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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十一章『境目』

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74話「照準誤差」

「えっ、『外した』?『外れた』?」

「うるせーな『外れた』んだよ」

「……へ、下手くそぉ…」

「うるせっての。……普段なら外さねーよこの至近距離で、あんな図体デケー男。射撃は成績良かったし」

ガーネは言いながら再び銃を構え直す。しかし、『あの時』と同じように照準は合っているのに銃口が向いている感覚がまるでない。逆に、銃口だけ向いて照準が合っていないのかもしれない。

ガーネはどこがどうズレているのかを確認するように数発発砲するも、男が避けたのもあって全弾外したところで、いよいよもって『今の自分には役に立たない』と銃を背中側のサイフィルへと投げ渡した。

「へっ」

「護身用にでもしとけ、使い物にならねー。あと邪魔だからどっか行ってろ」

遠回しに離れていろとサイフィルに伝え、男と向き合う。

相手の得物が長杖であれば、銃で距離を取るのが一番『自分が安全』に違いなかったが、こうも引き金を引いたあとの反動が半拍遅れたり早かったりされては自分の感覚そのものが信用出来ない。

いっその事、相手の間合いの内側に入り込んでしまった方が良いのだろうかとも考えるもこれ以上怪我はしたくない。痛いのもそうだが、多方面に面倒臭いこと極まりなかったからである。

「おい、10秒だけ待て」

「なんだ、命乞いか」

ボーデンに対し手を翳し制止を求めるガーネ。意外にも大人しく止まってくれたところで両目を閉ざし最低限の調整を試みる。

たかが10秒程度、知れたものではあったがやらないよりはマシと判断した。

「────あんまり意味のある感じじゃねぇが、こんなもんか」

両目を開くと先程までよりは幾分か『座標のズレ』のようなものはマシになったかのように感じる。

律儀にガーネが目を開くのを待って、ボーデンが勢い良く長杖を振り下ろす。八割勘で避けたようなものであるが、辛うじて避けることは出来た。

しかし直撃すれば怪我では済まなそうな威力である。

「……なんかドーピングでもしてんのか、人間の威力じゃねーだろこれ」

まともに食らうと確実にヤバそうな気配に、ガーネは思わず顔が引き攣った。

「ドーピングなど、そのような狡い真似をするか」

「ハッ、人に毒盛ろうとした小物がコスいなんざ良く言うぜ」

「そう言うな、しかし毒草を見分けることが出来るとはな。見くびっていたよ統裁官殿」

「そりゃドーモ。最低限の毒草の見分けは親に叩き込まれてるもんでな」

なんでもない様な会話をしながら、ガーネはジリジリと間合いを図る。とにかくこの男の間合いに下手に入ること程の自殺行為は無い。

脳天でも直撃しようものなら、頭蓋粉砕どころの話しではない。

「あーあヤダな、知ってるかお前。怪我したらクソめんどくせぇロリババアにドヤされるんだぞ、挙句薬漬けだ。二度と御免被りたいから怪我したくねーんだよ」

「なら、即死すればいい」

「あ、やっぱそういう考え方する?どういう信仰心してんだよお前、らっ、うおっ!」

即死させるつもり満々といった様子で長杖を振り下ろされ、避けはしたもののよりにもよって左肩を狙われている。

おそらく、先程から左を庇っているのがバレていたのだろう。

「危ねーな!!怪我すんだろうが!!」

「なんだ、先日はワーシャの奴と遊んだんだろう?俺とも遊んでもバチは当たらないだろう」

「誰だよワーシャって!知らねー奴の名前出すんじゃねーよぶん殴られてーのか!」

言葉通り遊ばれているかのように際どくギリギリ避けられる箇所ばかりを攻撃され苛立ったガーネは足元の石をボーデンの目を目掛けて蹴り飛ばした。

当然ながら避けられはしたものの、大分身体の感覚は慣れてきたように感じる。

おそらく、身体も感覚も万全であればこんなにも苦戦を強いることもないだろうと思えばこそ、多方面に向けての腹立たしさが湧き上がる。一番はまんまとやられた自分自身に対しての苛立ちがそれであった。

「ワーシャには左肩を撃たれたのだろう?なら俺は、左肩を砕いてやろうか。バランスを良くするために右にするか?それとも間を取って心臓を潰そうか」

「ざけんなよ俺は死にたくねーって言ってんだろ、痛めつけられんのも趣味じゃねぇんだよ痛てーの嫌だろうが馬鹿かテメェは」

ボーデンの口振りから、ワーシャというのは先日の忌々しい占い師もどきの女と想定された。ガーネが後退したことで背後に温室用のビニルハウスが迫り、後退して退避するスペースも無くなった。

小さく舌打ちを漏らしながら、どう振られてどう避けるかを考える。そも、避ける一方では意味が無いだけではなく消耗するだけな事も分かりきっていた。

ガーネは一か八かとビニルハウスの骨組みを蹴り上げ、崩れた鉄製のパイプを一本拾い上げる。

リーチ的にはこれで互角ではあるが、左肩の負傷と体格差と視界と音と感覚のズレ、何より圧倒的なパワー差で不利には変わらない。

「……そんなもので俺と殺り合うつもりか?」

「いや、振ればワンチャン当たるかなーと。『調整』すんのもお前みたいな奴とやり合ってんのに間に合わないしな」

「当たるといいな!」

威力はあるが、その分大振りで多少スピードは遅い。避けられないこともないが、避ける余裕がない。

寸での所で相手の長杖を鉄パイプで受け止めるも、力負けして左脇腹に向かって滑り込んで来る。さすがに避け切ることも出来ずにまともに食らうと、息が詰まる程の激痛を覚える。衝撃を受けて強かに殴り飛ばされ、口の中も切って嫌な味が広がった。


────…肋2、3本いったなこれ


脇腹から嫌な音と息をするだけで走る痛みから、何本か持っていかれた事が伺える。

一番に浮かんだのはあの口煩いロリ医者の顔であった。面倒臭い。あばよ二度と来るかと言った手前本当に行きたくない。

「おや、統裁官殿どうしたかな。脇腹辺りで妙な音がしたが」

「……ッゲホ…!っぐ…!!」

激痛に噎せ込む程に肋が軋む音がする。本格的に『半殺し』では済まないかもしれない。面倒なのはあの医者だけではないからである。

「…だ、クソ…!」

「苦しそうだな、痛そうだ可哀想に。先程から一生懸命俺に向かって来てはいたようだが、『努力で埋められない絶対的なモノ』の前には抗えない」

「……ほー、なんだ、急に思想語りか?じゃあ一体お前は何を埋めたかったんだ」

「…俺はこんなに一生懸命領地の為に働いても爵位はもらえない。なぜだかわかるか庶民のお前に」

「あー、はいはい。次男だからだろ」

脇腹を押さえたまま面倒そうな顔でガーネは返答をすると、地面に口の中に溜まった血を吐き出した。視線は一点に注がれ、そのまま睨むように目の前の男に向き直した。

「そうだ。兄は人がいい。仕事が出来るかというとそうではない、だから俺が仕事をしている。なのに俺は認められない。だが『ここ』はいい、俺の実力そのものを認めてくれ、俺の考えを理解してくれる。俺の考えそのものは世界の均衡の縮図なんだ」

「さようか、おめでてーな。くだらねぇ」

「お前みたいな『犬』にはわかるまい」

「はは、バカかお前。ウチの女王見てみろ、あの女は理屈も力も全部揃えて、その上で平然と無茶を通す傍若無人というドレスを纏ったとんだワガママ女だぞ、振り回される俺の身にもなってみろよこんな怪我するわテメェらみたいな連中に命狙われるわ…俺はあんな厄介な女、顔が可愛くなきゃ泣かせてるわ」

「安心しろ、お前という犬を始末したらその傍若無人な偽りの均衡の女も我々がしっかり『正して』────」


ボーデンの動きが止まり、一瞬の静寂が周囲を包んだ。

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