111話
テクテクと城内を歩く。
フェイは無言で歩いてるけど、背中から微妙に圧力を感じる。
さらに進むこと数分。
「で、シリウスに何の用なんだ?」
久しぶりに会った父と息子のような距離感で話し始めるフェイ。
この場合、親父がフェイで息子が俺だな。
父親役のフェイは明らかに聞きたいことがあるのに、話の核心に掠らせるように遠回りしながら俺に問いかけてきた。
そうよな、聞きたいことはたくさんあるけど、一番聞きたいのはそこだよな。
「まぁ、色々だ」
あえて息子っぽい返答を選択。
どうだ、親父?
「最近アイツがな、騎士団の訓練場を貸し切ってるんだ。誰も入らないように指示してな」
「剣に目覚めたのかねぇ……」
「お前も見てたんだろう? ロザリカとの勝負を」
「黙秘権を行使します」
「俺も他の騎士団の団長も、皆アイツのことを魔導師だと思っていた。だが、違うんだな……」
「まぁ、アレを見たら誰でもわかるか」
「そういうことじゃねぇ! アレは……あの技術は……長い積み重ねがなければ到達できない領域のはずだ! それを……」
同じ剣士として極みの位置にあるシリウスを目の当たりにしたフェイは、怒りに似た感情を壁にぶつけていた。
事実を知らなければ、ただの魔術師に自分の鍛え抜いた技術を超えられていたってことだもんな。
今まで自分は何をしていたんだと思い悩み、それでも研鑽を積んだ日々は間違いではなかったはずだと信じたい。
そんな気持ちは努力をしてきたヤツなら誰だって抱いてきたはずだ。
俺だってそうだ。
だけど今さらフェイに「シリウスは千年以上生きている化物そのものの存在だから気にするな」なんて言ってもなぁ。
「わざわざ立ち入りを禁止してアイツが何をしていたかわかるか?」
「さぁ? ノーヒントでそれに答えられるヤツがいたら怖ぇよ」
「目を瞑って架空の敵と戦っていた。一対一じゃねぇ、あれは複数人を相手にしている立ち回りだった」
「へぇ……」
「なぁ、お前ら、何の用でシリウスに会いに来たんだ?」
騎士団が使う訓練場、その扉の前でフェイは俺たちをじっと見つめる。
その答えはすぐに分かるから……そんな顔しなさんな。
俺は扉を開ける。
シリウスがいる。
金髪碧眼の美男子が正座して黙想している。
日本人の俺からすると外国人が正座している姿には違和感を覚えるが……
張り詰めるような冷たい空気の中に鎮座するシリウスは美しかった。
「やぁ、そろそろだと思っていたよ」
「よぅ、ラスボス。元気そうで何よりだ」
「ラスボス?」
「物語に最後に出てくる敵のことだ。そいつを倒せば物語はエンディングを迎えるようになってんだ」
「ふふ。ラスボスですか……良いですね」
「どんな結末を迎えるのか、それはこの戦い次第ということじゃ」
腕を組み、大きくもない胸を大きく反らせてレティが宣う。
「では、その物語、大いに盛り上げて見せましょう。悲劇にならないように全力を尽くしてください」
「任せとけって」
「おい、何を言ってんだ!」
事態を飲み込めないフェイが困っているのが面白い。
俺たちとシリウスを交互に見る。
「戦うってのか、コイツとオマエらが!」
「うむ。因縁の相手でな」
「歴史ある伝統の一戦なんだぜ?」
「やっぱりか……」
フェイはオレンジの髪をくしゃくしゃに掻きむしって俺たちを睨みつける。
「これから国がどうなっていくかわからん、大変な時にフザケたこと言いやがって! 我儘も大概にしろ!」
シリウスは静かに立ち上がり……
「フェイ、今まで好き勝手してすみませんでした。特に悪いとは思っていませんが、建前上、謝っておきます」
質量を感じさせない謝罪を見せた。
「何言ってんだ? クソ、理解が追いつかねぇ!」
癖っ毛なオレンジの髪がこれでもかというぐらいに絡まっている。
まるでフェイの心境を表しているようで少し面白い。
すまんね! 生きて帰ったら詳しく説明してやろう。
そしてシリウスと向かい合う俺たち。
「乾坤一擲!」
「英雄譚はハッピーエンドで終わるのさ!」
「あなたが朽ち果てるまで、満足させてあげます」
「龍の力、その身に刻むが良い」
「カカ! 千年の時を超えてリベンジじゃ!」
フェイス・トゥ・フェイスをばっちり決めて、いざリングインだ。
「レティ! よろ!」
「うむ、任されたし!」
場所は封印の大地。
レティ城跡。
あそこなら誰にも迷惑はかからないし、邪魔なんてはいらない。
雰囲気もばっちりだ。
そして俺たちは光の中へと飛び込んでいくのだった。
一人、フェイだけを残して。




