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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十一章『境目』

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72話「丁重な招待には礼を」

「統裁官閣下はこちらのお部屋を、女性のお連れ様は奥のお部屋、男性のお連れ様はこちらのお部屋をお使いください。何かあれば遠慮なく使用人にお申し付けくださいませ、それでは一度失礼いたします」


部屋を案内した使用人を下がらせ、ガーネはスメイラたちへ顔を向けた。

「荷物を持ってこの部屋に集まれ、────全員だ」

「はー!?ガーネお前!女の子と一緒に寝るつもりか破廉恥な!僕は許さないからな!」

「お前が許すとか許さねーとかそんなくだらねぇことはどうでもいいんだよ。全員って言っただろお前もだ。何処から何が来るかわかんねーのに、連れてきたお前らを俺の目の届かないところ置いとけるか」

ガーネのその言葉に、サイフィルは小さく息を飲んだ。

場の空気を誤魔化そうとわざと明るく振る舞うように部屋の真ん中に鎮座するキングサイズのベッドに腰を落とした。

「それにしてもさー、ガーネお前台本もナシにすげーな何喋ってるか8割わかんなかったわアハハ〜………ほんとに何喋ってた?」

「………端的に言えば、来訪前日に通達だけ寄越していきなり来るなんて失礼な若造だなって話だよ、こっちも私的な訪問だからテメーが俺の行動に口挟んでんじゃねぇよって返したまでだ」

「それにしても、いつの間に通達なんて出してたの?私そこまでしてないけど…というかしてたのも意外だったけど」

「しとかねぇとまずいだろうが。不本意だけど俺が面割れし過ぎてんだ、女王の顔にも泥塗ることになるしそれに────公式だろうがなんだろうが、俺が来るって意思表示しとかねぇとな」

壁を叩いたりドアの蝶番に至るまで入念に確認する様子にスメイラも珍しく不安そうに眉を下げ、カルセに視線を向ける。

「…三階か、普通に足持っていかれるな」

「この程度でしたら、わたくしの魔法で多少はどうにかできますわ」

「そうか、ならその時はお前に任せる」

窓を開けて下を覗き込んだガーネに、スメイラからの視線を受けたカルセが当たり前のように声をかけた。

「いやでもさぁ、普通そこまで警戒する?地方とはいえ貴族の城じゃんここ」

入念過ぎる程に過剰な確認にサイフィルが思わず口を挟むと、ガーネは睨むようにサイフィルを一瞥した。

「…何度も言うが、こっちは喧嘩を売られてのこのこ敵地に来てるんだ。俺は死にたくねーし怪我もしたくない。撃たれりゃ普通に痛ぇんだよ俺だって。それにここは王都じゃねぇ、何が起きても誰もすぐには動けない。俺にもお前らを連れてきてる責任がある」

サイフィルはガーネの剣幕に思わずゴクリと唾を飲んだ。

怪我をしてから、過剰になっているのも理解は出来る。


「スメイラ、事前に土地のことは調べてるだろうな」

「言われなくてもやってるよそのくらい」

「…ま、お前ならやってるか。そういうところは信用してるよ」

「そりゃどうも」

ひとしきり室内を確認したガーネは改めて三人に向き直る。

その顔は既に『仕事向き』の顔であった。

「サイフィルとカルセ、お前らは領内見て来い。遺物の線を潰す。夕食の時間までに戻れ」

「かしこまりました」

「スメイラは俺に同行しろ」

「はーい。…なにするの?」

「……俺はあの伯爵のオッサンの相手だ」



*****



「いやぁ、今年は天候にも恵まれまして、西の丘陵の出来が殊の外良いんですよ」

「そのようですね。道中でも積荷を多く拝見しました。物流の方は滞り無く?」

「ええ、この辺りは王都ほど騒がしくもなく、実に平穏なものですよ」

「平穏が何よりです。維持する方は骨が折れるでしょうが」


当たり障りのない対話で『腹の探り合い』をするガーネと伯爵と、記録を取るふりをしながら周囲に視線を向けるスメイラ。


────さすが、上手い

スメイラが感心する程にガーネの『対貴族慣れ』は目を見張るものがあった。

貴族ではないにしろ、古い歴史と由緒のある家柄の息子であると改めて実感する。


「古くからの収穫祈願がね、今でも残っておりまして」

「…土地に根付いた祈りは、形を変えても残るものですからね」

「おっと、そろそろ食事の用意が整ったようです。せっかくお越しいただいたので、我が領地で収穫された旬のものを是非召し上がっていただきたい」

「それは楽しみですね、良きものがあれば陛下にも進言いたします」

「いやはやそういうつもりでは…はははは、…では続きは食事を摂りながら」


執事が晩餐の準備が整ったと呼びに来たことで、話しは一時中断となった。

立ち上がったガーネはスメイラと視線を交わらせた。小さく首を振るのを確認し、スメイラも小さく頷き返す。

ガーネが彼を『違う』と判断したことは理解出来、一層警戒の色が濃くなったのを後ろから緊張した面持ちで見つめていた。



「統裁官閣下、こちらへ」

晩餐室に案内され、一番の上座へと執事がガーネを案内する。

「紹介が遅れました、こちらは私の弟の────」

「ボーデンと申します。ご挨拶が遅れ誠に申し訳ございません閣下。お目にかかれて光栄にございます」

「どうも、はじめまして」

妙に人当たりの良さそうな笑顔の男は、実務をほぼ担う責任者の役割をしているらしく身体つきも伯爵よりもずっと逞しかった。


ガーネの隣にカルセが座り、伯爵が腰を下ろした。

この並びになることは想定の範囲内で、ガーネが慣れた所作で左手でナフキンを取り広げると同席者が同じように一拍置いてナフキンへと手を伸ばし、サイフィルも慌てて見様見真似でその動作に倣った。


スメイラはそのままカルセに視線を投げると、視線の絡んだカルセは左手で胸元の意匠に軽く触れ位置を正した。

ガーネも、横目でその動作を見て軽く目を伏せた。


左手で意匠に触れる動作は、事前に取り決めておいた『合図』だった。

────領地内に『異界遺物の痕跡は無し』。


「失礼いたします。季節野菜のテリーヌでございます」

前菜がまずはガーネの前にサーブされ、ガーネは皿の上の食事に目を向けた。

「統裁官様、こちらは当領で収穫されたものを用いた一皿にございます。土地の持ち味を活かしたもの故、些か素朴ではございますが…お口に合えば幸いです」

「ご配慮、痛み入ります。────…頂戴いたします」

そう言ってカトラリーを手にし、一口口に運ぶ。

「…見事なお仕立てですね」

「そうですか!ご満足いただけたようで何よりです」

ガーネの返答に伯爵も安心したように顔を綻ばせた。

「聖女様も、いかがでしょう」

「ええ、大変おいしゅうございますわ。お仕事が丁寧でいらして」


ガーネの食事のペースに合わせるように全員が食事を口にし、時折伯爵が妙にガーネに対し媚を売るような声掛けをする。それに対しガーネは普段では見たことが無いような外向けの笑顔で対応し、ほぼ同じタイミングで前菜を食し終わったところで給仕が食器を下げる。

それから次の食事がサーブされていくと、ガーネは皿の料理を再度見つめた。


「白身魚のポシェ、山ニラのグリーンオイルでございます」

白身魚に鮮やかな緑色のハーブオイルが引かれ、細かく刻んだ葉も散らされていて実に上品に纏った一皿であった。

「当領内の湖で取れた魚でしてね、水が綺麗なので魚も自慢なんですよ」

「……ほー、それはそれは…この香草もこちらの領地のもので?」

「勿論です。当領の特産の一つでして、こちらも非常に今年の出来が良くて…」

「収穫量も例年の1.5倍程でしょうか。天候に恵まれましたね」

伯爵が視線を投げた先の実務担当の弟も、伯爵と同じように人のいいにこやかな笑顔で返答する。


ガーネは再度カトラリーを取り、魚を分け一口分をフォークの先で取り上げた。

────山ニラにしては、妙に葉脈が太く断片も丸い。

それを確認すると、ガーネは皿にカトラリーを置いた。


「失礼。────サイフィル、来い」

「え?は、はい」

急に名前を呼ばれ、隣のスメイラに不安そうに目配せをしたサイフィルだったが、スメイラも事情がわからなそうに小さく首を振った。

サイフィルは立ち上がり軽く会釈をしてからガーネの傍に歩み寄ると、席に座ったままのガーネが妙に楽しそうな顔で笑っていた。


「サイフィル、俺の皿のこれを食え。毒見しろ」


一瞬にして、食堂内の空気が凍る。

しかし伯爵も執事も弟も給仕も、何も言えずに無言でガーネとサイフィルに視線を注いでいた。

サイフィルもガーネの皿の上の食事を『視て』状況を察した。


自分の皿とは、違う食材が使用されている。

それを踏まえて、ガーネがどういう『パフォーマンス』を求めているのかも理解出来、サイフィルは「失礼します」と一言添えてから元々ガーネの手にしていたカトラリーから食事を一口分フォークで取り上げ、目で確認する素振りを見せてから口に運び、ゆっくりと咀嚼して喉を通過させた。


「……統裁官様。非常に美味しいです。見た目は山ニラですが、────水仙です。毒性も十分」

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