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女神と転生〜ポンコツ女神と父娘が最強へと至る道〜  作者: 荒頭丸


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108/111

108話

「あら、シリウスおかえりなさい」

いつものようにオフィーリアが側で微笑んでいる。

その表情は変わることはない。

同じ女神でも彼女とはかなり違う。

名前は……レティシアといったか。その表情は覚えている。

貼り付いた仮面のような微笑みではない、どこか小馬鹿にしたような、それでいて温かみを感じる顔を彼女はしていた。

「どうしたの、シリウス?」

「シリウス……?」

「あなたが決めたのではありませんか、名前を覚えるのが億劫だと」

「……」

「それで、どうしたのですか?」

いつもと様子の違う男にオフィーリアは問いかけた。

その目はいつだって彼を見ていない。

シリウスの奥底にある命の根源、魂をじっと見つめているのだった。

「大丈夫そうね。もう行くの?」

何が大丈夫なのかはシリウスにはわからない。

だが、行き先は決まっていた。

「あぁ、行くよ」

だが、シリウスの心には迷いが生まれていた。

強者と戦うのは楽しかったはずだ。

それがどうだろう。

初めて自分を倒せる存在に心躍ったはずなのに、いつの間にか勝つことだけにこだわっていた。

レティシアの言う通りだった。

本来一つしかない命で、一生を懸けて、望むべき戦いが、いつの間にか勝つ為の情報を集める手段になっていた。

「いつの間に……こんなことになっていたんだろうね」

立ち上がるシリウスの行き先は決まっていた。

彼女に会えばわかるのではないか、そんな思いを秘めてシリウスは歩き出した。

オフィーリアはその様子を見つめていた。

その顔は、慈愛に満ちて……歪んでいた。


——

切っ先がレティシアの頬をかすめる。

後方から迫りくる氷弾を躱し、その後に来るであろう風魔法を先読みで一太刀撃ち込んでおく。

レティシアの表情は、これまでとは違う。

いつものように自信満々の笑みを浮かべてはいる。

だが、その中に僅かな焦燥が浮かんでいた。

彼女もまた死線の先にいることを自覚しているのだ。

「むぅ、読まれとるの……なんじゃ、コヤツは!」

必殺の間合いまで接近したシリウスの目の前に土の壁が現れた。

しかし、シリウスはその壁など意に介さず、その後にいるはずのレティシアに斬りかかる。

壁を切り裂き、レティシアを断つ一撃は空を切っていた。

レティシアは刃が届く直前、自分の直感を信じて土魔法を操作して自分自身に当てていた。

その反動でシリウスの攻撃を回避して距離を取っていたのだ。

血を吐きながらもレティシアは体勢を整え、シリウスを迎え撃つ。

シリウスも既に限界を迎えている。

互いに最後の一撃になることを認識していたのだった。

レティシアが渾身の一撃を放つ。

そしてシリウスは……


シリウスの身体を貫いた氷弾は致命のものだ。

杖に寄りかかり肩で息をするレティシア。

だが、その表情は怒りに満ちていた。

「ヌシもか!」

レティシアは倒れているシリウスの襟首を掴み上げ、殴りつけた。

「何なんじゃ、ヌシらは!」

その拳は疲労に震えていて、殴ったと表現するにはあまりに力ないものだった。

ただ怒りを拳に込めた、それだけのもの。

それを死に行くシリウスにぶつけていた。

「何故最後まで戦わぬ! 何じゃ、あの一撃は! まるで勝つ気がないではないか!」

レティシアの言葉にシリウスは目を見開いた。

そうだ……自分は最後まで勝つ為に戦っていたのではなかった。

最後の一瞬、この命を捨て、次の命で勝つことを考えてしまっていた。

こんなものが自分の求める戦いであったか?

違う!

断じて違う……はずだ……

だが、あの極限の場で当然のように選んでしまった、

次の戦いを。

次の命を……

そのことにシリウスは絶望していた。

殴りつける力も尽き、シリウスを突き放してレティシアは背を向けた。

いつの間にか雨が降っていた。

もはや手足すら動かないシリウスには、頬を伝う雨粒一つ拭うこともできない。

水滴で歪んで見えるレティシアの背中が遠ざかっていくのだった。


——

「おかえりなさい、シリウス」

それはいつもと変わらない景色だ。

目を覚ますとオフィーリアがいて、いつものように微笑むのだ。

「オフィーリア、何故私だけに……」

こんな命を……

そう言いかけて喉から出かかった言葉をシリウスは飲み込んだ。

望んだのは私ではなかったか。

強者を求めてずっと戦い続けられる。

そんな夢のような世界を求めたのは自分ではなかったか。

「いや、なんでもないよ」

シリウスは立ち上がり、歩き始めた。

その足はどこに向かうわけでもなく、彷徨うように町中を進んでいくのだった。

その様子をオフィーリアは見つめていた。

恍惚とした表情を浮かべて。

「あぁ、美しい魂に一粒の闇が……なんてことなの……汚れる、汚れていくのね……この時を待ち望んでいたわ」

オフィーリアは確認するように自分の頬を触る。

「あら、いけませんね。こんなに口角が上がってしまって……まだまだこれからですのよ」

シリウスを見送るオフィーリアは、いつものように微笑んだ。

その仮面の下に潜むものを隠して。

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