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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第九章『眷恋』

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60話「位相拒絶」

理解は出来なかったが、まだ自分の中で『自分』は存在していた。

理性、と呼ぶのかも知れない。

見えた『何か』は、今は関係ない。目の前の事象を的確に、最善の処理をすべき。


それが『理解』出来ているだけで、今は十分だった。


力の抜けたリルの身体を引き倒すと、ガーネは地面に落下した鏡を踏みつける。

そのタイミングでサイフィルが駆け寄ると、無事を確認してから声を張り上げた。

「ガーネ!一瞬『入った』だろバカ野郎!」

さすがは『鑑定士』らしく、一瞬ではあるもののガーネが鏡に取り込まれかけたことはしっかり視えていた様子だった。


「これは完全に不可抗力だ」

「女の子に乱暴までしやがって!」

「…待って!消えていません!気を付けて!」

カルセの言葉にガーネは慌てて足元を見る。

あれだけ力いっぱい踏みつけたにも関わらず、鏡は壊れていなかった。

「クッソ…なんだこれ…!」


ガーネは懐から銃を取り出すと、弾倉止めで力いっぱい叩くがヒビ一つ入らない。

「カルセ!捕縛系の魔法使えるか!出来なかったら寝かせろ!」

「かしこまりました!」

カルセが聖衣の裾を持って駆け寄って来るのと同時に、引き倒したリルの身体が起き上がる。併せて、リルの友人もゆっくりと迫ってくる。

「サイフィル!カルセの邪魔させるな!」

「わかってる!」


銃のスライドを引いて放つと、硬質な作動音が短く響き、初弾が薬室に装填される。

その音と感触を確認してから、ガーネは引き金を引いた。

短く大きな発砲音が周辺に響く。

当然ながら、当たりどころが悪ければ人は即死する。

だが、その威力を持ってしても、この至近距離でも鏡は壊れなかった。

「カルセ、サイフィル!無理だ壊せねぇ!俺が持つ!」

「だー、クソ!背に腹は代えられないか!」

ガーネは鏡面を見ないように鏡を手にすると、胸元にしまい込んだ。


「エル・ファーセン!」

カルセの詠唱と同時に、身体を拘束されたようにリルたちは動けなくなったが、同時に完全に『堕ちた』様子でリルは忌々しそうに声を張り上げた。


「ガーネ!!許さない!絶対許さない!!早く肉体を捨てて魂を献上しろ!!」


「…お前に許して貰わなくても困んねーんだよ。リルの口で、リルの声で舐めた事ぬかすなよ」

「……ガーネ様、眠らせますか?」

「いや、まともに対話出来るかわかんねーが、聞かせてもらうことは多々ある。うるせーかもしれないけど起こしとけ、寝かすと運びにくい」

「え、運ぶ?」

「女と言えど意識の無い身体運ぶのって大変なんだよ。サイフィル、この女ども向こうに運べ。続きは…あっちの高みの見物してる趣味のいい女をどうにかしてからだ」


「あらあら、まあまあ。嫌だわ。気付いていたのね」

建物の入口のガラス戸を押して開けて出てきた女の妙にわざとらしい物言いに、ガーネは不快そうに眉を寄せる。

「気付くだろそりゃ、そんなに殺気出されて視線もガンガン刺しやがって。殺す機会ならたくさんあっただろーが、舐めてんのかババァ」

「嫌なクソガキね、女性を捕まえてババァだなんて。躾がなっていないわ」

「おー、じゃあ飼い主様にそう言っておくよ」

「…言えるといいわね。言っておくけどね、私はあなたなんていつでも殺せるのよ」

フードを被り直した女のローブには、均衡教徒である証の紋章がしっかりと刺繍されている。

女は懐から鏡を取り出すと、指先で鏡面をなぞりながら小さく笑った。

肌感覚で、後手に回ると自分が怪我をすると悟ったガーネは、女が仕掛けてくる前にと銃を向け発砲した。

射撃には自信があった。まして、対象は直立不動の女、比較的至近距離。

外すなどとは微塵も思っていなかったが、女に銃創は一切見当たらない。

「…は?え、ガーネ外した?」

「……わかんね」

「いやねぇ、だから言ったじゃない。あなたなんていつでも殺せる、って」

ぞわ、と全身に嫌な悪寒が走る。

「カルセ、防御魔法は」

「扱えますわ、…あの方の攻撃に耐えられるかはわかりませんが」

「とりあえずサイフィルとリルたち頼む」

「承知いたしました。ヴェルテ・イディグ」

カルセが防御魔法を展開するのを見届け、ガーネは再び女へ銃口を向けた。

しかしどうにも照準を合わせた感覚にならない。

間違いなく銃口は向いている。違和感を無視して引き金を引くと、いつもと同じように反動が腕に響く。

「…な……っんで当たんねーんだ、当たれよ!」

「嫌よぉ、痛そうじゃないそんな物騒なもの当たったら」

くすくすと笑う女の声に苛立ちが募る。

絶対に、あの鏡に仕掛けがあるとは確信出来るものの、肝心の攻撃が当たらなければどうにも出来ない。

「…!ガーネ様!『序列』持ちです!」

その異質な能力にカルセがいち早く気付き声をかけるも、女は気にした様子も無く鏡を翳した。

「やだ、その女……聖女?フーン、後で殺さなきゃ」

明らかに『今まで』相手にした連中とは質が異なる。

数を撃てばどれか当たるか、と試しに数発連続して撃ってはみたが、まるで手応えがない。

「あは、ねえ『ガーネ君』、弾の無駄遣いじゃない?その弾だって、あなたの飼い主様のところの税金でしょ?税金の無駄遣いする公務員なんて嫌だわぁ」

完全に舐めた態度の女に元々そんなに長くない気の方が先に限界を迎え、ガーネはすっかり据わった目つきになる。

「テメェ、温厚な俺を怒らせるとは随分舐めた態度取りやがるな」

「うーん?ねえ、温厚ってどういう意味か知ってる?知らないか、偽りの支配者の犬っころだものね。犬には躾が必要ね」

「──── ッ、…!」

ドン、と左肩に衝撃が走る。

状況を理解する前に激痛が走り、あまりの痛さに声が出ない。

声を出した方が幾分か楽になるのであれば、叫んでしまいたいくらいであった。

「…っが、ガーネ!」

サイフィルの声に痛む箇所を押さえると、手にべったりと血がついた。

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