66話「治療対象:統裁官」
王城の謁見の間にて、不遜な態度のラズリがいかにも『形式上』といった様子で一番お気に入りのロリータ服のスカートの裾を持ってカーテシーをした。
「フン、お前が妾に謁見など珍しいこともあるものじゃ。妾の美しさに勝てぬ故、妾が妬ましいのではなかったのか」
からかうように笑うディアマントに、ラズリはむっとした顔をしながらも姿勢を正して口を開いた。
「お目通り出来て光栄ですー女王陛下ー」
「相変わらずよ、まあ良い。妾が美しいのはどうあがいても覆らぬ。して何用じゃ、お前のところに妾の犬を仕方なく預けておるだろう」
「その件で来たんですー渋々」
ラズリは女王の御前ということも気にした素振りもなく、緩く巻いたツインテールの毛先を指先で絡めながら肩を竦めた。
「怪我の状態については運良く骨も神経も血管も無事です。けど、損傷箇所が肩の筋肉なんで絶対安静ですねー、なのに痛かったからなのかなんなのか、せん妄状態で大暴れしてくれたもんで、傷口開いたんで薬漬けにしてやりました」
「アレは妾の持ち物じゃ。お前の仕事だろう、治せ。アレの生存と可動は、今この国の秩序維持に直結しておる」
「暴れるんだもん」
「使い物になるようにせよ、アレを再起不能にすることは許さぬ。お前が治せぬのであればお前に用はない」
その言葉に、ラズリは素直にむっとする。
「…そうじゃ、妾はとても良き案を思いついた」
なにか企みを覚えたような顔で、ディアマントは足を組み直して愉しそうに笑みを浮かべた。
「……なんですか」
ラズリは覚えのある嫌な感覚に、眉根を寄せて警戒したような表情をした。
「ラズリ、お前を王命付特務医へと任命することにした」
「お、おうめいふとくむい…!?なにそれぇ!嫌なんですけど!」
ラズリの形相に、ヘルソニアはいつものように小さく笑みを浮かべた。
「其方の『自由』な振る舞い、どなたのお陰で周囲が目を瞑っているとお思いか努々忘れぬことだな」
「ヘルソニア様まで!」
「勘違いされては困る。私は陛下の意向にしか従わぬ。陛下が是と言えば全て是、陛下が治せと申したのであれば、治せと命令された其方に『治させる』ようにするのが私の仕事」
「そういうことじゃ、ラズリよ期待しておるぞ。妾の大事な犬じゃ、死なせたり壊したら…わかっておるな」
「〜〜〜〜〜〜〜っっっかしこまりました!仰せの通りに!」
*****
病院に戻ったラズリは酷く苛ついて荒れていた。
更衣室で一番気に入ったロリータ服を脱ぎ、下着を直してから仕事用のロリータ服へと着替えた。
ガーターベルトでソックスを吊り、髪を整え直してお気に入りのラピスラズリのヘッドドレスを付け直す。
そのままラズリは苛立ちを露わに更衣室内のゴミ箱を蹴り飛ばした。
「ムカつくムカつくムカつく!なんでアタシがあの女の直命で動かなきゃいけないのよっ!」
しかし、自分にも医者としてのプライドはある。
あの女の『お前に治せぬのなら用無しじゃ』と言った、あの挑発的な金眼が腹立たしい。
自分よりも美しい女は、大嫌い。
「医者に向かって、『治せないなら用無し』ですって…!?このアタシを誰だと思ってるのよ!そんなに言うならあのクソガキはアタシが治してやるわ!」
それからようやく白衣を纏い、いつものように『特級指定統括特別医』の証である徽章を勝手に加工したダイヤの襟留を留めた。
「ラズリ先輩、あの後ガーネくんどうなりました…?」
昨夜は血まみれで暴れるガーネが薬で落とされた後、ラズリより「処置の邪魔、帰んな」と追い返された。
翌日、再度病院を訪れた一行は、病室で未だ点滴の管が繋がり生きているのか死んでいるのかわからないほどに静かな寝息を立てるガーネに目を向けた。
「どうもこうもないよ。麻酔から覚めたと思ったら大暴れしてさ。このクソガキのせいで徹夜だよ徹夜!お肌荒れちゃうじゃんもうほんと最悪。やっかましいから薬漬けにしてやったわこのガキ」
フン、と鼻を鳴らしてガーネを一瞥する。薬漬けとは言ったものの一応は医学的な適性処置ではある。
スメイラは昨日の指示通り、まとめた資料をラズリに差し出す。
眠るガーネのベッドの上にどっかりと無遠慮に腰を落として横柄な態度で資料に目を通したラズリは、そのままガーネを睨むように一瞥した。
「…スメイラ。このガキの経歴、洗える?」
「け、経歴…ですか?情報がある範囲でよければ、ですけど…具体的にどんな」
「全部よ全部。出生から現在までの生活についてと、特に過去の犯罪歴!とにかくこのクソガキの全部」
「…犯罪、歴…?ラ、ラズリちゃん一応コイツ、本職警察官だし…それは無いんじゃないかな」
サイフィルも少し驚いたように目を丸くし、珍しく庇うような物言いをしながらガーネを見遣った。
横柄で粗野ではあるが、サイフィル自身が見た限り誰よりも正義感が強いガーネが犯罪を犯すとは到底思えなかった。
「ラズリさん、一体どういうことですの?何か懸念がございまして?」
カルセだけが妙に冷静で、ラズリがなにを持ってガーネの経歴を気にしているのかの確認をした。
「今は言わない。言わないけど、アタシもアンタらと同じ『王命』が下った立場の医者としての指示・命令!」
「え、お、王命ですか先輩」
「そ。すっごい癪だし不本意だけどね。アタシ、女王キラーイ。アタシより可愛いとか、ムカつくんだもん」
頼んだよ、と手を振って出ていくラズリの背中を三人は無言で見つめていた。




