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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第九章『眷恋』

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61話「花の向き」

「……っは…?狙撃…?」

「痛い?悔しい?いやね、だってあなた散々税金使って撃ってくれたじゃない。返さなきゃね」

「……税金税金うるせーな、俺も税金払ってんだよクソババア…」

「まー、生意気。躾が足りないのかしら?わざと肩にしてあげたんだけど」

煽られると普通に腹立たしいが、体験した事のない激痛に思考が飛ぶ。

さすがのガーネも、直接撃たれたのは初めての経験であった。

銃で撃たれると痛いんだな、などと考えるも、すぐに痛いに決まってんだろボケてんのかと脳内で自分自身に暴言が飛ぶ。


────次からは、確実に殺せるところに撃ち込むのはやめて一番苦しいところに撃つようにしよう


そこまでズレた考えが纏まったところで、アドレナリンのお陰か痛みはよく分からなくなってきた。

とにかく、目の前の女は殺さなくてはいけない。


「────サイフィル」

魔獣相手でも軽く噛まれる程度の怪我しかしなかった男が、撃たれるとは想像だにしなかったサイフィルは、動揺で身体が震えている。


ガーネが殺られたら、どう考えてもここにいる全員瞬殺だろう事は目に見えている。鑑定なんかしなくても理解できる、圧倒的な格上感。

自分には戦えない、投降しようか、それともガーネの言う通り逃げようか。

「聞いてんのかサイフィル!」


ガーネの怒鳴り声に、はっとする。

「な、なに…」

身体だけでなく発した声もだらしなく震えていて、自分の無力さを改めて自覚した。

目の前でガーネが後ろから撃たれて、自分は何も出来ずに、


──── 後ろから?


「サイフィル、さっさと探せ。出来んだろ」

「…、……っで、出来る。一分耐えろ」

「バカかテメェ無理だよ痛てーんだから!さっさとしろグズ!……カルセ!」

「はい!ヴェルテ・イディグ!」

名前を呼ばれガーネに防御魔法を展開したカルセは、胸元の意匠を握りガーネの背中を見つめる。


「──── 神意の欠片を。侵食を退け、正しき位相へ」

簡易的ではあるものの、カルセの祈りの力は的確にガーネへ届いた。

ガーネの今まで感じていたズレの修正される感覚が戻って来ると、次いでサイフィルの声も届く。

「ガーネ!7時!」

「……上出来!」


サイフィルの的確過ぎる鑑定結果にガーネは斜め後ろを振り返り、自分の感覚と勘だけで引き金を引く。

銃声の轟と同時に、バリンとなにかが割れるような軽い音が聞こえた。


「……、ッ…!」

仕掛けを見破られた女は身軽に身体を飛び上がらせ、建物の上へと逃げた。

手にした鏡を傾けられ、再度正面ではない方向から弾丸が飛んでくるものの、カルセが展開していた防御魔法によって保護される。


「……いいわ、お前の魂はもう少しお前に貸しておいてあげる。そのうち『返して』もらうわ。また会いましょ」

「会わねーよクソババア!!ここで死んでけ!!」

ガーネは女に銃口を向け逃げる背中に容赦なく引き金を引くも、カチカチと空打ちするのみで発砲されない。

「……ックソが!!こんな時に弾切れかよふざけやがって…!!」


時間差で狙撃された肩がちぎれそうな程に痛み、心臓の鼓動に合わせて広がっていくようだった。

身体の方が先に限界を超えて意識を失ったらしいリルたちの横たわる姿を一瞥し、ガーネは血まみれの手でリルの身体を持ち上げた。

「サイフィル、お前二人抱えられるか?左腕が使い物にならねぇ、俺は一人しか無理だ」

「ど、努力はする」

「サイフィルさん、お手伝いいたします」

「……城の、地下牢運べ」



*****



「う、んん…」

固くて冷たい感覚に、リルは目を覚ます。

薄暗い、石造りの狭い空間。

身体を起こして周囲を見ると、石の壁に石の天井、そして正面には鉄格子があった。


「どこ、ここ…」

不安に瞳を揺らし、リルは身を縮こめる。触れた衣服が濡れている事に気付き、視線を落とすと、淡い色のセットアップはどす黒い何かで酷く汚れていた。

「……マリ、ライラ」

小さな声で名前を呼ぶ。応答は、ない。

「ガーネ…」

「起きたか」

無意識に小さく呼んだ名前の主が、無感情に返答する。

「ガーネ」

助けて欲しくて手を伸ばすも、その手は取ってはくれない。


カシャン、と音が鳴って鉄格子が開くと、ガーネがゆっくりと中へ入ってきて目の前でどっかりと腰を落とした。

「な、なに、その怪我」

「掠り傷的な感じか、心配すんな」

「心配するよ!なんで、どうして…前も…」

ゴロツキに絡まれた時に、怖いからやめて殴らないで、とお願いしたらガーネは殴り返さず、素直に殴られた。だけど、目の前でガーネが殴られた事の方が怖くて、いやだ助けて、と叫んだのを覚えている。

「目、瞑ってろ」

そう、あの時もガーネはそう言って、あたしに目を瞑らせた。その隙に、『終わらせて』くれた。


「ごめんね、ガーネ。だいすき────」



異様に音が反響する空間の中で一際大きな音がした後に、からんと空薬莢が石畳に転がる音が甲高く響いた。


「……ガーネ様」

「俺の仕事、後処理の一貫だ」

感情の何も籠っていない声が、妙に物悲しくカルセの心臓を締め付けた。

「…せめて、安らかに」

カルセは意匠を握り、弔いの祈りを捧げた。



「入れ」

「失礼します」

「……また、其方…随分と手酷くやられたものだな」

ディアマントの執務室に赴くと、同席していたヘルソニアが僅かに口角を上げてガーネの姿を見た。

「どうにも、『飼い主の躾が悪い』との事で手酷くやられました。というかどうせ『観てた』んでしょ、お二人とも」

「……ふ、妾のせいと申すか」

ディアマント自身もそこまでガーネがやられて戻るとは多少想定外だったような顔をするものの、優しい言葉などかけるはずもない。

「して、何用じゃ」

「欲しいものがあって来ましたディアマント様」

「……ほう?妾の所有物風情が、勝手に故障箇所を作った挙句敵を逃がしておいてか。どの口が生意気な事を申すのか、躾の悪い飼い主の顔が見てみたいものよ」

口元にだけ笑みを携えたディアマントの机の上に、血まみれの鏡を差し出すように置いた。

「こちらご所望の戦利品です。ご褒美ください」

「…………ふっ、ははは!よいだろう、申してみよ」

「一般人を数人『処理』しました。表向きの適当な理由をください」

妙に淡々としたガーネの物言いに、ディアマントもそっと目を伏せて口元に笑みを浮かべる。

「……ヘルソニア」

「かしこまりました、至急」

ディアマントの目配せでヘルソニアは了承し、『事後処理』のために執務室を出た。

再び二人きりになると、ガーネは貧血と痛みでどうにかなりそうなのを耐えながらディアマントへ頭を下げた。

「ありがとうございます、では失礼します」

「待てガーネ」

「……はい」

呼び止められたガーネは顔を上げてディアマントの顔を見つめた。

「抱いてやらなくて良かったのか?」

含みのある物言いに、ガーネは何を今更と言わんばかりの冷えた目を向けて肩を竦める。

「…………俺が『自分から会いに』来る女も、自分の意思で組み敷きたい女も一人しかいませんから。それに」

「それに?なんじゃ」

「あの女も…俺の事、好きなまま死ねてさぞ幸せでしょう」

「…お前、いい男になったな」

「はは、……元々いい男ですよ、モテるんで。足速いし警察官フィルターですね」


開いた窓から風が吹き込み、王城の中庭に咲いていた彼岸花の花びらが一枚不自然に舞い込んできた。

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