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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第十章『精査』

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63話「適材適所」

「……僕、もう少し足手まといにならない程度にはしておかないとね」

サイフィルの言葉に、ガーネはものすごく呆れたような顔で深い溜息を漏らした。その溜息にサイフィルはぎくりと肩を揺らし、ガーネを振り返る。

「…………な、なんだよ」

「お前こそなんだ藪から棒に。さっきも言っただろ、馬鹿かお前は」

「お前にだけは!馬鹿とか!言われたくないんだけど!!」

「お前の仕事は『殴ること』じゃねーだろ。殴るのは俺の仕事だ、自惚れんなよ」

ガーネの言わんとしていることがわかるため、カルセもスメイラも無言のままだった。同じように顔を見合せ、小さく肩を竦め合う。

その光景もまた、サイフィルにとっては言いようの無い劣等感や疎外感に似た何かに感じてしまい唇を噛み締める。

「ハァ……お前な。スメイラにも言ったけど、適材適所ってもんがあるんだよ。俺はお前みたいに『視る』ことは出来ない。今回も、お前が視なかったらあの女に普通に殺られてたぞ俺は」

「……で、も」

「しつけーな、まだ言うか。そんなに言うなら体術の稽古つけてやろうか。再起不能にすんぞ」

「お前は怪我治しなさいよ!返り討ちにするぞ!」

「ハッ、馬鹿も休み休み言え。この程度の怪我ごときでお前が俺をどうこう出来ると思ってんのか、場数も経験もちげーんだよこっちは。いい加減にしねぇと窓から突き落とすぞ」

斜め上もとい斜め下の方向にネガティブに陥ったサイフィルの腕を引き、スメイラは立ち上がる。

「ほら、そろそろ面会時間も終わるし私たちも帰るよ」

「ガーネ様、失礼いたします。お大事になさってください。…あ、わかってらっしゃいますわね?暴れたら許しませんことよ」

「…ハイ」


再び、ここが病院だということを思い出させるような静寂に包まれる。

「……俺の関わる女連中って、なんでみんなああなんだ」

どこぞの女王は怖いし、その側近も怖いし、スメイラは母親のようだし、カルセもあれでいて口やかましい。リルもどちらかと言うと「好き嫌いはするな」やら「誰彼構わずメンチ切るな」など、うるさかった。

「…どいつもこいつも」

感傷に浸る暇も、資格も、自分にはない。

責任を果たさなければいけない。


そう思える間は、まだズレずにこの世界にいるのかもしれないとそう思えた。



*****



「………」

ガーネは苛ついていた。非常にイライラしている。

肩は痛むし、怪我のせいで熱っぽくもある。思うように身体も動かない。

そんな中、偉そうな態度で現れたどう見ても『子供』が、これまた偉そうに目の前で足を組んでいる。

「……動いたな?」

「は?」

やっと喋ったと思ったら子供は立ち上がり、ガーネの傍につかつかと歩み寄った。そしてあろうことかガーネの傷口付近を容赦なく強く圧迫した。

「い、────…ッッ!!」

「あら。声は出さないんだ。立派立派。さすが男の子!…でも動いちゃ駄目って、看護師に言われなかった?動いたでしょ。動かしたんでしょ。なんで言う事聞けないのかな。ん?」

そう言ってようやく解放されると、あまりの激痛に脂汗が滲み出る。

「て、ッめぇ…」

ガーネが左肩を押さえながら思わず涙目で目の前の子供を睨みつけると、子供はバン!と力いっぱい手にしていたバインダーを机に叩きつけた。

「全治一ヶ月。大人しくしていれば、ね!」

「……は?」

「アンタみたいに無茶するガキはね、大体一ヶ月じゃ治らなそうだけどね。アタシの目の届く範囲にいる時にそんなことしてみなさいよ。ぶち殺すから」

「なに言ってんだクソガキ」

「クソガキが何言ってんのよクソガキ。アタシはアンタの主治医なんだから」

「…お医者さんごっこか」

目の前の、身長約145cm程度の藍色のツインテールで頭頂部にはラピスラズリをあしらったアンティーク調のティアラ型のヘッドドレス、フリルのたっぷりとあしらわれたロリータ服の上に白衣を纏った、どこからどう見ても14・5歳程度の少女。つり目を余計に釣り上げてガーネを睨み付けると、カルテの挟まったバインダーでガーネの頭をすぱんと叩いた。

「大人しく出来ないなら、動けないように固定するか薬漬けにして眠らせてやってもいいのよ『昨日みたいに』。そういう処方に、切り替えようか?アタシの言う事大人しく聞きな」

「なにこいつ怖い…」

情報処理が追いつかず、ガーネは小さく呟いた。

「ま、それにしても『敵』が上手かったのか下手くそだったのか、アンタが運が良かったのか何なのか…だけど。あと数センチ下だったら、アンタの左腕一生使い物にならなかったよ」

「え」

少女もとい自称医師はカルテに印された図解を指し示した。

「アンタの怪我はね、ここ。三角筋の貫通創。超運が良かったから骨も関節も、主要神経も無傷。けど筋肉の損傷だから、下手に動かれると縫合箇所も裂けるし筋肉から再出血する。絶対安静。いい?もう一回言う。絶・対・安・静!動くな、ってこと。わかった?」

「動くし。痛くねーし」

「それは今は薬が効いてるからでしょ、それにそろそろ点滴の鎮痛剤も切れかかってる頃合いだし痛いんじゃないの?」

「コメントは差し控えたい…つーか俺忙しいんだよ」

「忙しいのはわかってるわよ!…少なくとも、一週間は絶対に動くのは許さない。これは医者としての『命令』。わかった?ガーネ・ディーム・ロット王命執行最高責任者兼異界対策統裁官!…あれ、合ってる?長くて忘れちゃった」

「俺も忘れたからわかんねぇ」

「…アンタが『普通の怪我』で良かったよ。まだアタシの『治せる管轄』だから。あの遺物由来の『現象』じゃなくて、本当に良かった」

「……あれ、お前」

「お前って言うなクソガキ!カルセ経由でアタシの手紙、読んだんでしょ」


『症例分類:侵界型。医療ではなく現象と扱う。関与出来ず』────王立中央医療院附属 魔障・霊障災害対策総合医療局 特級指定統括特別医 ラズリ・フリュード・インディ


「……あの医者か」

「そ。ちなみに言うけど、アタシが若くて可愛いからっていかがわしい目でさっきから見てるけど」

「待て待て待てものすごく誤解だ、いかがわしい目じゃなくて『不審な目』なんだけど」

「うるさいうるさいうるさーい!アンタね、アタシこう見えてアンタんところのスメイラの先輩なんだから!敬いなさいよ年上を!」

「え?…いやどう見ても14くらい…」

「そうなの、アタシの全盛期の、一番可愛い時期の姿だからね」

そう言ってラズリはパニエで膨らんだボリュームのあるスカートの裾をふんわりと持ち上げながら得意げにくるりと回って見せた。

「こう見えて、32歳の一番女として脂の乗った時期なんだからね。見えないでしょ?よく『えー先生若いですねー三十代になんて全然見えなーい』ってよく言われるんだから」

「あ、こいつヤバい。すみませーん!看護師さーん!お医者さーん!俺なんか熱っぽくて幻覚と幻聴がー!」

「だから!アタシがアンタの主治医だって言ってるでしょ!」

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