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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十一章『境目』

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76話「叱責の真意」

「──── では、よろしくお願いいたします」

「スメイラ終わったか」

「うん、一通りはね」


諸般の手続を一通り終わらせ、どっと疲れが出る。

「…疲れましたわね」

「ほんと」

ガーネは壁の時計を見て、帰りの汽車の時間まで半端に時間があることを確認する。

「…少し時間がある。スメイラ、カルセ、お前らは少し寝とけ。時間になったら起こす」

「ガーネくんこそ寝たら?疲れてるでしょ」

「俺はいい、帰りの汽車で寝る」

それだけ言うとガーネは部屋を出て、サイフィルを待たせた別の部屋へ向かう。

「おい、準備出来てるか」

「バッチリ!」


サイフィルに用意させた『痛み止め』を見て、ガーネは動きが固まった。

「…………なにこれ?」

「え?痛み止め」

「人の飲み物かこれ」

「心配するなって、僕の目利きに間違いは無いよ!痛み取りの『キンラン草』に、消炎作用の『ベコハ』『カルニア』でしょ、あとは鎮痛作用のある『シケ』。飲みやすいようにバナナと苺混ぜてジュースにしてみました」

「魔女の飲み物かよ、見た目がまずおかしい」

「…ねぇガーネ、二人に言わなくていいの?」

「いらん心配かけさせるな、それに今言わなくてもどうせラズリ経由でバレる。今小言言われても治るわけじゃない」

「そうだけどさぁ…」

ガーネはコップに入ったおどろおどろしい見た目の液体を凝視する。

「………これ、俺死なない?平気?毒殺未遂事件まだ続いてる?」

「早く飲まないと二人に言うぞ」

ガーネの周囲には非常に口やかましい女性が多い。面倒くさい、と思うのも本音であるのは間違いはないが、どこかまるで『悪戯がバレて母親に怒られないかヒヤヒヤしている子供』のようで、サイフィルはようやく小さく笑った。

「…なに笑ってんだよ」

「うるさいな、早く飲みなさいよ。帰りの汽車の振動で痛んでバレるよ」

「…………ぶえっ」

「ちゃんと飲めよ!」

あまりの不味さに吹き出したガーネを無視して、サイフィルは無理矢理口に流し込んだ。



*****



数時間後、汽車を降りて王都の石畳を踏む。

すっかり見慣れた景色に、深く息が漏れる。それと同時に所詮はただの薬草、緊張も切れたのもあり急に脇腹も肩も酷く痛み出した。

「…サイフィル、俺の荷物持て」

「に、荷物持ち…!?いよいよもって僕パシリみたいじゃん!」

そうは言いながらも顔色が明らかに変わったガーネを見て大人しく荷物を持つ。

王城へと戻る最中、酷く血塗れのガーネは注目を浴びた。さながら凱旋のようでもあり、民衆の視線が刺さる。


「おかえり、ガーネ。また手酷くやられでもしたのかその出で立ちは」

城に戻ると珍しくヘルソニアが待っていた。恐らくは『聖女』しか出せない通達を用いたからであろう。ヘルソニアはガーネの様子を上から下まで眺め、後ろの三人へも視線を投げた。

「…言っておきますが、コイツらに怪我なんてさせていませんよ」

「ふ、見ればわかる。其方は?毎度ボロボロだな、陛下が嘆くぞ」

「俺のは返り血です。傷はありません」

「…『傷は』、か。まあ良い。陛下がお呼びだ、其方達そのまま来なさい」

ヘルソニアに続いて王城の長い廊下を進む。

謁見の間に通され、既に女王は玉座に座ってガーネがカルセに出させた通達を手に待っていた。

ガーネたちは玉座の前に進むと敬礼の姿勢を取ったが、頭を下げた瞬間にディアマントに冷えた声が飛んできた。

「ガーネ。お前はいつになったら妾の元に連中の首を持ち帰るのだ」

「…申し訳ございません」

「……フン、言い訳はせぬか。素直に『組み込まれた呪いが発動して捕縛直後に死なれた』と申せば良いものを」

「事実、死体以上のものは持ち帰れていません。言い訳をする理由はないかと存じますが」

素直に叱責されているガーネを後ろから見て、カルセたちも庇いたい気持ちはあれど口を挟めずにいた。スメイラの視線に気付いたヘルソニアもその意を汲んだようで、小さく口元に笑みを浮かべて僅かに首を振った。

「ガーネよ、妾が怒っておる理由はわかっておるか」

「わかりません」

ガーネの背後だけが空気が凍った。

────この男は何を平然と言っている?

さすがのカルセも困ったように眉を下げてガーネの背中を見つめていた。

「ほう、『わからぬ』と申すか」

「はい、わかりません。……陛下、連中の下っ端ごときだと『こう』なるのご覧になったのならわかるでしょう。それを俺が怒られる道理はないですし、貴女『そんなこと』で俺に怒ってないでしょう」

「ふ……、ふふふ。ははは、良い良い。お前もそこまでわかっておるのなら妾は何も言うまい。そも、お前の言う通り『そんなこと』でなぞ怒ってはおらん。呪符の灰ごと保管して持ち帰った判断、何も間違えておらぬわ」

急に楽しそうに腹を抱えて笑い出したディアマントに、カルセたちは小さく安堵の息を漏らす。しかしこの男は本当に何をしでかすかわからないと、胃の痛くなるのもまた事実であった。


「ガーネよ」

「はい」

「理屈も力も全部揃えて、その上で平然と無茶を通す傍若無人というドレスを纏ったとんだワガママ女、とは…どこの女のことだ?」

「……」

サイフィルはまさしくその暴言を見聞きしていた。途端、ひゅと小さく息が詰まる。その様子を見てカルセとスメイラも、『あ、コイツ言ったな』とガーネに同情ではない諦めに変わった色を孕んだ視線を向け直した。

「妾の顔が可愛くなければ、妾はお前に泣かされるのか。ふむ、困ったな」

「…こ、困りましたね。どこの男ですかそんなこと言ったの」

「ふふ」

「ヘルソニア」

「はい、申し訳ございません陛下」

「ガーネ、お前はあとで妾の部屋に来い。わかったな」

「はいごめんなさい」

「…その前にラズリのところへ行け。妾が怒っておるのは『ソレ』じゃ、その砕けた肋骨をどうにかして来い。『話し』はそれからじゃ」

「………ハイ…」



「こ────────んのクソガキがぁぁ!!!なァんでせっかくくっついた筋肉また中で切れてる挙げ句肋骨まで折ってんのよ!!!ぶち殺されたいの!!?」


王立中央医療院附属魔障・霊障災害対策総合医療局。

ここで盛大な雷が落ちたことは、言うまでもなかった。

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