリウスへのプレッシャーを強めていた。
「そう何時までも回避できると思わんことじゃな!」
氷弾がついにシリウスの肩や腕をかすめ始めた。
白銀の世界に朱が混じり、シリウスは唇を噛み締める。
遠距離では直線的な魔法による攻撃、中距離で広範囲のブレス、シリウスはミルズたちの戦術にはまり込み攻めあぐねていた。
だが、それはミルズたちも同じこと。決定打を欠く攻撃にシリウスは様子を見ながら何度か同様の仕掛けを見せた。
しかし、それら全てを同じ戦術で対応するミルズたち。
「何か策があってのことでしょうが、このままでは動きがありませんね……多少強引に攻め込んでみますか」
シリウスは最奥に位置取るレティやローザを狙うのではなく、前衛陣に狙いを絞った。
前衛との混戦状態になれば、いかに精密な魔力制御を持つレティでも、その火力を存分に発揮することは難しい。
「さて、これもあなたたちの作戦通りですか?」
突如シリウスはさらにスピードを上げ、氷弾の雨を掻い潜る。
「チビ助! 仕掛けてくるぞ!」
「任せて、レティちゃん!」
レティたちを守るブレスは先ほどと同じように彼女たちを守るはずであった。
だが、それはシリウスのフェイントだった。
ミルズ、メイ、そしてレズン、彼らが直線上に並ぶ瞬間を誘導し、ブレスを回避したあとのレティが追撃できぬようにしたのだ。
その隙はシリウスにとって十分な時間だ。
シリウスは一気にミルズへと接近したのだった。




