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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十四章『照準』

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90話「返り血とローズヒップ」

「チッ、雑魚が…大した情報も持ち合わせてない癖に俺に捕まってんじゃねーよ時間の無駄だったろうが」

地下牢で容赦のないガーネの冷ややかな呟きが響き、対象への興味が失せたように立ち上がった。

鉄格子を開く重たい金属の軋み音が響き、地下牢の番をしている兵士に歩み寄り牢の鍵を差し出して無感情な目を向けた。

「処理しとけ」

「か、かしこまりました」

地下牢の石畳を踏むガーネの足音が反響し、それに交じるように捕縛された男のうめき声が小さく響いていた。



特務室内では、また別の重苦しい空気が充満している。

正式に辞令の下ってしまったラズリが、不機嫌を隠すことも無く机に足を乗せて態度悪くふんぞり返って座っていた。

なんとか宥めようとスメイラがラズリのご機嫌取りに奔走していたところである。

「せ、先輩。お茶なに飲みます?淹れてきますよ」

「ローズヒップティー」

「ローズヒップティー!?そ、そんなの無い…サイフィルくん!買ってきて!」

「スメイラさんまで僕のことパシリにするの!?」

「いいから早く!」

渋々出かけようと入口のドアに手をかけた所、ドアの向こうから扉が開かれ血に塗れたガーネが姿を現しサイフィルは驚いて卒倒した。

「ぎゃー!」

「うるせー野郎だななにコイツ」

「アンタこそなにそれ」

血を見てさすがにぎょっとしたらしいラズリも思わず声を掛けると、正式辞令とは言え存外大人しく、比較的早いタイミングで部屋に来ていたラズリに満足そうにしながら血塗れの手を広げて見せた。

「俺は怪我してねーよ。返り血」

「まあ、ガーネ様こちらお使い下さいな」

カルセが差し出したおしぼりを受け取り手を拭きながら自席に腰を下ろし、デスクに置いてあった『今回の戦利品』である呪力遮断布を見つけ広げて眺めた。

「…ガーネくん、そんなのほんとどうするの?何か呪物運搬でもするの?」

「内緒。…スメイラ、報告書まとめといて」

ガーネは含み笑いをしながら戦利品をしまい込むと、尋問で男から聞き出した内容を簡易的に伝える。

「まあ、やはり連絡手段と盗んだ呪物で何をするかくらいしか聞かされていなかったんですの?」

「俺が『あれだけやって』喋らねぇんだからそうだろうな。時間の無駄だからやめてきたけど。ま、ラズリが返せる呪いだってわかったことが今回の収穫だな」

ガーネから不意に名前を出されたラズリは思わずと言った様子でキッとツリ目がちな目を向けて盛大に睨みつけた。

「アタシは認めてない」

「まだ怒ってんのかよめんどくせーな。お前が使える女だったんだから仕方ねーだろ、使えねぇやつは俺は欲しがらねーよ」

「な、なによそんなおだてて」

どこか満更でも無さそうな空気を纏ったラズリに、ガーネは内心『コイツも懐柔楽そうだな』と考えながら背凭れに寄りかかった。

「あー……そうだ、焼き肉食いてぇな」

「返り血浴びるほどの尋問っていうか拷問なんかした後によく言えるわねアンタ」

「お前だって手術した後に『今夜はホルモン焼きでも食べたいな』とか思うクチだろ、どうせ」

「う」

ガーネの言葉に否定出来なかった様子のラズリは思わず閉口し視線を逸らしたところで、空気を読めないのか読まないのかわからない男サイフィルが急に話しに割って入ってきた。

「焼き肉賛成!ガーネの驕りで高いとこ行こうよ!ガーネの驕りで!」

「アンタはさっさとアタシのローズヒップティー買って来なさいよ。ついでにおやつのマカロン」

「俺エクレア」

「あ、じゃあ私クッキー」

「でしたらわたくしはチョコレートで」

「ええええ???」



*****



日もすっかり沈んだ時分。

ようやく諸々の書類をまとめ終わったガーネはペンを放り投げると気怠そうに肩を回した。

「アンタ、肩ブンブンするのやめなさいって言ったでしょ!」

「…最近ガーネ様よく肩回されてらっしゃいますわよね。癖になっているのでは?」

ガーネは早速ラズリを引き込んだことに若干の後悔を抱きつつも誤魔化すように立ち上がって官服を脱いだ。

「よし、行くぞ」

行くぞの号令に一同きょとんとした顔を向け、サイフィルが口を開いた。

「え、行くってどこ…?」

「は?お前が焼き肉奢れって言ったんだろ。行かねーなら女だけ連れてってお前は留守番させるぞ」

「えっ嘘!行く行くやったー!」


向かって到着した先は、王都の中でも屈指の所謂高級店に分類される店。サイフィルが「ほんとにいいの…?」と遠慮がちな視線と共に問いかけるも、ガーネは静かで喧しくないのであればなんでも良い、と、ラズリセレクトの店に入っていく。

「さ!アンタたちコイツの驕りよ好きなだけお食べ!」

ラズリの号令にガーネはどこぞのスメイラも似たような舐めたことを言っていたなと思いつつも、どうでも良さげにメニューに目を落とす。

「じゃあ僕とりあえずビール、スメイラさんも同じでいい?カルセちゃんとラズリさんは?」

「ではわたくしはカシスオレンジで…」

「アタシはアップルジュース」

「俺もラズリと同じの」

「…なに、アンタお酒飲めないお子ちゃま?」

「はいはいそれでいいよ、サイフィルあと適当に頼め」

「オッケー、すみませーん」

サイフィルが注文したものがテーブルに並び、和気あいあいとした雰囲気で食事が進む。しかし、どこか冷えた目をしたガーネは一同の手元や皿に無意識に目が向かっていた。

『観察』は食事量だったり、会話の間を数えたりと本人にも無意識のものであったが、ぴたりとその視線がサイフィルのところに止まると、ガーネはどこか『ああ、なるほど』と何かを納得したようでようやく皿に載せられた肉を一口食べた。

「ガーネくんどうし、ってサイフィルくん?骨付きカルビの骨は食べなくて良いんじゃない…?」

「ほんとだ、アンタなに骨まで食べてんのよ。そんな犬みたいな真似はそこのいけ好かない小僧にでもやらせておけばいいのよ」

「…なんでもいいけどスメイラ、俺の皿にピーマン乗せるのやめてくんない。カルセ食って」

「まあ、ふふ、仕方がありませんわね」

「カルセさん駄目だよ甘やかしたら」


突然、ガーネは皿と箸を置いて立ち上がった。

「え?ガーネ?どうした?」

「呼ばれる。……俺戻るからスメイラ払っといて。現金足りなかったら証書使っていい」

「えっ、う、うん…?呼ばれてるってなに?」

ガーネから投げ渡された財布を受け取ったスメイラは、困惑した様子で帰り支度をするガーネの背中を見つめた。

「俺の可愛い女王様だよ」

「出た。キモ」

ラズリだけが、その『従順な犬』の姿に小さく舌打ちを漏らした。

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