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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十三話『定着』

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84話「主導権」

「飽きた。カルセ、茶」

「かしこまりました。何になさいますか?」

「普通の茶でいい、喉乾いた」

約一週間ぶりに特務室の自席に座ったガーネは、最初の数時間こそ書類を睨んでいたもののすぐに『飽きた』とペンを放り投げた。

「なーなーガーネ、飽きたんなら何か面白いことしてよ」

「面白いこと?じゃあテメェをサンドバッグにリハビリでもしようか」

「そんなの面白くないだろ!」

カルセは、久しぶりのそのやり取りに小さく笑みを零しながらグラスに冷えた緑茶を注いで机に置いた。

「リハビリとおっしゃいますけれど、お身体の具合はよろしいんですの?」

「ラズリも『激しい運動さえしなければ』って言ってたし良いんじゃねーの。コイツのことボコるくらい激しくもなんともねーし」

「おかしいよ!お前が肋骨折った時も激しかったよ!」

「そうだったか?」

戻れば戻ったで相変わらず騒々しいな、とグラスの茶を半分程一気に飲む。

スメイラが不在だと、サイフィル一人で喧しいことこの上ない。

ガーネは深く溜息を漏らし、仕上げた書類の束をまとめて机の隅に追いやった。

「しかし普通に身体は鈍ってんなぁ…」

「昨日的のど真ん中に全弾命中させてた男がそれ言う?」

「見てたのかよ、スケベ」

「お前に言われたくない!女王様の手ベロベロ舐めやがって!」

「馬鹿かお前、世界で一番可愛い俺の主君様だぞ。アレは俺だけが許されてるんだ、お前には天地がひっくり返っても出来ねーよ」

どこか得意げな顔でそう告げるガーネの顔に、サイフィルは何も言えずに閉口してしまった。

ガーネが女王に跪いて手に口付けを落とす様子は、使用人の若い女性たちからは美男美女の大層絵になるラブシーンの一節の光景に見え、兵士たちからは女王の専属騎士のようにも見えたのだろう。

サイフィルは気付いてしまった。紛れもなく、『牽制』だったということに。


「ただいま…あ、良かった。ガーネくんちょうど良いところに。…個人的に、相談したいことがあるんだけど…」

朝から出かけて不在にしていたスメイラが特務室のドアを開けるなり、偉そうにふんぞり返るガーネの姿を見てどこか安心したような顔をした。

「珍しいな、なんだよ改まって」

「うーん、えーと…」

妙に歯切れの悪いスメイラが、半開きの扉を振り返る。会話の途切れ目を待っていたように扉が開き、一人の男が顔を出した。

「あの、失礼いたします…え、スメイラこの方かい?」

「うん」

「はー、噂には聞いていたが随分とお若い…、失礼しました、統裁官様。ケント・エイメン・グリウと申しまして、王立大図書館附属呪具物研究院第四調査統括官をしております。折入ってご相談申し上げたいのは実は私でして…」

「…なんだ、お前の元旦那かスメイラ」

ガーネはちらりとスメイラを見てなんとなく納得したような顔をして一応確認をする。

スメイラも別に隠すことではないと小さく頷いて隣の男を見上げた。

「だ、だ、だんな…!?元旦那ってなに!?」

「カルセ、そいつうるせーから黙らせといて。…で?その元旦那が俺になに相談したいって?」


曰く、この半月程、管理している呪具や呪物が管理簿と実在庫が合わない。失われているのは危険指定未満の呪具類ばかりである。しかし、この『数が合わない』程度で大事にすると外部監査問題や保管庫封印など研究に差し支える自体になりかねず、責任者として自身の責任を問われるのは些か仕方のない反面『この程度』で管理体制の崩壊を自ら申告する無能扱いにもなりたくはない。研究施設は機密の塊故、勝手な人員調査も出来ない上に外部人間の立ち入りも出来ず、呪具の再検査にも許可が必要となる。つまるところ、責任者でも自由に調べられない状況である。


「…で?俺ってわけか。やだよめんどくせー」

「そこをなんとか統裁官様!貴方の立場は『特務』、軍でも研究でもないから行政の外側から動けるでしょう!」

「動けるぜ?けどだからといってなんで責任者であるお前の不始末のケリを俺が付けなきゃいけないんだ。便利屋じゃねーんだよ俺は。正式な手順踏んで依頼しな、承認が下りたら考えてやる」

「……正式な手順で依頼をかければ、施設が止まります。止まれば『連中が動いた理由』をこちらから証明することになる。だから私は動けない。責任者である以上、規則を破れない。────ご聡明な貴方なら、この意味がわかりますよね?」

ガーネは冷えた目でこの元夫婦を見つめた。

その上で、提示された紛失した品目のリストを手にして内容に目を滑らせる。

「……補助具ばっかじゃねぇか。術式『組む』前提の抜き方だな」


ほんの一瞬、ガーネは目を伏せてあらゆる打算を巡らせた。


「……ケントっていったか。良いだろう、但し────条件が二つある。条件が飲めないなら正式な手順を踏んで『罰せられろ』、いいな」

「じょ、条件…ですか。そりゃ、私に聞ける範囲のモノであれば…」

「は、馬鹿かテメェ。『聞けることなら』じゃねえ。『聞く』んだよ」

「……お伺いします」

「一つは、俺の調査方法と対象者の処罰に関して一切の口を挟まないこと。横槍入れられるとめんどくせぇ」

「わかりました、貴方に依頼している時点である程度は覚悟しています。…もう一つは?」

「お前らの管理下に『呪力遮断布』があんだろ。事のついでに紛失したか最初から無かったものとして書類直して、俺に横流ししろ」

「……呪力、遮断布…?あんな運搬用にしか使いようの無いもの、一体何に…?」

「用途を考えるのはお前の仕事じゃない。俺の命令通り『帳簿から消えて』さえいればそれでいい」

困惑した顔の一同を無視して、リストを机に放るとガーネは立ち上がって官服を羽織った。

「たった今から本件を『特務案件』とする。ここからは研究院の問題じゃねえ、一切の口を挟むな────入館用の証書の類、用意しとけ」

「か、…かしこまりました統裁官様。至急手配いたします」

「スメイラ。貸しイチ、な」

ケントが慌てて頭を下げる中、ガーネはそのまま入口に向かいドアノブに手をかけた。

「まあ、ガーネ様どちらへお出かけですの?」

「ラズリんとこ。どうせすぐ追い返されるだろうからすぐ戻る。それまでに諸々調整しとけよ」

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