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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第四十五章『残響』

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592話「教えて女王様」

ディアマントが小さく息を漏らし、手元の資料に視線を落としてヘルソニアへと声を掛けた。

「ヘルソニアよ、どうじゃ」

「陛下のお考えに従います」

「文官長。お前はどう考える」

「は。私めも陛下のお言葉の通りに」

「ほう。ふむふむ。なるほど」

少しだけ愉快そうに笑みを浮かべたディアマントであったが、資料を数枚眺めるようにぺらりぺらりと捲って雑に机に置いた。

「貴国の顔料と鉱石の、本国への輸入の拡大及び価格の見直し。それと、妾の婚約者を差し出せと」

「差し出せだなんて、そんな」

シェファレットが妻のバルミューミュとちらりと視線を絡ませ、小さく笑いながらどこか小馬鹿にしたような顔をしながら肩を竦めて見せた。

「ディアマント女王陛下、勉強不足で申し訳ございません。陛下に教えを乞いたいのですが」

「……妾の婚約者が、妾に質問をしたいそうじゃ。よいか、大公閣下」

「もちろんでございます、女王陛下。必要があれば私からも彼に助言をしましょうか」

「そうですね、是非ご教示願いたいですね」

ガーネが口を開き、ディアマントへ声を掛ける。しかしそれを遮るようにシェファレットが口を挟んだが、ガーネは『外面満載』の笑みを向けて片手を上げた。

「侍従か文官。事前に渡した資料を皆様にお配りしろ」

「は、はい特務総監様」

ガーネの合図で一斉に資料が配布された。

ディアマントとヘルソニアはそのような資料があるとは事前に把握していなかったためか、少しだけ怪訝そうな顔をしつつそれを受け取り、シェファレットはガーネに『指導してやるか』と張り切ったような顔をしながら資料を開いた。そのタイミングでガーネは自分が配布を依頼し手元に置かれた資料を手に取ることも視線を落とすこともなく、真っ直ぐにシェファレットを見て口を開いた。

「公国の国土は大体600km²くらいか。で、国土のうち7割が崖地や岩地で農業・林業には適さず酪農や畜産も難しいが、鉱石や顔料などの資源については採掘可能で主な国の産業としてはそちらがメイン、そしてお若い大公閣下が統治し閣下で4代目と『勢いと若さのある国』……と。素晴らしい国ですね。対して我が国は国土が850万km²、土地も広大で明確な四季もあり、地域によって寒暖差や気候の違いは大きくあるがそれ故に土地ごとの特色を活かした産業で自国の経済も円滑に機能しているのか。なるほど。さて、今我々がいる東部…隣のゲルブ辺境伯が統治するこの王国東側地域では林業と畜産が盛んで、それを活かした特産もある。そして辺境の土地らしく『警備』に関しても女王陛下も何の不満も抱かない程に申し分ないのは、貴国が『一番ご存知』だろうと思います。それから別領にはなりますが、北東領地では綿や麻などの繊維原料収穫とそれを活かした布製品の産業がメイン。南ではエルフ国のシェマードン王国と国境が近いこともあり、薬草や魔法薬の生産が得意でその草花を活かした染物や酒造も担っている。西は砂漠地帯ということもあり、隣国メイジーエとの異文化交流によって特色のかなり変わった染物や織物、西ならではの畜産加工、それと大きな霊脈を有していることからそこの周辺のオアシスで栽培される特産の草花と霊鉱石があり、王都の西側地域では気候が安定しているお陰で穀物や野菜類の栽培が盛ん。反対の王都東側では四季折々花を栽培して観光地化も進んでいる。……そしてご存知かどうかは知らないが、俺が管理する北側領地は霊脈も魔脈も通っていることから希少かつ価値の高い鉱石が多く採掘される。加えて、地脈のお陰で国土北東から王都の北側に掛けて温泉が出るから観光地としても有名。まぁ今挙げたのは『ほんの一例』だが、我が国の食料自給率は98%以上。品目によっては180%を大きく超える、一例として南西地域が主な産地の穀物か。米やら小麦やら麦だな。貴国の主食、ウチの国から何%依存してましたっけ。あ、失礼。主食だけじゃないですね、この東側地域からは木や畜産物も輸入してくださってると、ありがとうございます。これで公国の紙製品や木工製品は賄えてるってことですかね。で、ウチは公国から鉱石や顔料資源を買っている。貴国では他どんなものがありましたっけ、国土の東側…ペイヅィケイレインとの国境近辺で石炭が採掘されましたよね。ですが国境問題で『公国側での埋蔵量』は微々たるもの、なんでしたっけ?それと養鶏……ああ、でもまだまだ自給出来るほどのものではない。広い養鶏場を構えるのは崖地や坂が多くて大変そうですし、そも飼料となる穀物が輸入依存だとなかなか定着もしないですよねぇ。ふーん、なるほど。まぁ国はウチだけじゃないですもんね、元々貴国が独立前に属していたペイヅィケイレイン帝国やらシェマードン、それとティエラルと近隣には資源も土地も豊かな国が多い。なら、貴国がそこまで『女が仕切っている』我が国がお気に召さないのでしたら、輸入出も取りやめても問題ないかとお見受けしますが?なんで『そんなことが言えたものなのか全く理解出来なくて』、すみません陛下稚拙な質問してしまって。俺は『新参者』なので、こんな政治の場での発言なんて難しくて皆目理解出来てないんです。あーあ政治って難しいな、女王陛下俺わかりません。…ああ、でも建前上『全くやり取りやめます』で体裁悪いなら公国サマに対しては関税率引き上げたらどうなるんですかね?だってウチは別に輸出しなくても生活出来ますし、気象問題で一部地域干ばつ被害があったティエラル共和国で我が国の穀物輸入量の増加の打診がありましたよね。余剰分買い取りたいそうですよ。ティエラルはウチの国に対してめちゃくちゃ友好的ですし、新年拝賀でもその様子公国はご覧になってると思うんで虚勢じゃないことはご理解いただけると思うんですよ。困った時は助け合いですしね、仲良くしてるティエラル相手なら『ウチが困ったことがあったら助けてくれる』と思うんですよ。つーことで商売相手はたくさんいますし、目の敵にされている相手と、向こうさんにも不愉快な思いさせてウチの優秀な辺境伯閣下にも軍事的な負担を強いさせることもないかと思います。なにより鉱石なら『俺の領地』が国で一番採掘量多いですよね、魔晶石も霊鉱石も含めて。あ、霊鉱石はオエィセと半々って感じですけど。それにしても自国で基本賄えるし、大体鉱石類なんて贅沢品ですし……ああ、顔料か。公国の顔料じゃなくても、先の会談で『とてもお世話になったメイジーエ皇国』なら破格で融通してくれるんじゃないですか?ついでに、そこまで手出ししてないだけで多分俺の領地からも顔料素材は採掘出来ますし。事業計画やら人員手配やら考えたら軌道に乗るまで俺の『本業の方』もあるので採算取れないと数年損しそうだし、現調しないとどんな顔料素材がどの程度土地に眠ってるのかも未知数なんでやっぱり反対隣のメイジーエに打診しましょ。多分スリラハ皇女なら『まともに』話出来ると思いますよ。……ま、俺は政治関与するつもりは微塵もないしこんな国家元首が並んだ会談の場に『婚約者としての挨拶』で隣に座らせていただいてるだけでおこがましいですからね。俺が話聞いてどうなのかなぁって『ちょっとよくわかんなくて』女王陛下に教えていただきたくって。ご聡明な女王陛下がご判断なさるのなら、我々は全て『陛下の御心のままに』動く臣下ですので。な、ゲルブ辺境伯」

「そうだなグリーチェウト特務総監。我が国はこの辺境の地も含め、敬愛する陛下の御心に従うまでだ」

「それと……なんでしたっけ、側室?それと公女の容姿ですか?一般的に見たら相当お美しいと思います。ただ、私も結婚適齢期なのでお気持ちはわかりますが……容姿と婚姻は分けて考えられた方が賢明かと存じます。あ、ついでにですけど、俺面食いなんですすみません。確かに『年上の美人』は好きですけどね、これ以上の『美人』なんてなかなかお目にかかれないと思いますけど。本人の自称だけじゃなくて、公称でも『数万年にひとりの奇跡の美女』ですよこの人。それでいてめちゃくちゃ可愛いですし、俺『が』ベタ惚れ過ぎて他の女見る余地これっぽっちも存在してません。陛下のことを愛しているので、新年拝賀でもお伝えしましたが『慎んでお断り申し上げます』」

シェファレットの口を挟む隙を与えずにあくまで『僕無知なのでわかりません』という体を取りたいらしい絶妙に雑なキャラ設定がブレた結果長舌の合間に猫被りが面倒になったらしいガーネの圧に耐えかねて、公国側はごくりと音を立てて唾を飲み込んで閉口した。

その様子にガーネが僅かにいつもの悪どい顔を見せながらゆっくりと立ち上がり、真っ直ぐにシェファレットを見据えてトドメの言葉を吐いた。

「セヴィムリ クラリチェミズィン ドゥョルト ビン ユル ドゥル ヒチビル イチ サヴァシュ チュカルマダン、コムシュ ウルケレルレ ウファク スュルトュシュメレル ディシュンダ ビュユク ビル サヴァシュ ビレ オルマダン ヨネッティイ ブ ウルケニン ギュジュ、サドゥク クッラル イレ ベニム『キュチュジュク』ゼカム ビルレシェルセ... ネレル オラビレジェイニ シムディ ハヤル エデビルディニズ ミ アジャバ? ビズ スィズィン ウルケニゼ スルトゥムズ ドゥネネルセ、サヌルム コムシュ ウルケレル デ ビジムレ アイヌ シェイ ドゥシュネチェクティル。ソウレミシュティム デイリ ミ、バシムズ ベラヤ ギレルセ ビゼ ヤルディム エデチェクレリニ ドゥシュニュヨルム ディイェ。 アイルジャ、バトゥダキ コムシュ ウルケ ビゼ カルシュ バシュヌ ビレ カルディラマズ。 ヘルハルデ ブ カダルジュク ビル ドゥルム アラシュトゥラジャク カダル ビルギニズ ヴァルドル、デイリ ミ? ソヌチュタ バナ ヨル ギョステレジェイニズィ エ エイテジェイニズィ" ソウレミシュティニズ。 ネイセ、ベン ペク アンラマム ボウレ シェイレルデン。 ポリティカ ゲレチェクテン チョク ゾル、デイリ ミ?」

『ケーレイン語』がわかるトーパスは、ガーネの言葉を聞いて耐えられずに肩を震わせそしてそれから隠しもせずに盛大に声を上げて笑った。

発言の内容そのものもそうであるが、『俺がこれだけ流暢に喋れるということは、自国の言葉でこの場でひっくり返そうと頑張ったところで全部筒抜けだからな』を暗に示したからである。

ディアマントたちはガーネの発したケーレイン語については全く理解は出来なかったが、真正面の公国元首大公シェファレットとその妻大公妃のバルミューミュ、娘公女のアガーシィの表情と『言い負かしましたけどご満足いただけましたか』とでも言いたげなガーネの表情に、勝ちを確信して腕を組んで口を開いた。


「我が国としての返答は妾が国家元首として返答する。妾の犬がせっかく吠えたのじゃ、お前たち公国が妾のことが気に入らぬのもよくわかった。……あぁ、妾は仲良くしたかっただけなのに残念で胸が痛む、とても悲しい、しばらくは枕を濡らす日々が続きそうじゃ。……文官長、関税率の引き上げの手続きを。……ああ、それと…気安く妾の寵臣を欲しがって手に入れられると思うな。『妾のモノは妾のモノ、お前たちのモノも妾のモノ』じゃ。妾の国を、…妾の臣下たちを甘く見るな」


後に、通訳を差し置いてのあまりに流れるようなケイレーン語に呆気にとられていた通訳から聞いた、ガーネの長広舌はこうだった。

『うちの可愛い女王陛下が4000年もの間国内で内乱も起こさせず、近隣国との多少の小競り合いはありつつも戦争も起こさずに統治してるこの国の国力と臣下、それと俺が『ほんの少しだけ』頭回せば……どうなるのか今、想像ついてくれましたかね?ウチが貴国にそっぽ向いたら多分、近隣諸国もウチと同じ考えしそうですけどね。言ったでしょ、ウチが困ったことがあったら助けてくれると思うって。それと、西の隣国はウチに頭が上がらない。さすがにその辺の情勢くらい、調べてますよね?なにせ俺にご指導ご鞭撻くださるとのことでしたので。ま、俺にはよくわからないですけど。政治って難しいですね』

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