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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第四十五章『残響』

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593話「長広舌」

「…………なんか、……ガーネ怖かった」

「お前はいつも俺が怖いだろうがよ。それに俺、『大それたことは何も言ってねぇ』だろ」

会談も『無事に』終わり、控え室に下がり少しの休憩を取った。

サイフィルがすっかり怯えた顔でガーネを見て小さく呟くと、相変わらずの様子でガーネが返答しディアマントが肩を揺らして笑った。

「確かに、ガーネは『何も言っておらぬ』な」

「えっ?あんなにいっぱい喋ってた癖に?」

「俺は『陛下に会談中の疑問を質問しただけ』だ。何回も言ってんだろ、『よくわからなくて』って」

「…まぁ、…そうですね。特務総監はただただ『ケーレイン公国と我がヴェルーティン王国の国土・農林畜産業・その他観光業まで含めて比較を提示』して、『あれ?じゃあなんで公国の無茶聞く必要あるんですかわかりません陛下』ってしてるだけですからね…」

侍従長ディーンも末恐ろしいものを見たような顔でソファに腰を下ろしてミモゼの淹れたアイスティーを飲むガーネを見つめ、視線が絡むと改めてサイフィル始め特務の面々へと視線を移した。

「…でもガーネくん」

「なんだスメイラ」

「余力、どのくらい残してたの?」

「…余力?」

「わたしは丁度陛下やガーネくんたちの正面…公国の後ろ側の入口付近で警備していたから、ガーネくんの指示で文官の人が配布した資料、触れることも無ければ視線落とすこともなかったの、見てるから。それに、陛下もヘルソニア様も…文官長も、ガーネくんが資料用意してたのご存知なかったですよね?資料見て『なにこれ?』って顔してたじゃないですか」

「あぁ。余力…余力、ねぇ。言うて俺は向こうのとんでも理論を一個ずつ懇切丁寧に噛み砕いて『なんでこんなこと言ってるんですかね教えて俺の可愛い女王様、ついでに俺に育成指導買って出てくださったケーレイン大公閣下』って並べただけだ。資料はただの添え物アイテム。余力も何も、これっぽっちも頭なんか使ってねぇよ。強いて言うなら『どういう順番で何をお伺い立てれば、一体俺にどんな御高説を下さるのか』と考えた程度だ。だって俺、政治なんて難しくてわからん新参者の無知な若造だし?ね、陛下」

「ふふ、本当に妾の犬はよく吠える。まだそのネタを擦るのか」

「結構、『陛下のご命令通りわからせて差し上げて』やったと思うけど?懇切丁寧に両国の現状を確認してその上で『なぜそんな要求してくるのかわかりませんけど?』って聞いてやってるんだ。あれでわからないならほんとにバカだよ、さすがにあんなでも一国の主だご理解いただいたんじゃねーかなと。…先代大公はこんなにバカな政治してなかったと思うけどな。代替わりしてまだ7、8年だろ?ちょっとそっち方面調べておくか、また喧嘩売られたらどう『わからせる』か事前に仕込んでおかねぇと」

改めてガーネがいつの間にか用意をしていたらしい資料に目を通していたヘルソニアが顔を上げ、隣のディアマントの顔周りの後れ毛を指先で弄るガーネを見た。

「私と陛下は、とにかく其方がこちらの陣営の男で良かったとつくづく思う」

ヘルソニアの言葉にガーネは小さく笑いながらディアマントの白銀のプラチナの繊細な糸のような髪を見つめてから先程公女の前で褒めちぎりまくった女の横顔を見つめて頬へ指を滑らせた。

「勿体ないお言葉ですー。新年拝賀で『ああ』だったからこそ『こうなる』んじゃねぇかなと思って『ちょっとだけ』事前に調べておいて良かったです」

「ですが、特務総監様…第2段から第5段まで資料、ご用意しておりましたよね…『ちょっとだけ』の内容ではないかと存じますが…」

ガーネから事前に資料を預かっていた文官の1人が思わず口を挟んで、ディアマントとヘルソニアはそちらへと視線を向けてから改めてガーネを見た。

「第2段以降は、なんなのじゃ」

「なにって、『アレ』で黙らなかったら『ハイじゃあ次、民衆の平均所得と税収について』っていう国民目線のものから、『なぜ帝国は独立を許したのか』っていう歴史の授業まで色々、せっかく公国の一番偉い人が来てるんだから、『教えていただこう』かと思いまして。後学のために」

「サイフィルじゃないけど、アンタそういうの癖なの?アタシ、アンタの尋問見てて毎回思うけど『情報吐かせる』ことを目的にしているようで単純に『答え合わせ』じゃない」

「だって喋らせて整合性チェックした方が効率いいだろ。事前に調べられることは調べて答え合わせして、違う内容と知らない内容を再度調べた方が圧倒的に無駄ないじゃん」

ラズリが『ガーネの怖いところ』を改めて目の当たりにしたような顔でスメイラへと視線を向けたのを見て、ガーネは興味が隣の『奇跡の美女』に向いた様子で話題を逸らした。

「大体、連中もどこでどう俺の女の好み調べてドヤってんのか知らんが『年上の女』って言ったってなぁ。公女22だっけ?ウチの小娘4000超えのもっとババァだぞ。これ超える年上美人用意してからせめて同じ土俵に立って見て欲しいよなぁ。あ、シェマードンの女王もエルフで年齢も陛下と同じかちょっと上くらいのかなりの美人なんでしたっけ?ははは」

「むっ!」

あっという間にむくれたディアマントの頭をぽんぽんと撫でてから軽くあしらうように笑って立ち上がった。

「さ、そろそろ帰りますよ陛下。いやーそれにしても、教官の『その顔』久しぶりに見ましたわ」

「ほんと。噂には聞いてたけど、いつもの優しそうな感じ皆無だったわ」

ラズリもすっかり『普段の顔』に戻ったエーリックを見上げてまるで知らない人を見るように眉を僅かに寄せた。

「どんな噂だよラズリちゃん」

「アンタが実は怖いって」

「うーん、俺の奥さんほどじゃないと思うけどな」

「いや、ヴィオリーさんの怖いのとアンタの怖いの種類ちげーから」

ガーネが思わずと言った顔で口を挟むと、ガーネに手を引かれたディアマントがガーネとエーリックを交互に見てからちょこんと首を傾げた。

「衛兵総監は怖いのか。ガーネとどっちが怖いのじゃ」

「なにお前、俺のこと怖いの?」

「ガーネは怒ったら怖いのじゃ」

「あー、『仕事の本気スイッチ入った』状態なら俺なんか比にならないくらいガーネの方が怖いと思いますよ陛下。説教されて怖い程度なんて、まだまだ優しいですよ。な、特務の面々」

エーリックが改めて特務へと視線を返すと、サイフィル筆頭に勢いよくかつ力いっぱい頷いた。

「でも俺、まだそんなガチモードになった機会ないけど」

「えっ」

「妾も!妾も見たい!」

「見たいって言われて見せれるもんじゃないんですけどね。あー、公国の連中がまだ俺に『側室として』みたいな舐めたこと言ってきたら叩きのめす用意はありますけど」

「むっ!そくしつ!」

「いらねーって。大体、俺じゃなくてお前が側室男妾囲う立場だろ。俺の立場だと側室なんて大仰なもんじゃなくてただの浮気だ」

「でもお前は性欲がアホのように強いのじゃ!本命がいても他で発散するのじゃ!悪い男なのじゃ!!」

「だから人聞きが悪すぎる。『俺』はそんなことしたこと一回もないし、俺の『気持ち』はお前が受け止めろっての。俺、お前がいいもん」

「あっ!もとかの!」

「えっ」

たまたま迎賓館への帰還準備のために馬車の点検や馬車寄せの様子の確認を終え、衛兵総監へ報告に戻ったエヴェリーサがディアマントの視界に入ってしまい、『そくしつ!』の煽りを受けて『もとかの!』になって被害を被ってしまった。

「いちいちエヴェリーサを見るなバカタレ!!帰るぞって言ってんだろが小娘が!!」

「もとかの!」

「お前は『今カノ』で『婚約者』で『未来の嫁』!」

「いまかの…こんやくしゃ……よめ」

あっという間に満足した顔のディアマントは、ガーネのエスコートで馬車に乗り込み、こちらも無事に迎賓館へと戻って行ったのであった。



馬車の車列の、中央の一際装飾が煌びやかな馬車の車内。

壁や窓枠には隙間なく金箔が施され、天井からは揺れる度にちりんちりんと音の鳴るクリスタルガラスのシャンデリアがぶら下がっている。

窓には何重にも折り重なった重厚なシルクのカーテン、端には金色のフリンジが隙間なく縫い付けられていた。

足元は靴が沈み込むほどの毛足の長さの毛皮の絨毯が床一面に敷き詰められ、座面は紫の上質なベルベット生地にこれでもかと金糸と銀糸で大柄な模様が刺繍されており、鋲留ボタンの代わりにカボションカットダイヤモンドが惜しげも無く使われている。

贅を尽くした馬車内で、小さく悔しそうに啜り泣く声が響いていた。

「こんな屈辱、初めて」

ペリドットのような鮮やかな瞳を涙に揺らして、アガーシィが繊細な刺繍を施したハンカチを握り締めた。

「お父様の嘘つき!あの方を…ガーネ様、私の夫にして下さるって仰ったじゃない!」

ポロポロと涙を零す愛娘の顔に、シェファレットとバルミューミュは困った顔で視線を絡ませた。

「……アガーシィ」

「お父様の嘘つき!嘘つき!嘘つきっ!!ガーネ様じゃなきゃ嫌です!!他の殿方なんてみんな霞みますわ!!なぜもっと食い下がって下さらなかったのですか!!」

「今日は、『少しタイミングが悪い』と判断したからだ。なに、然るべきときにきちんとお前を、あの男と結ばせてやる」

「そうよアガーシィ、今日はお父様の顔をお立てなさいな。そうだわ、お母様が新しいネックレスを買ってあげるわ」

「『あの女』!今日、ガーネ様が贈ったって新聞に載っていたアクセサリー付けていた!私もアレが欲しいです!!」

「わかったわ、手配しましょうね。ね?あなた。お金、用意して下さる?」

「可愛い娘のためだ、なんでも買ってやる」

「でもアレ、かなりの値段しそうですわ。アナタ大丈夫?」

「なに、民の税金を少し上げれば資金はすぐに作れる。金の心配などするな」

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