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女神と転生〜ポンコツ女神と父娘が最強へと至る道〜  作者: 荒頭丸


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109/110

109話

109

シリウスが迫る氷弾を最小の動きで回避する。

レティシアの回避を見越した罠を解除し、追撃に動くレティシアを牽制して止める。

レティシアが相手の立ち位置によって動く方向を判断していると把握しているシリウスは、僅かな自分の動きで彼女の動きまで制御していた。

あれから何度目のことだろうか。

シリウスはレティシアと戦い続けた。

その度にレティシアの魔法技術を理解し、反応速度を把握し、癖を見抜き、その全てに対応した。

その結果がこれだった。

自分自身の感情とは裏腹にその才覚によって導き出された答えが、レティシアを追い詰めていくのだった。

「なんでじゃ? 何故こうもワシの動きが読まれる? ひょっとして未来でも見えとるのか?」

焦るレティシアとの距離がなくなっていく。

「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいのじゃ!」

焦るレティシアがミスを犯した。

魔力変換のミスからわずかに氷弾の軌跡にズレが生じたのだった。そしてシリウスの前でその小さなミスは決定的なものとなった。

そして、ついにその瞬間が訪れた。 幾度も交錯した剣先は、今度だけは迷うことなくレティシアの胸を貫いた。

「がはぁ……」

血に濡れた指先で地面を掻き、レティシアは這うように距離を取ろうとする。 その姿に、先ほどまでの余裕ある笑みは欠片も残っていなかった。

だが、それでもなおレティシアは魔法を放とうと、杖に魔力を込めようとしていた。

それをシリウスは冷静にその杖ごと右手を切り裂いた。

回転しながら宙に舞う杖がシリウスの前で地面に突き刺さった。

「嫌じゃ!」

レティシアは四つん這いになりながらシリウスから逃げようとしている。

腕を切り落とされ、うまくバランスの取れなくなった身体を引きずるようにして這いつくばっていた。

「嫌じゃ嫌じゃ! まだワシは死にとうない!」

レティシアは後ずさりながら石を投げ、回復魔法をかけていた。

「本当に、死にたくないのですね……」

「そうじゃ! ワシにだってやりたいことはある! それも果たせぬまま死ぬのは嫌じゃ!」

「命は一つ……ですからね」

「その通りじゃ!」

そう言って魔法を放とうとするレティシアを、シリウスはさらに斬り飛ばした。

もはや虫の息のレティシアにシリウスが近付いていく。

トドメを刺そうとその手の剣を振り上げた時、シリウスは巨大な魔力のうねりを感じた。

「まさか、まだそんな魔力が……」

しかしこの先、どんな展開になろうとも勝利を確信しているシリウスは余裕を持ってレティシアから離れた。

「クク、余裕じゃのぅ。その余裕が有難い」

レティシアの周囲の空間が歪んでいく。

見たこともない術式。

無理をすることはない。

そう判断したシリウスは冷静にレティシアを見ていた。

「そうじゃろうな、ヌシはそう動くと思っとった」

空間の歪みが収束していき、それは黒い球体のようなものとなってレティシアのすぐ上で浮かんでいる。

そしてバチバチと不可思議な音を立てはじめた。

次の瞬間、周囲のものを吸い込み始めた。

それはレティシアも例外ではない。

彼女の身体はフワリと浮き上がり、徐々にその球体へと引きずり込まれていく。

「ワシはワシの為に逃げるとする。ワンチャン、生きられるかもしれんからの」

逃げると宣言されても、なおシリウスが動くことはなかった。

少しずつ謎の球体に吸い込まれていくレティシアをただ見つめていたのだった。

「さらばじゃ」

レティシアを飲み込んだ球体は、パリンと乾いた音を立て、あたかもそこには何もなかったかのように消失したのだった。

「何もない……」

シリウスは呆然と立ち尽くす。

「私には何もない……」

強者との戦いだけを望み、人の生を歪めてまで生き延びた先にあったのは空虚だけだった。

巡り会えた強者との戦いを、楽しむこともなく、ただ一つの勝利の為に費やしてしまった。

それが生き方になってしまっていた。

シリウスは自ら望んだ戦いを冒涜し、汚してしまったのだった。

勝利の先が見えなくなったシリウスは、ただただ立ち尽くすのだった。

それを楽しそうに眺める者がいた。

その顔には愉悦を浮かべ、満足そうに笑っている。

「素敵…… あんなに美しく透明だった魂が、黒く染まっているわ。私はそれが見たかったの……嬉しい!」

オフィーリアはときめく胸を抱きしめるように身をよじり、恍惚と笑った。

狂気に満ちた美しい声は風に溶けて、空へと流れていくのだった。


——

ここはどこじゃ……

水の流れる音が聞こえる。

じゃが、シリウスの姿は見えん…… 転移の魔法は成功した……ということかのぅ。

レティシアは自分自身の身体を見る。

傷だらけで無事なところなど一つもない。

魔力切れで回復魔法すら唱えることもできない。

「……」

もはや声も出ないらしい。

これは……いよいよ駄目かのぅ。

すまんのぅ、皆。 ヌシらの期待には応えられんかったみたいじゃ……

あぁ、また一人か。

誰かと友達になって、遊んでみたかったのぅ。

くだらないことで笑い合って、飯を食って、一緒に街を歩くんじゃ……

そんなことができたら……最高じゃのぅ……

「何してんだ、こんなとこで? うお、死にかけとる! えぇと初期配布の回復ポーションが鞄の中にあったはず……使い方がよくわからん、どうしたらいいんだ? いいや、ぶっかけちまえ!」

何じゃ? 顔になんかかけられとる! 人が浸ってる時に何しよるんじゃ!

「まだ駄目くさい! 今度は口に突っ込んでみるか! おらぁ!」

ゴボボボボ。

やめろ、やめるんじゃ! 死んでしまう!

「何するんじゃ! 殺す気か!」

「お、生き返った! 大丈夫か?」

「死ぬとこじゃったわい!」

「みたいだな! 間に合って良かったよ」

ソイツは楽しそうに笑っていた。

何が楽しいんだかわからんが、ワシを見て笑っていた。

「俺はミルズ。 このゲームをはじめたばかりなんだ。完璧な初心者、ペーペーだな」

ゲーム? 何を言うとるかわからんが……

「ワシの名はレティシア」

差し出された手を取り立ち上がる。

どうやらぶっかけられた薬で一命を取り留めたらしいのぅ。

我ながら大ピンチじゃったわ。

パンパンと尻についたホコリを払う。

そして胸を反らして宣言するのじゃ。

「レティちゃんと呼ぶがよい!」

「レティか。よろしく!」

「うむ」

「ところで今暇か? 良かったら一緒に遊んでくれよ」

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