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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十二章『帰属』

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77話「いつもの顔の裏側」

ガーネがラズリの病院を受診している間、カルセは聖女としてヘルソニアと呪いや遺物についての話しに向かい、スメイラは報告書作成等の事務作業に勤しんでいた。

サイフィルは一人手持ち無沙汰にデスクで頬杖をついて深く盛大に溜息を漏らす。


「……なーに、どうしたの?また落ち込んでるの?」

「…ガーネってさ」

「うん?」

スメイラは眼鏡を外してサイフィルの物憂げな顔を見ると、今度はどういった方向に落ち込んでいるのかと首を傾げた。

「…ガーネくんの怪我、気にしてるの?今度は肋骨でしょ。男二人の秘密にしてたみたいだけど」

「いや、そうだけど…そうじゃないというか」

スメイラは持っていたペンを置いて椅子に深く座り直し、サイフィルの顔を見つめて言葉を待った。


「……アイツ、最近スイッチ入ると人が変わった感じにならない?」

「スイッチ?……昨日、何かあった?」

「あー、うーん…昨日は……、…いつも通り銃撃ってたけど一発も当たんなくて」

「え、あのガーネくんが?一発も?……あの伯爵の弟そんなに俊敏な動きでもしてたの?」

「ううん、全然。パワーは全然段違いで向こうだったけどさ……ガーネ、その後『使い物にならねぇ』って銃放ってたけど、銃じゃなくてなんていうか……最近よく目瞑ってるじゃん、『合わない』って」

「うん」

「……その後さ、均衡がどうこうって話ししてて、その後にまぁガーネが女王陛下の……あの、悪口をね……その後に何キッカケなのかわかんないけど、ガーネがブチ切れであの男フルボッコ。わざわざ傷のある腹思い切り蹴り付けるし、踵落としで肩の骨砕いて頭踏みつけ」

「うわぁ…」

銃声は何発か、屋敷内でも聞こえてはいた。

その後は静かなものだったのでどういう戦い方をしたものかと思えば、サイフィルが青い顔をしながらカルセを呼びに来て一緒に中庭に降りた後に見たガーネが血塗れで瞳孔全開だったため、どんな怪我をしたものかと心配したものの重傷なのは足蹴にされていた方で、カルセが『やり過ぎ』と言いたそうに言葉を飲んでいたのを思い出した。


「そもそも今回の件だってさ、今にして思えば『最初から全部わかってた』みたいだし…でも僕はガーネのこと、馬車に相乗りしてからのアイツしか知らないからさ。いや、アレもドン引きレベルで強かったけど」

「…まあ、私も君とそんなに付き合いの長さは変わらないよ。無茶する所は変わらなかったし、バカな子だとは思ってはいたけど…無鉄砲で無茶するしね。けど、前にも言ったかも知れないけれど、あの子は決して馬鹿ではないというか…状況判断処理能力がずば抜けてるのよ、良く言えば判断が早いけど悪く言えば切り捨てるのも早い。そういうところは、あったかもしれない」

「……だからと言ってなんかうまく言えないんだよなぁ…僕だってアイツと歳一個しか変わんないけどさ、めちゃくちゃ考え方とか何層も上のレイヤーでもの見てるかと思えば全然普通にガキっぽいところもあるし」

サイフィルはそのまま机に突っ伏して深い溜息を漏らした。

「まあ、いかがなさいまして?」

部屋に戻ってきたカルセが驚くほどに室内の空気が重苦しいものに満ちていた。カルセは伏せったサイフィルが泣いてでもいるのかと心配そうな顔で歩み寄り、隣の席に腰を下ろした。

「…ガーネが怖いって話し…」

「ま。なにか怒らせるような失言でもなさったんですの?」

「ううん、そうじゃなくて…」

スメイラが苦笑いでカルセに先程のやり取りをかいつまんで説明すると、意外にもカルセはきょとんとした様子で首を傾げた。

「……わたくし、この中ではガーネ様とのお付き合いは一番浅いですが…そもそも、『アレがガーネ様の本質』なのではないのでしょうか?」

「え、ほ、本質?」

「ええ、こう言っては語弊があるかもしれませんが…たしかに正義感も責任感も強くいらっしゃいますし、猪突猛進で自己犠牲を厭わないような場面も多々拝見しました。それもまた彼の本質。ですが…彼の魂の根底にあるのは、そんな生易しいものではなくお見受けします。わたくしが聖職の身だからこそ視えている部分もありますが、彼の本質は女王陛下と同じ側…『支配者』と呼んで遜色ない性質かと。最近の彼の妙な違和感は、あの異界遺物に触れたせいでその魂と意識の境界のようなものが揺らいだせいかと思います」

「……」

顔を上げたサイフィルは何も言えず、スメイラは妙に納得したように考え込んだ。

「わたくし、ガーネ様のご側近のような立場に置かせていただいてはおりますが…だからと言って、わたくしは彼を無条件に肯定もするつもりはございません。あの方が祈れと言うのならば祈りますし、下がれと仰せになれば下がります。ですがわたくしも聖女として譲れないところははっきりとお伝え申し上げていますわ、今までも…これからも。今までは『間違ったことをしている』とは思わなかったので何も申し上げていないだけですわ。…さ、お茶の用意をいたしましょうか。先程おやつにとエナさんからケーキをいただいたんです」


スメイラは心底意外そうに立ち上がったカルセを見つめた。スメイラの中では、カルセはどこかガーネに恋心のようなものを寄せていてガーネが死ねと言えば喜んで死にそうだとすら思っていたために、彼女のガーネに対する評価は非常に意外そのものだった。

『伊達に長く聖女はやっていない』の言葉は、まさしくとしか言えなかった。


「────…なんだこれ、葬式でもしてたのか」

タイミングが良いのか悪いのかわからず、ガーネまで病院から帰ってきて部屋の空気に僅かに驚いたような声を上げた。

「ええ、ガーネ様の悪口大会を少々」

「少々じゃねーだろ絶対。文句があるなら陰口じゃなくて直接言え、言う度胸ないなら黙ってろガキじゃあるまいし」

「わたくしは常日頃申し上げておりますけれどね?まあ、…ラズリさんにたっぷり叱られたようですし、今回のそのお怪我に関しては何も言いませんけれど。エナさんからケーキをいただいたので、お茶の用意をしに行くのですが…またお出かけですの?」

病院に行く際に置いていった官服を手にして再度入口へと向かうガーネを見て、カルセが上手く話しを躱しながら問いかけた。

「着替えて女王んとこ。めっちゃ悪口言ったから説教だよ、あの女」

「…ガーネくん、それさっきの君のセリフとものすごく矛盾してる…」

「あーあ、どんな説教されてどんな罰与えられるんだろうなーっと。怖いなー怖いなー」

スメイラの突っ込みを無視してわざとらしい独り言を残して部屋を出たガーネは、女王の執務室に続く廊下を無言で歩いていた。

『説教』など、建前なのはわかりきっている。

どの方面からどの話しが来るのかだけは、身構えておこうと小さく息をついてドアをノックした。

「────ディアマント様、ガーネです」

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