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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十章『精査』

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68話「活動許可:制限付き」

「…まあ、いい。わかった。全然わかんないけど」

「どっちですか先輩」

ラズリは椅子から立ち上がると、両手をパンと叩いて場の空気を切り替える合図をした。そのままガーネに繋がっている点滴の輸液滴下量を調整して改めてスメイラたちへと向き直った。

「ものすごーく癪だけど、女王はこの話し全部…それこそ最初から、秘匿されてる部分まで知ってるだろうね。ていうかスメイラ、アンタが嗅ぎ回ったことも、あの女のことだから多分把握済み」

「まあ、そうでしょうね。だからこそ、本当に知られたくない所は抹消してるんだと思いますけど」

「…サイフィルさん、ガーネ様への態度…変えてはいけませんわよ」

「わ、わかってるよ」

「そろそろほんとにヤク中なっても困るし、ぼちぼち起こすよこのクソガキ。多分数時間で起きると思うけど、もし暴れるようなら呼んで。アタシも仮眠取るから」

ラズリは最後に怪我の縫合箇所を確認し、たっぷりと薬漬けで寝かせて強制安静を取らせたおかげでまずまずの進捗であることを確認してから病室を出た。



*****



「………」

ガーネはゆっくりと意識が浮上するのを感じ、目を開いた。

妙に長くとりとめの無い夢を見ていた気もするが、何も思い出せない。

天井の歪みもなんとなく『懐かしい』ような感覚になり、身体の動かし方を寝起きの頭で思い出そうと思考をシフトした。まずはとにかく、眩しい。


「だからさ、そんなんコイツにやらせりゃいいじゃん。どうせ動けないんだし」

「うーん、でもそれで機嫌悪くされてもね…」

「ま、甘やかしは良くなくてよスメイラさん。必要なことはやっていただくべきですわ、頭までリハビリ必要になってしまいますもの」


周囲が妙に騒々しく、声が聞こえた方向へと視線を動かす。

『耳』は恐らく正常。視野の範囲も問題はない。『視線を動かす』ことも意識通り出来る。

少しずつ意識が覚醒してくると、『コイツらは人の寝ている横で何を騒いでいるのか』という苛立ちに似た何かが頭に浮かぶ。

────普段温厚だが、これも正常の範囲。

「…うるせーんだけど…」

数日振りに発した声は、妙に枯れていた。

だがこれも、想定の範囲内。

自分の『発した声』が自分の中で反響するまでの誤差も、起き抜けに想定した通りの誤差とズレ。

どれも問題ない。

「…!ガーネ!!」

サイフィルが何故か泣いているのだけは想定外で、泣かれる理由がわからないながらもこの男が自分に向ける感情がどういうものであれなんかムカつく、と思うところまでは想定内だった。


────正常だ。



「……ふむふむ。心拍も異常なし、瞳孔の開きも問題なし、傷の縫合もアタシ天才すごく上手、筋組織の回復もまあまあ順調、…と。いやぁ、薬漬けにして寝かせた甲斐があったね〜」

数時間後、ガーネの目が覚めたと病室を再び訪れ医者らしく診察や触診をしていく。

ラズリは無理矢理にでも安静にさせた結果が出ていることに多少の安心を覚え満足そうに笑った。


「テメーふざけんなよロリ医者訴えるぞ。あと腹減った飯出せ飯、食える飯だ。離乳食みてーな飯出しやがって」

「起きたら起きたで煩いクソガキだな!暫く寝てたのにいきなり普通食なんて出すわけないでしょバ────カ」


ガーネの額に青筋が立つ。

「どうしよう、俺この女サイフィル以上に嫌いかもしれない」

「なんで!?僕のこと嫌いなの!?どうして!?」

「うるせーからだよ!」

「今日はそれ食べなさい!そんで薬飲むこと!」

ラズリは食器の中の流動食をスプーンで掬うと無理矢理ガーネの口に押し込んだ。

「うぐっ」

スプーンを押し込まれたことで苦しそうに眉を寄せるも、匙の上の『食事』は反射によって嚥下されしっかりと喉が動くことをラズリは目視確認してカルテに記入した。

「飲み込みも問題なし、…と。段階わけて少しずつ普通食に戻してあげるから我慢しな」

「んなもんどうでもいい、退院させろ」

「寝言は寝て言え」

「寝かされてたんだよ散々!どっかのクソロリババアに!!」

「アンタが暴れるからでしょ脳筋ポンコツ顔だけ野郎」

「暴れてねーよ!」

ラズリはガーネの顔をがしっと力いっぱい掴むと、再度無理矢理食事と流し込んで黙らせた。

「数日寝たきりなのにリハビリもなしに退院させる医者がどこにいるか、どーっしても退院したかったらアンタの飼い主の許可状でも持ってきな。あ、ごめーん許可貰いに行くのに退院しなきゃいけないか。めんごめんご!」

「クソババァ…!」

「殺されたいの?」


動かそうとした手の感覚は、意識より少し遅い。

視界から入る情報のズレはほぼ修正されている。

音のズレも、『今は』特に感じない。

肉体的なよくわからない『ズレ』のみが自分にあることを理解し、感覚に身体を合わせればいいかと本能的に理解したおかげか日常生活は『問題なし』。


何がどのくらいズレて感じるかさえ理解できれば、身体の方を合わせていくのは簡単だった。

そうこうしているうちに馴染んできたと確信して、肩は固定されていて動かないながらも肘も手首も指先も問題なく動く。

痺れや鈍さもない。


数日は大人しくしてやって、様子を見てやった。


「おい、ラズリ」

「呼び捨てにすんなクソガキが。なによ」

「半月近く経つだろ、もう飽きた。退院させろ。仕事溜まってるだろうし俺は忙しいんだよ」

ガーネが入院をして、早くも半月が経過しようとしていた。

懸念事項も多々ある。休んでいていい資格も、自分にはないと言い聞かせる。

「…条件付き。現場禁止、トレーニング禁止、安静は継続。守れる?」

「守れる」

妙にまっすぐに曇りのない目で言うガーネに、ラズリは深い溜息を漏らす。

「アンタのその顔、短い付き合いでよーっくわかった。守る気ないね?」

「……」

ふい、と視線を逸らしたガーネに、ラズリは呆れて肩を竦めた。

「まあいい。カルセにもスメイラにもよーく言い聞かせてるし」

「なんだそれ」

「監視だよ監視」


にんまりと笑ったラズリの顔の意味がわかったのは翌日の昼過ぎ。晴れて退院をしてからのことであった。

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