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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十三話『定着』

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83話「誤差ゼロ」

差し込む日の光が妙に瞼に刺さるような感覚に、意識がうっすらと覚醒の方向に浮上した。

見慣れない天井に、嗅ぎ慣れないけれど覚えのある匂いと、馴染みのない肌触りの寝具の感覚。

『秘密の地下室』のような場所での儀式の、上書きされる強制力に先に身体が持たずに意識を飛ばした自覚はある。その後、どこに寝かされていて今に至るのかは全く理解が出来ないが、この匂いと『本能的に感じる嫌な予感』だけはしっかりと機能していた。


「起きたか」

恐る恐る、声のした隣へと視線を向ける。

ものすごくしてやったり顔の可愛らしい顔が、ガーネを至近距離で見つめていた。

「…………まさかと思いますけど、俺やっちゃいましたか」

「ふ、さて?どうだろうな」

口元にこびり付いた、血の感触もそのまま残っている。シャツに垂れた目の前の女の血も鮮やかに残っている。

そして間違いなく自分は服を着ている。

しかし、目の前の楽しそうに笑う女はどうしてか半裸であった。

「いやいやいや待て待てさすがにまずい」


お前は俺のだろうなどと舐めた暴言を吐いたことも認める。しかし、それとこれとは全く別である。

首を絞めた時の方が、まだマシだったかもしれない。


「勘弁しろよ!せめて俺がちゃんと起きて記憶ある時にしてくれよ!色々と!」

「お前という奴は」

ディアマントがやや呆れ気味に小さく欠伸を漏らして身体を起こしたタイミングで、女王付きの侍女が朝の身支度に訪れてしまった。

「失礼いたします、陛下おはようございますお目覚めのお時間で…………お目、覚め……、…………わ、わたくしども、何も見ておりません!他言はいたしません!」

「待て!!誤解だやめろ!!!」

「ふぁ……おい、妾は喉が乾いた。今朝は果実水を用意せよ。林檎がよい」

「お前も服を着ろー!!!」



*****



「────どうじゃ、『調子』は」

髪を丁寧に結い上げ、銀糸と金糸で豪奢で繊細な刺繍のあしらわれたレースが印象的な白のドレスを纏った女王と、一週間引きこもっていたと噂のガーネが連れ立って城内の射撃訓練場へ訪れていた。

遠巻きに二人の姿を見守る兵士や使用人の姿を気にすることもなく、ガーネは銃を構えて的に向かって引き金を引いた。


「完璧」

「ふん、何よりじゃ」

「逆に今まで『調整』してたから変な癖ついてるかもしんねーっすわ、ま…『動かない的』相手に調整もクソもないですけど」

「…まあ、『ここから』じゃな」

「ここからってなんですかやめてくれませんかほんと勘弁して欲しいんですけど」

早朝から妙にドギマギさせられているガーネは、それを誤魔化すように再度銃を構える。

それから感覚を確かめるように、数発連続して引き金を引いた。

ガーネの放った弾丸は、見事に的の中心を撃ち抜いていた。遠巻きながら見物していた兵士から感嘆の声が漏れる中、空になった弾倉を引き抜き、新しいものと入れ替え直す。

「…全弾正鵠的中か。聞いてはおったが見事な腕前よ」

「まあ、射撃は成績良かったですからね」

「他、体術も剣術もなかなかとは聞いておるが」

「正直射撃よりは得意ですよ、得意っつーか…『殺った感覚』は銃だと得られないですから」

「ふ」

「はは」

「ほほ、なんじゃお前。妾の身体を見て動揺しておるのか。存外初心な男じゃ、ハジメテでもない癖に」

「身体見てどうこうじゃなくて、状況に動揺してるのわかんないんですかね」


魂の座標の固定と称した通り、視界も聴覚も思考もズレは一切なくなった。

ガーネは試し撃ちをやめて銃をホルスターに戻すと、傍で楽しげに見物するディアマントの傍に歩み寄った。

彼女が城内とは言え、こうして『外』にいるのは非常に珍しかった。

傍目で見て自分たちがどう映っているのかはややこしいので考えないことにしたガーネは、隣のディアマントに視線を向ける。

「デイアマント様」

「何じゃ」

「異界遺物に触れたら、またどうにかなっちゃいますかね」

「ふむ……そうじゃな…正直な話し、連中がどういうモノで仕掛けてくるのかわからん以上なんとも言えんが、モノにもよると思うが今までよりは相当な耐性は出来ておるはずじゃ。なんの為に、『妾側の座標』でお前を固定したと思っておる」

「…で?あと『二人』…でしたっけ」

ふたり、そう発したガーネに視線が持ち上げられ、金色の瞳が視界に映る。

「お前、ヘルソニア相手に腹芸をしたそうじゃな。珍しくむくれておったぞ、あやつのあの顔は数千年振りじゃ」

「そんなくだらねーことどうでもいいんですよ、騙される方が悪いんです。ディアマント様、二人────集めたらなんか良いことあるんですか」

「くく、飽きない男じゃ。…集めただけではなにもない。集めなければならん理由も、正直ない。が────集まることは『必然』、そういうふうに出来ておる。妾としても、『集まってくれたほうが』都合がいい」

「悪いこと考えてますね」

「お前ほどではない、が…察しが良くて助かる」

「じゃあ、ちゃんと『仕事』したらご褒美下さいね」

ガーネはそう告げて彼女の前で膝をつくと、見物客に見せつけるように手を取った。

昨夜の儀式でついた切り傷を見つめて目を細めると、掌の傷にそっと舌を這わせてから恭しく口付けた。

「オネダリの口付けまで覚えおって。さすが妾の可愛い犬じゃ、褒美については考えておいてやろう」


────約一週間、『統裁官』が私室に引き籠もって姿を見せなかったかと思えば、『女王の私室』で一夜を共に過ごし、城内を仲睦まじく散策している────

そんな噂のようなものが光の速さで城内を巡った。

当然、サイフィル・カルセ・スメイラの耳にもその話しは入り、二人がいるという訓練場の見物席へと足を運んで様子を見ていた。

「…い、いつものガーネ…だよね?」

「そう見えるけど…でもなんかわかんない、遠いし」

「…遠い、ですからね」


三人に、言語化できない違和感だけが残った。

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