110話
久しぶりに帝国の城門前まできた。
死んだことにしてから、もう結構経つからな。
衛兵さんに声をかけてシリウスに取り次ぎを頼む。
そして当然のように断られた。
「だからアポイントもなしに通せるわけがないだろうが!」
「そこをなんとか! シリウスに一言、言ってもらえればわかるから!」
「貴様、言うに事欠いてシリウス様を呼び捨てだと?」
「マブなんだよ、マヂマヂ。アイツも俺のことミルちゃんって呼ぶんだぜ?」
「すぐにバレるような嘘をつくな!」
何故バレたし! やるな、衛兵め!
うお、コイツ抜刀しやがった!
「ちょっ! 落ち着けって! 城門前で刃傷沙汰はマズくない?」
「ならば、さっさと引き返すがいい!」
ぶんっと剣を一振りして構える激おこの衛兵さん。
シリウスのシンパか?
その時、黒い鎧の一団が門の向こうを横切るのが見えた。
そして、その中に一際デカい偉そうなオレンジ髪の男を見つけた。
相変わらずデカくて目立つ便利なヤツだ。
今度待ち合わせ場所の指定に使ってやろう。
「おい、フェイ! ちょっと助けてくれ! おーい!」
大きく手を振ってフェイに向かってアピールする。
するとさらに顔を赤くして衛兵が怒り出した。
「貴様、フェイ団長まで愚弄するとは! もはや許さん! 牢に叩き込んでやる!」
怒った衛兵は槍をブンブン振り回し始めた。
おい、せめて石づきにしろ! 刃を人に向けるんじゃないよ!
それを躱しながら、なおもフェイを呼び続ける。
すると、流石の騒ぎに気付いたのかフェイがこちらへと向かって歩いてきた。
「お前ら、生きてたのか!」
「まぁな! この通りピンピンよ!」
指で衛兵の剣先を摘んで止めておく。
この衛兵は刃物は振り回してはいけないとママンに教わらなかったらしいからな。
ククク、剣を引き抜こうと顔が真っ赤だ。
我が指からは何人たりとも逃げられんのだ、ガハハ。
「まぁ、死ぬとは思っていなかったが……今までどこにいってたんだよ。お前らに振る仕事はたくさんあったってのによ」
「そんなこと言い出すヤツがいるから隠れる必要が出てくるんだよ!」
「隠れる……か。お前ら、その装備、どこで手に入れた?」
フェイの視線が急に鋭くなって、俺たちの新しい装備を見ていた。
やべ、そういやコイツと日出国の洞窟内で会ってたんだっけか。
「いやぁ、どこだったかな。色々旅して回ってたから覚えてねぇわ」
すげぇ睨むじゃん、コイツ。
ひょっとして、おこなの?
「まぁ、いいか……ところで、今日は何の用だ? 暇なら仕事を手伝えよ」
「残念だな、俺たちは非常に忙しい。と言うわけで、シリウスに取り次いでもらえない? この衛兵さん、ご自身のお仕事に忠実でにっちもさっちもいかんかったんだよ。偉いよな」
「シリウス、なんでまた? お前ら、アイツのこと毛嫌いしてると思ってたが……」
「それはそう」
「うむ、そうじゃな」
ウンウンと皆で頷く。
俺のワガママさえなければ、今後一生関わることもなかっただろうから。
「まぁ、ちょっとしたレクリエーションだ。アイツもロザリカとの戦いで頑張ってただろ? そのご褒美的な?」
「何故一介の冒険者がそのことを知ってるんだ?」
「う、噂! ほら、ランクも高くなると色んなところから情報を得られるんだよ!」
「適当なこと言いやがって……まぁ、いい。ついて来い」
「お、流石フェイ様! 話がわかるぅ!」
衛兵さんがまだ剣を俺の指から一生懸命引き抜こうとしていたので、ぱっと手を離してあげた。
どさっと尻もちをついちゃったから、手を差し伸べる。
「意地悪すな!」
ベシっとメイにケツを蹴られた。
「ごめんよ、という訳なんで中に入らせてもらうな」
黙って首を縦に振る衛兵さん。
さっきまで顔を真っ赤にしていたのに、今度は顔が青い。
「どうした? ……って、ごめん! 槍壊しちゃったのか! フェイ、この人の剣、壊しちゃったから新しいのあげてくれ!」
「金は取るからな」
「えぇ……」
そんなことを話しながら俺たちは城内へと入っていったのだった。
「ミスリルって指で摘んだだけでひしゃげるものなのか?」
ミルズの指から離れた剣を見て驚愕する衛兵。
自分で摘んでみてもビクともしない。
衛兵は自分の命があったことに安堵しつつ、世界の広さを思い知ったのだった。




