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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十一章『境目』

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75話「統裁官の流儀」

「……」

ボーデンが腹部に感じた鈍い衝撃。

衝撃の理由を確認するように視線を落とすと、農業用のフォークが深々と突き刺さっていた。

理解が追いつかず、ボーデンは正面のガーネに視線を向ける。

ガーネは、わざとらしくつま先を鳴らしながら挑発的に笑った。

「すまんな、言い忘れてた。俺手癖は悪くないんだけど────代わりにちょっとだけ、足癖悪くて」

ガーネが先程鉄パイプを手にする為に崩したビニルハウスに収納していたフォークを、器用にも蹴り飛ばしたらしい。そこまで理解するとボーデンは歯を食いしばって血が吹き出すのも構わずにフォークを引き抜き地面に放り投げた。

「あ、そうだ。────で?話しの途中だったな。お前がウチの女王に何するって?もっぺん言ってみ」

容赦なく腹部の傷を目掛けて入れたガーネの蹴りは的確にボーデンの刺し傷を抉り、裂傷から更に血が吹き出す。

「が、は…!」

「おーおー立ってられんのかさすがだな。俺優しいからあんまり怪我人痛めつけんの趣味じゃねぇんだけど」

「き、さ…ま……ァ…!!」

「安心しろ、殺したりなんかしねーよ。お前らには聞きたいことは山程ある。…お前みたいな序列持ちじゃない雑魚でも、多少は内情知ってんだろ?大丈夫任せな、こっちは取り調べのプロだ悪いようにはしねーよ。ああ、でも────」

「ぐあ!ぎゃあああ!!」

少しだけ『足癖が良くない』と自称したガーネの踵落としが綺麗に決まり、ボーデンの肩の関節の砕ける音がした。


「一番大事な事忘れてた。あの女を正してわからせて良いのは、今も昔も俺だけだ」


膝から崩れたボーデンの頭を踏みつけにし、靴底で後頭部を押さえつけると、深紅の瞳を冷ややかに光らせて口元に笑みを浮かべた。

「お前らの汚い手で俺の可愛い女王様に触ろうとか生意気なこと考えるんじゃねぇ、わかったな。……アレは俺のだ」


既に意識の無いボーデンを冷ややかな目で見下ろす。顔に浴びた返り血を拭うために手を上げると、左手に嵌ったダイヤの指輪が静かに輝いていた。

「はー、手間取らせやがって。サイフィル、カルセ呼んで来い」



「……とりあえず、簡易的ではございますが止血と捕縛の魔法はかけましたわ」

サイフィルに呼ばれたカルセが、ボーデンに拘束魔法をかけたあとに腹部へ治癒魔法をかけた。『やりすぎ』と苦言を呈したいところではあったが、状況も見ていない上に手心を加えていい相手ではないことも理解している為言いたい言葉は静かに飲み込んだ。

「今度から手錠持ち歩くか」

「…お前が言うとなんか変な感じになるから…すげー怖かった、おしっこ漏らすかと思った…」

ガーネの呟きに、とても半月ほど前まで重傷で寝たきりだったとは思えない容赦ない戦闘の様子を思い出し純粋に怯えたような声でサイフィルが訴えながら預かっていた拳銃を返した。

サイフィルから拳銃を受け取り、柄にもなく『コイツに使わせることにならなくて良かったな』と思いながら視線を向け、わざと鼻で笑うようにあしらう言葉で返した。

「何がだよ、ぼんやり見てただけのくせしやがって」

「カルセちゃん!スメイラさん!コイツヤバいよ!!超ドS!!」

「逆に今までの俺のどこを見てМっ気があると思ったのか聞いておきたいとこだけどな。…まあいいコイツに構ってると時間が無駄だ。カルセ、俺の名前使って『聖印王命緊達』出せ。『均衡教徒捕縛』────いつも高みの見物して茶でも飲んでる宮廷魔道士引っ張り出させろ」

「かしこまりました。至急対応いたします」

「スメイラは地元の衛兵か警察辺りに通達」

「もうしてる」

「ガーネ僕は?」

「俺の邪魔しないでくれりゃなんでもいい…あ、いや。一個お前にしか頼めないことがある、ちょっと来い」

「…?な、なに?」

ガーネに手招きをされ、ものすごく警戒した様子で近寄るサイフィルの肩を組むように抱いて小さな声で耳打ちして指示をした。

「女どもに知れたらめんどくせぇ、肋折れた。痛み止めになる薬草かなんか探してこい。苦くなくて食いやすいやつ。『視れる』だろ」

「……う、うん」

また、怪我をさせてしまった。サイフィルはまたも自分が何も出来ずにいたことを悔やみながらも、自分に今できることをするしかないと素直に頷いて走った。

「…あれ?サイフィルくんは?」

「お使い」


「…!ガーネ様!!」

「なんだ」

何かに気付いたカルセが、急に声を張り上げて横たわるボーデンに駆け寄った。

ボーデンの着用していたジャケットからちらりと覗く、見覚えのある紋章の入った呪符。

それが突然炎を上げたかと思うと、ボーデンの血の気がどんどんと引いていくのが見て取れた。

「カルセ、死なせるな!コイツには喋ってもらうことが山程ある!」

「わかっております…!」

カルセが胸元の意匠を握り締め祈りの言葉を紡ぐ。しかし、その祈りも虚しく呪符はあっという間に燃え尽きてしまい、それと同時にボーデンの命も尽きた。

「…クソ…!!」

「……やられましたわ、『こういう仕組み』だとは思いませんでした」

「…呪符を媒介に、既に身体に呪いが刻まれている…ってこと…?」

「恐らくは…口封じ、もしくは蜥蜴の尻尾切りのつもりなのかもしれませんわ」

「……カルセ、この呪符の灰ごと『保存』しろ。そのまま宮廷魔道士に引き渡せ」

「はい」

「スメイラ、地元の警察に引き継いだら至急王都に戻る。支度しとけ」

「わかった」


東の空が、少しずつ白み始めた頃合いだった。

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