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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第四十五章『残響』

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591話「戦の合図」

両国が着席し、ディアマントが中央に座すとその両隣にヘルソニアとガーネが腰を下ろしたそしてガーネの隣にトーパスが座り、ヘルソニアの隣には分官長が腰を据え、背後には会談中の警備責任者のエーリックが普段の温厚そうな顔を一変させ、ガーネ曰く『警察官時代は滅茶苦茶怖かった』を表す顔付きで、トーパスの軍総司令官と並んで立っていた。

ディアマントの正面には大公シェファレット・ケーレイン、ヘルソニアの向かいには大公妃バルミューミュ、そしてガーネの向かいには図ったように娘のアガーシィが着席する。


アガーシィは正面のガーネとほんの僅か一瞬視線が絡むと、にこりと薄く笑みを浮かべて小さく首を傾げた。

ディアマントは横目でその光景を冷ややかに見つめつつ、正面の大公へと視線を向けた。

シェファレットからのどこか挑発的な、まるでこちらを値踏みするかのような視線をディアマントとヘルソニアへ注がれ、それからゆっくりとガーネを見遣り、トーパスを見たところで一瞬眉が動き、それから隣の娘アガーシィへ父親らしい眼差しを向けてから、視線をディアマントへと戻した。

「それにしても今回は、特務総監殿もご同席ですか」

「『妾の婚約者として』貴国にこの男を紹介したかっただけじゃ。のう?ガーネ。ご挨拶せよ」

「はい。ご心配なさらずども、私は『政治的関与』をするつもりは一切ございません。私は議場の人間ではなく、隣のゲルブ辺境伯閣下と同じく『現場』の人間でございますので。それに、将来的に女王陛下の『王配』にはなりますが、だからと言って陛下と同じ立場になるわけではありませんので。私的には夫婦となりますが、あくまで私は一臣下です。そんな私ごときに発言力なんかございませんよ、はは。ということでよろしくお願いします。不慣れで無知なので『基本的には喋りません』ので」

「……そ、そうですか」


緊張した空気感の中で順当に交易についてや交通についての話が始まり、ディアマントとヘルソニアが中心となり会話をし、時折トーパスが『国境の領地代表』として返答をする。終始ガーネは黙って耳を傾けていたが、途中の休憩を挟んで会談が再開した頃合から明確に空気が変わり始めていた。


「ですので、我が公国原産の顔料の輸入枠を、是非拡大していただくべきかと」

「ふむ…」

ここまでただただ話を聞いているだけに徹していたガーネであったが、ガーネは一体何が『ですので』なのか理解出来ないまま、わざとらしく腕を組んで首を傾げた。

その様子を見て、大公が更に強気に鼻で笑った。

「おや、特務総監殿は『自分は現場』と事前に言い訳していただけありますな。なかなか素直でよろしいと存じますよ」

「恐縮です。何分無知でして。勉強になります、大公閣下」

「ハッハッハ、なに、貴殿は『若い』。大いに勉強したらいい。そうだな、『まだやり直しは利く』だろう。勉強するなら私が直々に指南してやってもいい」

「ハァ。勿体無いお言葉を頂戴いたしまして、恐縮です」

ディアマントの表情が冷ややかな笑みに変わり、ヘルソニアは肩を竦め、トーパスが喉の奥で小さく笑った。

「Достаточно резкие слова. Ты в порядке?」

トーパスに小馬鹿にされたように小声で囁かれ、ガーネは薄く笑みを浮かべた。特に返答はしなかったが、トーパスにはそれで充分であった。

『黙って見てろ』と、そう判断したからである。

「……どうかな、特務総監、いや『ガーネ殿』。聞けば、お母上はかの有名な『嚆矢の魔女』様…貴殿はその血筋であると」

「はは、まぁそうですね。当代と先代は、私の母と母方の祖母です。あ、あそこにぼんやり突っ立ってる真珠灰色の髪のが母です。その隣の金髪の小さいエルフが『終焉の魔女』です、今回は警備護衛で随行させております」

「…ご紹介に預かりました、ヴェルーティン王国第208代目嚆矢の称号を賜っております。リエーブ・ウェイシェイト・グリーチェウト。特務総監、ガーネ・ディーム・グリーチェウトの母にございます」

「アミュ・アティム・パシアフ。第188代目終焉の魔女。こっちは陽炎狐の『きつね』。アミュのかぞく」

「……これはこれは、ご丁寧に。あのご高名な魔女様と直接ご挨拶出来るとは、光栄です」

「そう。わたしたちは今回はあくまでも、女王陛下の護衛の任で同行しているだけでございます。わたしたちへのお声掛けは不要です」

リエーブが取り付く島もないような態度でいつものようにぴしゃりと返すと、ガーネの母へのゴマすりが失敗したシェファレットはあからさまに機嫌を損ねたような顔をして小さく舌打ちを漏らした。


「と、とにかくですね。貴国は女性社会を目指していらっしゃるのか、長らく女王陛下とご側近様で国家運営をなさっておりますが……ここで新しい風が必要かと思うんですよ。新年のご挨拶でもお伝えしましたがね」

「ふむ?それは、妾にこの男との婚約を破棄せよと申すのか」

「そこまで直接的には。もちろん、我が国としても彼程の男が婿入りして下さると心強い。貴国との繋がりもより強固なものになるでしょうな。ただ、まぁそうですね……『一応』、陛下にも体裁があるかと思います。折を見て我が娘を、彼の側室にでも。子を成せば双方の国の反映と発展に貢献出来るかと。うちの娘は、親の欲目ではありますが公国内でも『美人』と評判でしてね。ああ、君の『好みの女性像』……確か、年上の美人がお好きと。娘は今年22でね、丁度適齢期だしピッタリだと思うよ」

「……さようでございますか」

「この『ご縁』の架け橋として、我が国の顔料や鉱石の輸入について前向きにご検討いただければ」


そして、ディアマントの扇がぱちんと音を立てて閉じられた。

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