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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十二章『帰属』

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81話「『接触禁止』」

「じゃーなガーネ。狙撃に気ィ付けろよ」

「うるせーよ!」

翌朝、伯父が仕事に行く時間をずらしてまでガーネを駅まで見送りに来た。

「…なぁ、ガーネ」

「なんだよ」

「……いや、何でもない。またいつでも帰って来い」

「気が向いたらな」

ホームに滑り込んだ汽車に乗り、振り返りもせずに手だけ振った。

一人の為安席でも良かったところではあるが、敢えて個室を取って座席に足を伸ばして座った。壁に凭れ掛かり、そのまま目を瞑る。

比較的すぐに汽車は動き出し、凭れた背中からゆっくりと振動が伝わってきた。

ガーネはポケットに雑に突っ込んだ鍵の存在を確かめるように軽く握り、腕を組み直した。


「…北の魔女と南の魔女……どっちを先に手ェ出すのが、合理的かな」

薄く目を開いて、車窓の向こうの景色を眺める目は妙に冷ややかだった。


すっかり日も暮れて空に星が瞬く頃合い、ようやく王都へと戻ったガーネは城に戻るとまだ明かりの点いたいつものように騒がしい部屋の前を素通りして自室へと戻った。

部屋の扉を閉めて、ようやく安堵の息が漏れた。

柄にも無く、緊張していたらしい。

身を投げ出すようにベッドに転がると、天井に向かって深く溜息を漏らした。


やらなくてはいけないことが増えた。

自ら増やしたと言っても過言ではないが、どう考えても避けては通れない。

女王もヘルソニアも、『ここまで』見越しているのかもしれない。わからないながらも、多少のわかった振りも必要だった。

そうでなければ、自分が重圧と責務に押しつぶされてしまいそうだった。


────幼少の頃のことは、あまり考えないようにしていた。

『今の自分』には、全く無関係で必要のないものだからと割り切っていた。そのはずだったのに、叩き込まれた所作も作法も言葉遣いも、最低限の目利きも、『今の自分』が当たり前のように使っているのだから始末が悪い。なら、使えるものは徹底的に使うしか無い。


ガーネはベッドから身体を起こすと、ポケットに手を入れて中の『預かりもの』をそっと握り締めた。

ふと、幼い頃に母に言われた言葉を思い出して小さく笑いが込み上げた。


「────アソル・リッツァ・カーシャ…ちゃんと説明しろよクソババァが」

つまり、そういうことかとようやく『あの時の言葉』を理解して、感情が酷く冷えていくのを感じた。



*****



「おはようございます」

「あっれーエナちゃん!おはよう!なになにどうしたの!?朝から来るなんて珍しいね!」

「『統裁官権限が必要な書類』を取りにうかがいました」

翌朝、特務室に侍女のエナが現れ、出迎えたサイフィルに差し入れを手渡した。

「エナさん、書類って…ガーネくんは?まだ戻ってないの?」

スメイラがガーネのデスクに積んでいる書類の束をまとめ、エナに手渡しながら首を傾げた。

「いえ、昨夜お戻りになられていますが…少々お加減が優れないとのことで、自室でお仕事をされるみたいです」

「えー!じゃあお見舞い行かなきゃ!何してからかってやろうかな〜」

「まぁ、いけませんわよサイフィルさん。…エナさん、ガーネ様の体調、そんなに悪いんですの?」

「……詳しくは、私も…ただ、ご命令で『誰も近寄らせるな』とのことでした。少し静かに過ごしたい、と」

「…かしこまりましたわ。必要があればお呼び下さいと、ご伝言いただけますかしら」

「承知いたしました。では、失礼いたします」


エナが退室した後の扉を見つめ、サイフィルは小さく息を漏らした。

「こないだめっちゃ顔青くして部屋で寝るって言ってたじゃん。あれ、まだ続いてんのかな」

「わかりませんわ、そうかもしれないですし…そうじゃないかもしれません」

カルセも少し不安そうな様子で言葉を漏らし、それに釣られたようにスメイラは席主が不在の空席のデスクに視線を向けた。



「ガーネ様、失礼いたします。書類お持ちいたしました、隣のお部屋の机に置かせていただきます。何かあればお申し付け下さい」

「……おー、サンキュ」

さすがは侍女らしく、余計な詮索もしなければ命令通りに動いて空気を読んですぐに退室した。ガーネは部屋の奥の寝室のベッドで転がったまま気怠そうに返事を返すと、少し遠くの方で部屋のドアが静かに閉まる音と気配を感じて再び目を伏せた。


今の自分には、感傷に浸る時間も暇もないと何度も言い聞かせたはずだった。

これが最後、と息をついて、ようやく身体をベッドから起き上がらせた。

────いつか、伯父は真っ当ではない方法で命を落とすだろう。

それが、連中の手によるものか、自分の手によってかはまだわからない。ならせめて、誰かがするくらいならばその役目は自分であるべきだ。


ガーネは左手をきつく握り締め、親指に嵌まる指輪が小さく輝くのを見つめてからゆっくりと立ち上がった。

新月まで、あと一週間と少し。

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